第5話 竜の親
「ガーゴイルは門番、言うなれば神社の狛犬のような存在であると認識されているかもしれません。昨今のゲームなどでそのような形で登場する機会が多いですから。しかし、それは誤解です」
『Dragon head gargoyle』の作者である山田 大蛇氏のアトリエにやってきた。自らをドラゴンアーティストと名乗るだけあって、アトリエは竜をモチーフとしていた。
遺体発見現場の竜は西洋の竜、ドラゴンを彷彿とさせるデザインだった。ゲームの世界の竜。火を吹き、勇者達の目の前に立ちはざかる竜。一方アトリエの方では日本の和の竜のように、鱗がびっしりと身体を覆い、蛇のように長く、雲を携えている竜だった。勇者など視界に入れる価値も無いかのような出で立ち。
一口に竜と言ってもこれだけイメージが変わるとは。美術品が持つ世界観には、時に圧倒される。あっと驚かされるものがある。
「竜も狛犬のような立ち位置であると言えるかもしれません。ある種の守り神、門番のような側面を持ちます。侵入者を追い払う、敵対者を遠ざける、毒素を払う、邪の心を消す。竜にはそのような能力が潜在的にあります。見た物を圧倒するような存在感があり、一目見ただけで忘れられない強い印象が脳裏に焼き付きます。形としての、そして精神的なガードマンとしての役割があるのです」
「山田さん、竜のお話はそこまでで……」
「そのような思いを込めて、あの作品を製作しました」
竜の身体のように長い遠回りをして、話は本筋に無理矢理戻った。
「刑事さんの考えている通り、あの
たとえば、ハンドソープディスペンサーのような、センサーに反応して液体を噴射するものではないという。竜の形をしたそのようなものを依頼され製作した過去はあるそうだが。
あのオブジェはただの石像。ただそれだけのもの、だと。
「では、あの竜のオブジェは何から何を守ろうとしていたんですか?」
侵入者?
敵対者?
しかし聞こえてきたのは予想外の言葉だった。
「雨ですよ」
「雨?」
「
その背中に物語を感じる人も居ます。と彼の口元は嬉しそうに緩んでいた。
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