①仲直りに言葉はいらない:キュン子視点

 私、キュン子!

 どこにでもいる、普通の女子高生!


 え? キュン子なんて名前、普通じゃない?


 大丈夫! キュン子はあだ名で、本名は別にあるから!


 今日は朝からどんより雨雲で、なんだかトラブルが起きている予感! キュン子、どうなっちゃうの~?


 ……とりあえず、傘は持っていこうね。途中で雨降ってきたら困るから。傘に入れてくれるような彼ピッピもいないし。

 くそッ、リア充爆ぜろ。


  ◯


 やっぱり、途中で雨が降ってきた。私は一人立ち止まり、傘を広げる。


 今頃、マイフレンド・ムネちゃんは彼氏と相合傘キメてんだろうなー。うらやま、ムカつく、早よ結婚せぇ。


「おはよー」


「……」


「……」


「何で無言?」


 予想通り、ムネちゃんは彼氏と相合傘で登校してきた。


 だけど、様子がおかしい。いつものラブいムードじゃない。


 ムネちゃんは素早くスマホを操作し、私に画面を見せた。


『ケンカ中』


 彼氏もムネちゃんと同じように、スマホの画面を見せてくる。


 彼氏のスマホにも「ケンカ中」の四文字が。でも、ムネちゃんと違って、続きがあった。


『昨日、学校からの帰り道に夢音(注:ムネちゃんの名前。ユメネと読む。ちなみに名字は土器河(どきがわ))とケンカしたんだ。何がキッカケだったのか、正直思い出せない。でも、夢音はすごく怒っている。「もう、口も利きたくない」って。俺も、昨日までは本気でそう思ってた。だけど……今は早く仲直りがしたい。夢音とどうでもいい話で盛り上がって、笑い合いたい。俺達、朝からひと言もしゃべってないんだぜ? びっくりだろ?(笑) 頼む。俺と夢音が仲直りできるよう、協力してくれ。このとおりだ🙇‍♂️』


 なっっっっっが!


 ムネちゃんが「ケンカ中」を打っている間に、そんな長文打ってたの?! タイピングのスピードにびっくりだわ! (笑)とか顔文字まであるし!


 そういえばこの男、文芸部だったっけ。そんだけ打てたら、立派な謝罪文が書けるのでは???


「……」


「だからって、私にまで無言にならなくてもよくない?」


 彼氏は無言のまま、目で訴えてくる。さながら雨の中、ダンボール箱に捨てられた子犬のよう。


 ……仕方ない。このキュン子様が、いっちょ仲直りの手助けをしてやりますか。


「しゃべらずに仲直りする方法、あるよ」


  ◯


 アドバイスを授けた後、私はムネちゃんと彼氏の様子を教室からこっそりウォッチングした。


 二人は見つめ合い、握手を交わす。それだけでは物足りなかったようで、校門からそそくさと離れると、傘で顔を隠した。


 おおかた、私が教えた「しゃべらずに仲直りする方法」を実行しているのだろう。傘で顔が隠れているとはいえ、大胆なことするなぁもう。


 でも、効果は絶大だったようで、いつものように手をつないで教室に入ってきた。


「仲直りできたみたいね?」


「うん! ありがとう、キュン子」


 私はキュン子。

 どこにでもいる、普通の女子高生。


 リア充は嫌いだけど、友人の恋はつい応援しちゃうのさ。


〈了〉

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仲直りに言葉はいらない 緋色 刹那 @kodiacbear

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