第4話

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぶっ殺す!!


溢れ出る殺意に身を任せるままに、一直線に大柄ゴブリンに接近する。


後数歩の距離まで近づくと、棍棒を手に持って立ち上がっていた大柄ゴブリンは、俺を叩き潰そうと棍棒を振り下ろす。その振り下ろしは角兎の飛び掛かりよりも速く、ギリギリ対応出来る速度だ。


何とか避ける事に成功すると、俺は大柄ゴブリンの脚目掛けて力の限りを込めた下段蹴りを放つ。下段蹴りを受けた大柄ゴブリンは堪らず膝を突く。


今までのゴブリンはどいつも一撃で殺せていたから、『ゴブリン特攻』がどれ程の効果があるのか実感が沸かなかったが、この体格差の上位種に一撃でここまでのダメージを与えられたのは嬉しい誤算だ。


これならこいつをぶっ殺せる!!


「死ね!!」


「ぐっ!!舐めるなぁ!!『衝波しょうは』!!」


俺の蹴りは確実にダメージを与えたが、当然一度の攻撃だけで倒す事など出来るはずもなく、続けて逆足の上段蹴りで追撃しようとする俺に対して、大柄ゴブリンは体勢を崩しながらも棍棒を持ってない方の腕で振り払った。


「ぐはっ!!」


本来なら大勢が崩れている時の苦し紛れの一撃など大した事ないはずだが、『衝波』というスキルを使われた事で予想外の威力が有り俺は吹き飛ばされてしまう。


おそらく『衝波』とは、近接攻撃の際に攻撃する部分に衝撃波を付与出来るのだろう。でなければ、俺が近づく前に使って遠距離から一方的に攻撃出来たはずだ。


スキルを加味しても、体勢が悪い事もあって戦闘に支障が出るようなダメージは負わなかったが、それでも無傷とはいかなかった。


例えどんなスキルを使ってこようと、俺に遠距離攻撃の手段がない以上、距離を詰めなければ勝機はない。俺は再び大柄ゴブリンに向かって突撃する。


さっきは『衝波』のスキルを持ってるなんて知らなかったから吹き飛ばされたが、一度見たからにはスキルを使われる前提で闘えばいい。


初撃みたいな威力のある大振りの攻撃じゃさっきと結果は変わらん。まずは小技で奴の体力を削る!!


俺は大柄ゴブリンの正面を避けるように立ち回りながら、ボクシングのジャブの様にコンパクトな打撃を繰り返し撃ち込む。


本来なら一撃一撃の威力は弱いが、『ゴブリン特攻』によって威力が底上げされている為、確実に体力を削れている。


大柄ゴブリンも棍棒を大振りしたり、腕や脚に『衝波』を付与して反撃してくるが、最初の下段蹴りが効いているのか、奴の攻撃はどれも最初の振り下ろし程の速度はない。


小柄な俺に対して大振りを続けても当たるはずもなく、逆に俺は小振りの攻撃を続けていると、遂に大柄ゴブリンの体がよろめいた。


その隙を逃さず中段蹴りを叩き込む。大柄ゴブリンは口から血の塊を吐き出しながら棍棒を手放して両膝を地面に着いた。


「これで終わりだ!!」


漸く殴り易い位置まで下がって来た大柄ゴブリンの顔に、俺は渾身の力を込めた拳を放つ。鼻の骨と歯が折れる感触を楽しみながら拳を振り抜くと、大柄ゴブリンは抵抗することなく吹き飛んで行き、そのまま起き上がる気配はない。


とはいえ死んでいる訳ではなく、浅い呼吸音が聞こえる事から起き上がる気力が無いだけだろう。


なんてしぶとい野郎だ。さっさと死ねば楽になるものを…


俺はトドメを刺そうと大柄ゴブリンに近づく。身体を起こす力すら残っておらず、意識も朦朧としているであろう大柄ゴブリンは、それでも尚俺を睨みつけていた。


「よう、睨む事しか出来ない気分はどうよ?」


「ぎ、ぎざま、ぜっだい、に、ゆるざんぞ、がならず、ご、ごろず!!」


歯が折れているのと、喉に血が詰まってて聴き取りにくい濁声で呪詛を撒き散らす大柄ゴブリン。


「はっ、てめぇに次なんてねぇんだよ…じゃあな」


呪詛を鼻で笑った俺は、仰向けに倒れている大柄ゴブリンの顔に体重を乗せた足を振り下ろす。すると顔に当たる直前に大柄ゴブリンから新しいスキルの名前を呟く声が微かに聞こえた。


「『鬼魂火きこんか』」


大柄ゴブリンの全身から赤黒いオーラが溢れ出し、踏み付ける直前だった俺の脚を身体ごと吹き飛ばした。何度も地面を転がり、壁にぶつかる事で漸く止まった。


痛む身体に鞭打って起き上がり大柄ゴブリンの方に視線を向けると、奴は先程の赤黒いオーラを纏った状態で立ち上がっていた。


ふざけんな!?さっきまで死にかけてただろ!?大人しく死んでろよ!!どこまで迷惑掛ければ気が済むんだ!?


客観的に見ればトドメを刺していないのに油断していた俺が完全に悪いのだが、俺の身体は責任転嫁が得意なんだ。都合の悪い事は全て他人のせいで自分は悪くない。


これがゴブリンの生態だからどうしようもないし、肉体に魂が引っ張られてるせいか、俺の心も微塵も悪いと思ってない。つまり奴が全て悪い。


そんな現実逃避をしていても現実は何処迄も追いかけてくる。大柄ゴブリンは叫び声を上げながら、ボロボロの身体とは思えない程の速度で俺に肉薄して来た。


背後は壁で後ろには避けられず、左右に避けるのも間に合わない。ならば前に出るのみだ。


大柄ゴブリンが上から振り下ろす拳を、俺も拳を突き上げる事で相殺しようとする。ドゴンッと重苦しい音を立てながらお互いの拳が弾かれた。


身体が後ろに流されそうになるのを気合いで抑え、再び拳を突き出すと、大柄ゴブリンも同じ様に拳を突き出してきた。


「があああああああああああ!!」


「死ね死ね死ね死ね死ねえええええ!!」


そこからは脚を止めてのぶん殴り合いが続いた。お互いに一歩も引かず、只々相手を殺す事に全神経を注いで拳を繰り出す。


防御の事は一切考えず、顔を殴られて意識が飛びそうになっても、腹に拳が減り込み吐きそうになっても、相手への殺意で意識を繋いで殴り続ける。


数十発もの拳の応酬を終えると、大柄ゴブリンは突然ビクンッと身体を痙攣させ、身体に纏っていた赤黒いオーラは収まり、遂に後ろに倒れ今度こそ起き上がってくる事はなかった。

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