第46話 親というもの

あのあと2人で少し早めの晩御飯を取り、家に帰ることにした。

「今日はとっても楽しかった。ありがとう碧くん」

「それは良かった。でもなんだか今日が終わってしまうのが勿体なく感じるね」

「そうね…でも碧くんが今日が終わって欲しくないのは別の理由なんじゃないの?」

「…」

そう言って舞はニッコニコの笑顔でこっちを見てくる。バレバレであった。

舞曰く、明日は両親へと会いに行くらしい。

舞が行くのは構わないのだ。しかし俺も同伴となれば話は違う。それはもはや両親へのご挨拶と何ら変わりないじゃないか!!

だからこそ俺は今日という幸せな日で閉じこもっていたいのだ。

…と考えていても時間は無慈悲に進んでいくだけ。いつか舞の両親へ会うことは必ず必要になるのだから、明日俺が同伴するのは仕方ないことなのである。辛い…


そうして家に帰り明日は両親の家へ向かうことを了承して早めに寝ることにした。

風呂に入り自分の部屋へと向かおうとするとリビングにいた舞に話しかけられた。

「ね、ねぇ碧くん」

「?どうしたの舞?」

「えっと…その…もう一つだけお願いしたいことがあって…その…今日だけ一緒に寝ない?」

「よし今すぐ部屋に行こう」

「えぇ?!即答?」

上目遣いしてお願いしてくる舞が反則的すぎる件について。この舞の上目遣いの良さだけで本1冊分は書けるでしょ。


まぁそれに舞と一緒に寝るのはこれが初めてでは無い。母さんが泊まりに来た時も一応一緒の部屋で寝るということはしたのだ。

しかし、お互いに恥ずかしすぎたので俺は結局床で寝ることにしたのだ。きっと、今日の舞はそんな事させてくれないだろうけど…

そうして部屋へと向かいベッドで横になる。

そうすると、同じように隣でベッドで横になっていた舞が突然抱きついてきた。

「えへへ」

そうはにかむ舞がとても可愛くて俺も舞のことを抱き締め返した。

「今日はありがとう碧くん。きっと、私が過ごしてきた人生の中でいちばん幸せな日だった」

「それはよかった。おやすみ舞、また明日」

「えぇ、おやすみ碧くん」

そうして舞の誕生日は終わりを告げた。


翌日、俺たちは早起き(舞は寝坊した)して舞の実家へと向かうことになった。

「…大丈夫だよね?家入った瞬間襲われないよね?」

「大丈夫だって言ってるでしょ…多分…」

「多分って全然大丈夫じゃないじゃん…」

そう思いながらも舞の実家への距離はどんどん近づいていく。

「ここよ」

そして着いてしまった…

舞が俺の心の準備を無視してチャイムを鳴らす。

そうするとインターホンから女性の声が聞こえてきた。

『今開けるからちょっと待っててね』

そうして中からトタトタと音が聞こえてきてドアが開いた。

「おかえりなさい舞。それと誕生日おめでとう」

「ただいまお母さん。それとただいま」

そうして舞の母親の視線はこっちへと向けられる。

「あなたが…そうね?」

「はい。舞さんとお付き合いさせていただいている水瀬碧と言います。それとこれをどうぞ」

そうして俺は買ってきた土産を渡す。定番だが失礼のない挨拶の仕方とはこういうものだろう。

「あらあらご丁寧に。碧くんねちゃんと覚えたわよ。中にお父さんもいるからとりあえず中に入りましょう」

…ここからがやはり本番である。

舞のお父さん。下手すれば身に危険が及ぶかもしれない…ないとは思うけど。

そうして舞のお母さん…姫川香里という名前らしいので香里さんと呼ぶことにする。

香里さんに連れられリビングへと行くと、体こそは一般的な体型ではあるが凄く圧が凄そうな男性がいた。

姫川真という名前なので真さんと…以下略


「来ましたよあなた」

「…君が水瀬碧くんだね?」

そうして真さんの圧のある視線がこちらへ寄せられる。舞への言葉はなかった。

そんな圧に耐えながら言葉を発しようとすると…

「いてっ?!」

舞からお父さんへのチョップがあった。なんで?

「お父さん、威圧するのやめて」

「ま、舞なにするんだ!それと誕生日おめでとう!」

「ありがとうだけどとりあえず碧くんに対して圧をかけるのをやめてちょうだい」

「あ、はい…」

「ごめんなさい碧くん、お父さん心配性だか──っていたっ?!」

そうして呆けていると次は香里さんから舞へのチョップがあった。

「こら舞、気持ちはわかるけどいきなりお父さんにチョップしたらダメでしょ?」

「は、はい。ごめんなさい」

これで姫川家の力関係は確定した。

1番上は香里さん、その次に舞、そして最後に真さんである…いやもしかしたら真さんと香里さんなら同等かもしれな──

「それとあなたも絶対に普段通りにするって約束したわよね?心配だからって睨みつけないの」

「はい申し訳ないです。すまないね碧くん」

以上姫川家の力関係であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る