第45話 過去とのお別れ

俺たちは今とある夢の国へと向かっている。

ほら…あの高笑いするキャラがいるやつ…

駅からはそう遠くないため歩いていくことにした。

周りを見渡してみると、目的が同じ場所であるかはわからないが男女のカップルが同じ方向へと歩いていたりする。

「東京ってこんな感じなんだね」

「私も昔に旅行で一度行ったことがあるだけだからなんだか新鮮」

「俺は旅行もあんまりいかなかったから…」

「ならこれからたくさん旅行に行けばいいんじゃない?」

「…そうだね」

そうしてどちらからともなく手を繋いで夢の国へと向かうのだった。


そして事前に取ってあったチケットを使い入場した。

俺も舞も基本的にゆったりすることが好きであるのでゆっくりできると思っていたのだが…

「あの…舞さん」

「どうしたの碧くん?」

「…さっきからジェットコースター系統が多くないですかね?」

「そう?そんなことはないと思うんだけど」

もちろん中にはゆっくりできるような乗り物に乗ることもあった。

…まあその時も舞が密接してきていたのである意味落ち着けていなかったのだが。

だとしてもジェットコースター系統に乗ることは多かった。特にこの乗り物なんて3回目。そんなにジェットコースターが好きなのかな…

ちなみにだが俺はジェットコースターが得意かと言われれば…

「ぎゃあああああああああああああああ」

「きゃあ~~~」

もちろん絶叫している方が俺である。こういう系苦手なんですよはい。

とはいえ隣でとても楽しそうにしている彼女を見てそれを言う気にはなれなかった。

逆になんで舞がそこまで余裕そうなのかが気になったので聞いてみたら。

「一夏に何回テーマパークへ連れていかれたかわからないからね…」

とのことだった。さすあいである。しかし舞も嫌で愛田さんと一緒に行っているわけではなさそうだった。まあ普段から男子からの告白とかが多くてストレスが溜まっていただろうし、その発散としては一番良かったのかもしれない。


「ねえ碧くん、次はあれに乗りましょう」

「え、どれ?」

そうして俺は舞が指さしている方向へと視線を向ける。

そうしてその先にあったのは――

「無理無理無理無理。あれだけは無理」

舞が指さしていたのはこのテーマパーク史上最恐と言われている落下する乗り物だった。低い高さから落ちるとかならまだいけるのだが高さを見た瞬間絶対無理だなと確信した。

「あれ、てっきり碧くんって絶叫系が得意なのかと」

「…正直に言うとめっちゃ苦手」

「そうなんだ…ごめんなさい無理に付き合わせちゃって」

そうして舞は少ししょんぼりしてしまう。こうなってしまうから言いたくなかったというのもある。もちろん絶叫系は怖い。けど普段の舞から想像できない程はしゃいで、あれだけ乗りたそうにしている舞を目の前にして断るという選択は俺にはできなかった。

「よし。舞、あれに乗ろっか」

「えっ、大丈夫なの?無理しなくても…」

「うん大丈夫。舞の前だからかっこつけたいしさ」

「あははなにそれ…本音出てるし…でもありがとう碧くん」

そうして俺たちはこのテーマパークで一番高い建物へと向かった。

ちなみに結果だが俺は怖すぎて舞の腕に抱き着いていた。

そのあと舞は少し笑ってしまっていたので少し恥ずかしかった。


そうしてそのあとも遊び倒した。昼食を取りまた乗り物へと乗った。

全部を回れたわけじゃないと思うがだいぶ遊びつくしたと思う。

そうして流石に二人ともつかれたのでベンチに座って休憩を取っていた。そのときだった。

「あれ?おいおいあれって水瀬じゃね?」

そんな声がした。もしかしたら高校でのクラスメイトかもしれない。そんな期待をしていた。頭の中ではその声の持ち主が誰かなんてわかりきっているのに――

「ほらやっぱり水瀬じゃん」

「…久しぶり佐野君」

俺に声をかけてきたのは佐野健だった。後ろにはプールの時に見た男子もいた。

どうやらクラスメイト?と結構の人数で来ているらしく、周りには女子の姿も見えた。

舞の誕生日だというのに運がない。なぜここで会ってしまうのだろう。

なにかよう?って聞こうとした。けれどあの時と同じで声が出なかった。

「あれ、そっちにいるのはあの時の女の子じゃん。なに?まだこんな男と一緒に居るの?それともなに?付き合ってるわけ?」

「そうだけどなにかしら。あなたたちになんの関係があるの?」

そうして口を開くのは舞。舞も記憶に残っていたらしく相当苛立っているようだった。

「おー相変わらずだなー。実はうちのクラスメイトってそんなに顔よくなくてさ。やっぱり君俺たちと遊ばない?」

前も断られたというのになぜまだ可能性があると思っているのだろうか。

俺も苛立っているので言い返したかった。けれど自分がまだビビっていることにも気が付いてイラついていた。

一度考えたことはある。もし舞が俺の側からいなくなってしまったら俺はどうなるのか。以前のように戻るか?否、きっとそれよりもひどい状況になってしまうだろう。

それなのにその彼女が口説かれているのに黙りこくっているだけ?馬鹿なんじゃないのか。そう頭では思っているのに過去のことが足を引っ張るのだ。

お前は弱い。何もできない。邪魔者でしかない。

過去の俺がそう頭の中でつぶやく。けれど俺はもうそんな過去には負けたくなかった。舞と出会ってから変わることがいっぱいあった。

初めての友達が出来て、外に出かける機会も増えて、ファッションをかじってみたり。そんなどの状況にも舞が関わってきた。

そんな舞を失うのは嫌だった。これ以上舞にかっこ悪いところを見せるのは嫌だったのだ。


「――れるかな」

「あ?」

「今は舞とデートをしていたんだ。邪魔をしないでくれるかな」

「なんだよお前急に。さっきまで黙ってたくせに」

「自分の彼女が隣でナンパされているんだから黙っているわけないでしょ」

「彼女…なあ…釣り合ってないと思うけど?この前までずっと下向いてたやつがなんか調子乗ってるのうぜえわ」

「まあはっきり言って中学のときの俺はあれだったからね。けどそんな俺でもよかったと思ってるよ」

「は?何言ってんの?」

「もちろん関係ないのはわかっているけど、もし昔の俺がああじゃなかったら舞とは出会わなかったかもしれない。こうして恋人の関係にはならなかったかもしれない。そう考えたらあんな過去でもいいと思ってる」

実際はどうかわからない。けど、もしあんな過去だったから舞と一緒に居ることができているのなら過去には感謝しないといけないかもしれない。だってこんなに素敵な女の子と出会わせてくれたのだから。けれどもう今日で過去とはさよならだ。

「これからも舞の側で俺は頑張って変わり続けていく。だからもう過去なんてどうでもいいし君たちのことだってどうでもいい。ただの元同級生としか思わないし」

「碧くん…」

「もう後悔するような生き方はしないって決めたから。それじゃあね。行こっか舞」

「え、あ、うん」

「あ、おい待てよ!」

俺は舞の手を引っ張ってその場から去る。後ろから怒声が聞こえてくるが全てを無視する。状況的には結局佐野からは逃げたことにはなる。けれどなぜかすっきりしていた。舞からも不安の色が取り除かれていた。もう大丈夫だろう。


「ごめん舞。せっかくの誕生日なのにこんなことになっちゃって」

「そうね。最後の最後で誕生日が台無しになっちゃったわね…けど構わないでしょ?」

「…?」

「また来年、再来年。これから碧くんにはずっと祝ってもらうんだからこういうトラブルがあってもおかしくないわよ」

そうしてよみがえるのは朝に交わした会話。

『ならこれからたくさん旅行に行けばいいんじゃない?』

舞の言うとおりだった。舞が離れていってしまうことを心配していた自分がバカらしくなってきた。確かに今日の誕生日が最後で悪い方向へと行ってしまったのは申し訳ないと思うし残念に思う。

けれど来年も再来年もその先も…舞はきっと隣に居てくれるから。

来年は今年よりもさらに幸せにできるように。その次の年はさらにさらに幸せにできるように頑張ろう。

「だから大丈夫だから。今気にすべきことはあなたのことよ」

そうして舞は俺のことを抱きしめた。正確には俺が抱きしめるような形だがそんなことはどうだっていいだろう。

「よく頑張ったわね碧くん。本当にお疲れ様」

「っ!…うん、ありがとう舞」

そうして俺と舞はどちらからともなく唇を重ねた。

周りはカップルだらけ。だからここで俺と舞がキスをしていても周りもあまり気にしないだろう。まあ確かに公共の場でキスをしているのは少しダメだったかな?

けどきっと大丈夫だろう。だってここは夢の国。少し特別なことをしてもきっと許されるはずだから――


「あのさ舞…タイミング的には今な気がしてさ…」

そうして俺は自分のカバンからある包を出す。舞への誕生日プレゼントだ。

「改めてお誕生日おめでとう舞。まだまだな俺だけどこれからもよろしくお願いします」

「ありがとう碧くん。そしてこちらこそ。ねえこれって開けていいの?」

「うんいいよ」

そうして舞は包を綺麗にはがしていく。そうして中から出てきたのは――

「イヤリングと髪飾り?」

「うん…ごめん俺どういうの渡したらいいかあんまりわかんなくて愛田さんにアドバイスをもらってリップを買ったんだけど…なにか思い出に残るものが欲しくてさ。素材を買って髪飾りを作ってみたんだ」

「作ったの?!」

「うん‥どうかな」

「…とっても素敵。つけてみてもいい?」

「どうぞ」

そうして舞はイヤリングと髪飾りをなれた手草で耳と髪へとそれぞれ付けた。

「…どうかな?」

「うんやっぱり思った通り。とっても似合ってるよ舞、きれいだ」

「そ、そっか…これとっても大切にするわ」

そう言って舞はとびっきりの笑顔を見せる。この前最大の笑顔を更新したばっかりだというのにそれを上回るようなとても可愛らしい笑顔。

きっとこの笑顔を見れるのは来年も再来年もこれからもきっと俺だけ。

だってこれは舞が俺だけに見せるとってもとっても甘くて、まるで愛を示すような笑顔なのだから――

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