第44話 誕生日当日
今日は12月13日。まあつまり舞の誕生日当日である。
朝出るのが早いということで俺たちは早めに寝た。
…まあ俺はなぜか緊張して寝付くことが出来なかったのだが。
0時まで起きて舞のことをいち早く祝いたかったのだが…
『それで明日寝不足になってしまったら意味がないでしょう?大丈夫、明日の朝までスマホは見ないから』
とのことだった。つまり俺が舞のことを祝うために0時になったらくるであろう愛田さんなどからのメッセージを一旦スルーしてくるということだろう。
舞さんは相変わらずの優しさであった。
出来る限りあちらで遊びたいので夜行バスで向かうというのも考えたのだが、舞がそのことを否定したので却下ということになった。今回は舞の意見が最優先である。
…いつもも舞の意見ばっかり優先していることは置いておこうか。
そうして朝になり準備を始めることにした。まあ朝と言ってもまだ5時過ぎくらいなので外はまだ暗い。時間的にもそろそろ舞も起きるべきだろう。
相変わらず寝起きの悪い舞のために部屋に向かい、舞のことを起こす。
「まだまだ今日はこれからだけどとりあえず。舞、誕生日おめでとう」
「ありがとう碧くん」
舞がとびきりの笑顔を見せてくれる。入学したころに見た舞の姿からこのような笑顔が想像できるだろうか。最近はさらに舞の笑顔が増えて学校の男子どもが次々に倒れてるのだとか。
「えっとその…今日は私のわがままを碧くんは聞いてくれるのよね」
「まあ俺のできる範囲なら。というか別に今日だけじゃなくても聞くけどね…」
「ふふふ。でも今日わがままを聞いてもらえるからこその特別だってあると思わない?」
舞はきっと特別を大切にしたいのだろう。特別な日、特別なこと。それを好意を抱いている相手と過ごしたりするのはきっとお互いに初めてだろう。
だからこそ俺も特別を大切にしたいという気持ちはある。
…けれど俺的にはもうちょっと甘えてほしいと思っていたりもして。
「えっと…それじゃあ…抱きしめてもらっていい?」
「…うんもちろんだよ」
そうして俺は舞のことを抱きしめた。普段甘えることが少ない舞が今甘えてきたことで少しびっくりはしてしまったが。舞が甘えてくれること自体はとても嬉しい。
何秒経ったかはわからないが舞から体を離す。その時少し残念そうにしてる舞がとても可愛くてもう一度抱きしめたくなった。
「とりあえず準備しよっか舞」
とはいえ時間にも制限がある。舞と一緒に向かう先――東京で長く遊ぶなら余裕をもって行動したほうがいいだろう。
とはいえ舞と一緒に居たい気持ちはもちろんあるので二人で一緒に準備はすることにした。東京へ行くとはいえあちらに泊まるわけではない。
日帰り旅行のようなものだと思っていい。
そうして二人して準備を終え並んで家を出る。
あらかじめ新幹線のチケットは取っているのであとは駅へと向かうだけである。
寒いからと理由をつけて手を繋ぎながら駅へと向かう。
俺は相変わらず舞に選んでもらった服ではあるが、舞はいつもよりもさらにお洒落に感じる服を選んでいた。
「えっと…似合ってるよ舞。すごくきれいだ」
「そ、そう?碧くんがそういってくれるなら大丈夫ね。ありがとう」
もしかしたら気合を入れ過ぎたかもだなんて舞なら考えていたかもしれない。
でもそれでもいいだろう。気合を入れた舞はこんなにも綺麗で可愛いのだ。
気合を入れないなんて損だろう。
そうして人の少ない道や新幹線の中でいつも以上にいちゃついていた俺たちは無事に東京へと到着した。
基本的には舞が行きたいところへ行くようにはしているが、ご飯を食べるところなどは俺が決めていた。舞を楽しませると決めた以上それぐらいは頑張らないとな思ったのだ。
そうして俺と舞はいつものようなファミレス…ではなくその近くにある少し高級そうなカフェへと入った。事前にこの場所は調べており、店の雰囲気は高級そうではあるもののいつもより少し高めと感じるぐらいの値段だということは知っていた。
「家出るときに特に何も食べてこなかったしここで朝食でも食べていこうか」
「ふふ…そうね」
きっと舞には俺が事前に入念に調べていることなんてわかっているのだろう。
それでもきっと舞はリードが下手な俺のことも見守ってくれるはず。
それがなんだかおかしくて2人して笑い出す。
この時間が本当に楽しくて、ずっと続けばいいと思った。
俺と舞は、そのカフェで朝食セットというものを頼んだ。トースターにコーヒー、さらにちょっとしたデザートまで着いてくるセットだった。
そして2人で談笑しながら食べていると…
「にがっ」
と、舞の方から声がした。
何事かと思って見ればどうやら舞はブラックコーヒーを飲んでその声を出したらしい。
「砂糖とミルクあるよ?」
「…いや、入れなくて大丈夫」
「…?」
「これが碧くんの好きな味なら私も好きになりたい」
そう言って舞はまたブラックコーヒーを口にする。
「なにそれ…ふふ」
そうしてまた笑みがこぼれる。
「なら俺も舞の好きな味を知ろうかな」
俺はメニュー表を見て、すごく甘そうなパンケーキを頼む。そうして食べてみると…
「なにこれ甘っ!」
想像以上に甘かった。それでも舞はこういう味が好きなんだなと思いつつ噛み締める。
ゆっくりと食べ進めていると舞がパンケーキに視線を奪われているのが目に入った。
「…舞も食べる?」
調子に乗って頼んでしまった俺だが、意外とパンケーキの量が多くて1人では食べきれそうにない。
舞が頷いたのでパンケーキの皿を舞側に寄せたのだが…
「…」
舞は食べようとしなかった。
舞の方を見ると少し恥ずかしそうにしながら俺のフォークを見ているのがわかった。
「もしかして食べさせてほしいの?」
「っ!…」
そうして舞は小さく頷いた。
「ふふ…今の舞とっても可愛いよ」
そう言うとまた舞の顔が赤くなる。
「い、今は可愛い禁止っ!」
そう言って舞は俺が差し出したフォークに噛み付いた。その瞬間今までの出来事がなかったように舞が笑顔になった。
パンケーキは俺からしたら相当甘かったが、やはり舞からしたら好みの味なのだろう。
だから俺はしっかりと味わって食べることにした。
量が多いと思っていたパンケーキも2人で食べることで意外と直ぐに食べ終わることが出来た。
…まぁ舞がほとんど食べたのは内緒にしておこう。
そうして俺と舞はもう一度手を繋ぎ直してある場所へ向かう。そうだまだまだ今日は始まったばっかりだ。これから俺と舞はとある夢の国へと遊びに行く。
このまま何事もなく終わってくれることを祈るばかりだ…
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