第43話 誕生日に向けて
愛田さんにアドバイスをもらい、舞への誕生日プレゼントを買い終えることはできた。しかしながら母さんからもらった費用のほとんどが余ってしまっている。
もちろん、それを舞とのデートに使ったりするのもありなのだろう。
しかしながら…
「できるなら派手にやりたいよなあ…」
それが俺の考えだった。
「…水瀬くん、誕生日を盛大に祝うカップルは別れやすいらしいよ」
「そんな不謹慎なこと言わないでくれる??」
独り言のつもりだったのだが、聞こえていたのか八幡くんが話しかけてきた。
盛大に祝ったら別れやすいとか本当にあるの?なんで?
「まあでも派手にやりたいって気持ちはわかるよ。きっと姫川さんは水瀬くんの人生に色を付けていってくれる人だろうからね」
「八幡くん…!」
「だからこそ僕も愛田さん色で人生を染める必要があると思うんだ」
「…そうだね」
八幡くんにしてはすごくいいこと言うなと思ってたのに…
どうやら八幡くんの脳内には愛田さんで埋め尽くされてるらしい。
学校が終わった後、家に帰宅して舞の誕生日について考えることにした。
それで考えてみたのだが…
「同じ家に住んでるからサプライズは難しくないか?」
ということであった。舞と俺は帰るところも寝るところも同じ家であるので、リビングに派手に装飾するというのは難しいように思える。
「さてどうしたものか…」
当日に準備が終わるまで外に出てもらう?いやそれは論外だ。
舞を外で待たせるわけにはいかない。
だとすると…
「舞が寝てる間か…」
舞が寝ている間。そう夜中。その時間に準備するのが一番適しているだろう。
多少寝不足にはなるだろうが、盛大に派手にというのは達成できるんじゃないだろうか。
「…よし、そうと決まれば装飾品とか準備しないとだな」
そうしてゆっくりと準備していたのだが…
「ねえ碧くん…なにか無理しようとしてない?」
「え?」
なぜか舞にバレた。いや、バレているのかはわからないが俺が何かをこっそりしていることは確信しているようだった。
「…ねえ碧くん、なにをしようとしていたか話してくれない?」
「い、いやそれじゃサプライズの意味は…」
「話して」
「ハイ」
舞さんの圧は健在であった。
そうして俺は舞に、盛大にやりたかったので夜中を使ってでも頑張ろうとしていたことを話した。
「そう…確かに盛大に祝ってくれるのは嬉しいことかもしれないわね」
「で、でしょ?だから――」
「でも私は、碧くんが無理をしないでいてくれる方がもっと嬉しい」
「――!」
「碧くんが私のことを思ってくれるのはもちろん嬉しい…けどそれで碧くんに負担がかかったりするのは嫌…」
「そっか…」
「…だからそんなに無理しなくていいから。私は誕生日の日に碧くんと一緒に居れるだけで幸せだから」
相変わらず俺は舞のことをなんもわかっていなかったようだ。
舞は俺と過ごせさえいればいいという考え方だった。
つまり盛大に祝いたかったのはおそらく俺自身の自己満足だろう。
盛大に祝いたいという気持ちがなくなったわけではない。
けど無理に盛大に祝う必要性はないのだろう。
だってそれが舞本人の意見だから。
「ねえ舞」
「なに?」
とはいえ母さんからせっかく多めの費用をもらった。
別に祝うのはこの家じゃなくてもいいのだ。
舞は俺に無理をしないでほしいと言った。
ならば俺が無理をしない盛大な祝い方なら問題はないだろう。
「誕生日の日に遠くに出かけない?」
少しの間沈黙が続いた。
「…え?」
「いや、だからさ…舞さえよければなんだけど。少し遠くに出かけてデートしない…?」
少し遠くへ出かける。それを誕生日の日に行うことで特別になるのではないかと考えた。
俺たちが住んでいるのは愛知県。少し遠く…できれば東京らへんに行きたいところである。
俺が遠くに出かけようなんて言ったことに驚いた舞が慌てて質問をしてくる。
「いやでもそんなお金…」
「…実は母さんが――」
それからすべてを話した。誕生日のことなのに秘密にしなくていいのかとかは思ったが信じて納得してもらうにはこれぐらい必要だろう。
「朋美さんが…私なんかのためにそこまで…」
「舞はなんかじゃないからだよ。俺にとっても母さんにとっても舞は大切な人だよ。だから――」
「いえ、今のは私が悪かったわね。大丈夫よ、碧くんや朋美さんが私のことを大切にしてくれていることはよくわかっているつもりだから」
「そっか」
「うん。まあとりあえず誕生日の日は少し遠くの県まで連れて行ってくれるって言うことでいいのよね?」
「まあそうだね」
「そう。なら楽しみにしてる。親以外の人と遠くへと出かけるなんてもしかしたら初めてかも」
「そう言われると緊張するし責任感もあるなあ」
「ふふ。でも本当に楽しみ。誕生日が待ち遠しいなんて気持ちになるのも初めてよ」
「初めてだらけだな」
「そうね。碧くんと出会ってからたくさんの初めてを過ごしたわ。だからこれからも私に初めてをちょうだいね?」
「ああ、もちろんだよ」
そうして着実に誕生日の準備は進んでいく――
「あ、そういえば誕生日の日の翌日なんだけど。私の両親が碧くんに会いたいって」
「――へ?」
「…まあがんばって」
いつか来るのはわかっていたがこのタイミングか…
舞の誕生日が待ち遠しいという気持ちはあるのにその日の次の日に進みたくない…
そんな俺の悩みが解決することはなかった。
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