第38話 冷やかしと愛情
「母さん?!」
「朋美おばさん?」
俺は母さんが訪ねてきた理由を考えるのだった。
「な、なんで母さんが…?あっ!」
「…まさか」
「そういえばこの前に舞と交際し始めたことを伝えた時になんかこっちに来るとかなんとか…」
そう。舞と交際を始めた日…文化祭の日に母さんにそのことは伝えていた。
その時は母さんは…
『あ、やっと付き合い始めたの?もうベビーグッズ用意したほうがいい?』
『何言ってるの母さん?!』
こんな感じだった。母さんが変なことを言ったせいで気が動転してしまい、そのあとの母さんの話をしっかりと聞くことができていなかったのだ。
「いや、そのね?ごめんなさい」
俺は正直に事情を舞に説明して謝った。
「はあ…やっぱりそんなことだろうと思った。まあ今はそれはいいとして、私たちが同居していることを朋美おばさんにバラしてもいいものなのか…」
「でも隠せる気がしないんだけど…」
母さんは俺の寮の場所を知っているので今ここにいる。そしてその寮にいるのは舞と俺のみ。母さんも寮での同居者が一人であることは知っているので隠し通すことは無理だろう。
「はあ…まあ諦めましょうか」
「そうだね…」
そうして俺と舞は玄関へと向かい扉を開けるのだった。
結果は散々だった。
扉を開けて、俺と舞の姿を見て全てを察したのだろう。
めちゃくちゃに冷やかされた。
二人での生活はどうだの。付き合ってからは家でずっとイチャイチャしていたのかなどなど。少なくとも今すぐに母さんを追い出したくなるぐらいには冷やかされたのだった。
「にしても、碧と舞ちゃんが寮で同居してるなんてねえ。流石の母さんもびっくりよー」
「その割にはだいぶ落ち着いてるように見えるんだけど…」
「そりゃもう舞ちゃんが碧の同居者なら心配することなんてなくなるからねえ」
まあ否定は出来なかったりする。舞はまれに謎のセンスのなさを発揮するが、料理はできるし洗濯物だって掃除も完璧なのだ。まじで俺にはもったいないくらい。
と、ここでさっきまでふざけたように話していた母さんがとても真面目な顔になった。舞もそれを感じ取ったのか背中がピンと伸びている。
「それじゃあ舞ちゃん、これから碧のことをよろしくお願いします。
碧は私とあの人のせいでとても苦労してきたわ。友達だって居たのに碧はその子たちのことすら信用できなくなってしまった…いいえ私たちがそうしてしまったわ」
「母さん…」
「だから舞ちゃん。これからの碧に幸せな日々を送らせてあげてほしいの。もしかしたら碧は迷惑をかけるかもしれないし、ダメな部分も見えてくると思うわ。けどそれでも舞ちゃんさえいいのなら碧を大切にしてほしい。この子は誰よりも優しい子だから…」
そう母さんは舞にお願いをする。
(…やっぱり母さんは変わらないなあ)
ずっと優しかった母さん。それは今も変わらない。
周りを信用できなくなった俺でも母さんだけはずっと信用することが出来た。
そりゃそうだろう。これだけ息子を大切にしてくれる母なのだ。
嫌いになったり、怖くなったりするわけがない。
「もちろんです朋美おばさん。私はずっと碧くんに助けてもらっていました。だから今度は私が全力でその恩を返します。必ず碧くんを幸せにしてみせます」
俺は本当に恵まれているなと改めて思う。こんなに俺のことを大切にしてくれる恋人だっている。これで恵まれていないなんて言ってしまうと本気で怒られそうだ…誰に怒られるのかは知らないけど。
そして少しの沈黙が続いた後、舞が口を開いた。
「だから、碧くんを私にくださいお義母さん!」
「「え?」」
「えっ?あっ」
…最後の最後に舞がぶっこんできた。舞の気持ちは十分に母さんに伝わっていただろう。でもまさかまるで結婚挨拶のようなことを言い出すとは思わなかった。
そして舞も状況を理解したのか一気に顔が真っ赤になった。
「い、今のは忘れてください!ま、まだ早かったですよね」
そうは言うが母さんの顔はどんどんにやけていっている。
「いやぁいいのよ~?高校卒業したら早速結婚しちゃう?舞ちゃんだったら碧のことも任せれるわねー」
「ちょ、母さん?!そんなお金はないし高校卒業だったらまだ俺は職に就いてないよ?!」
「大丈夫よ?碧は覚えてる?」
「なにが?」
「あの人から送られてきたお金は碧が幸せを見つけた時まで置いておくって」
「あっ」
そういえばそんなことを昔に言われた気がする。
「え、じゃあまさか…」
「ええ、別に高校卒業してからすぐ結婚することもできるわよ?」
「 「?!」 」
「いや…その…碧くんがいいなら私は…」
そうして舞が人差し指を突き合わせながらこちらを上目遣いで見てくる。
(まじでそれ反則的なんだよなあ)
…でも結婚できるとはいえ流石に早いだろう。
「もちろん俺も舞と結婚したいっていう気持ちはあるけど…でも、俺がしっかりとした職に就くまで待ってほしい。結婚指輪だって自分のお金で買いたいし…」
「碧くん…」
「あらあら、青春ねえ」
「誰のせいだ!」
高校生の時点で結婚話とかまじで恥ずかしすぎる。
なんかあれだよね、中学生カップルってなぜか赤ちゃんの名前決めだすよね。
あれよくわかんないんだけどなんでだろう。まあただ今の状況として俺と舞はバカップルと言われも仕方がないレベルである。
「まあそれに孫の姿だって私は早く見たいわ~。だから碧、あんまり舞ちゃんを待たせちゃだめよ」
「…わかってるよ」
「そういえば舞ちゃん、もしかしたらだけどそろそろ碧も会うべき人が居るんじゃない?」
「あっ、そうですね。この前実家に連れてきてほしいって言ってましたね」
…嫌な予感しかしないのだが。もしかしなくても…
「あの…一応聞くけどその人って…?」
「両親よ?」
「ですよねー」
うん。なんとなくそんな気はしてた。そうだよね、俺も舞の両親と会う機会はあるよねー。とりあえず今のうちに土下座の練習はしておかないとまずいかもしれない。
「…大丈夫よ。お母さんもお父さんも優しい人だから」
「まあ、舞がそういうのなら…」
「…まあ私がストーカーされたときはその子の家に車で突っ込もうとしてたけど…」
「うっ…急に体調が悪く…ごめん舞、舞の両親に会いに行くのは無理かもしれない…」
「いやまだ日にちも言っていないのだけれど…」
まあ後で絶対に人を怒らせない方法100選でも見ておこう。いや人を怒らせない方法100選ってなんだよって話だけどね。
「それで、母さんは今日は泊まっていくんだっけ?」
「ええ、そうね。まあ私はリビングでもいいから…」
「いやそれは悪いし俺がリビングで寝るよ。だから母さんは俺の部屋で寝なよ」
「うーんそれなら碧と舞ちゃんが一緒に寝るって言うのは?」
「 「え?」 」
「だってこの三人だと誰かをリビングで寝かせるって言うのはあまり気が進まないと思うのよね。だから碧と舞ちゃんが一緒に寝ればいいんじゃない?」
そんな無茶苦茶な…とは思うがまあそれも一理あるだろう。
…決して舞と一緒に寝たいなどというやましい気持ちはない。ないに決まっている。
「ま、まあ私はそれでも…」
舞は顔を少し赤らめながらも了承してくれた。
「それじゃあ私は舞ちゃんの部屋を借りさしてもらうわね」
「まあ、そうなるね」
恋人とはいえ女の子の部屋に入るというのはなかなかに――
「ちょ、ちょっと待ってください朋美おばさん!」
そこで舞が慌てて舞の部屋へと向かおうとする母さんを止めた。
「どうしたの?舞ちゃん。やっぱり自分の部屋に人を泊めるとかが苦手だったら言ってちょうだいね?迷惑はかけるわけにはいかないから…」
「いやそれは大丈夫なんです!大丈夫なんですけど…」
「…舞?どうしたの?」
そうして口ごもる舞に疑問を抱いていると母さんが舞に問いかけた。
「もしかして部屋に碧の写真を飾ったりしてるのかしら?それが恥ずかしいの?」
「っ?!」
そうして舞はビクっと体を震わせる。
「えっ、舞?」
「い、いやその…」
「大丈夫よ舞ちゃん。さっき碧も急いで自分の部屋に置いてある舞ちゃんの写真を隠したの知ってるから」
「何で知ってるんだよ!!」
いやマジで怖い。写真を部屋に置いてあることも言っていない上に二人が話している隙に隠したというのになんでバレてるんだよ。
「そうなの?碧くん」
「あ、えっと…まあ…」
まあこんなのは無駄な誤魔化しだなと思う。
「あまり写真とかは好きじゃないのだけれど…まあ碧くんなら…」
ちなみに当の舞さんは少し嬉しそうである。
「ふふふ、二人は似た者同士ねえ」
「まあそうとも言えるのかなあ」
そうしてそのあとは風呂に入り、恋バナ(一方的に舞の話を聞くだけ)の邪魔だと母さんにリビングから追い出された。いや舞の部屋でやればいいじゃん…
0時を回りそうになったところでリビングで過ごしていると母さんが部屋から出てきた。
「それじゃ母さん寝るから舞ちゃんと一緒に寝るのよー」
「はいはい」
「それとしっかりゴムはするのよ」
「何を言い出すんだよ母さん!!」
マジで心配だよこの母さん…いや別に期待なんかしてないし…
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
なぜか中学生カップルは赤ちゃんの名前を決めだす。
あれ実はまじで知り合いにいたんですよね。
彼女持ちの知り合いが彼女と決めた候補を話してきたときはこいつ大丈夫かなと思いましたわ。
それではまた次話で。
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