第35話 見える本心と見えない本心

「はあ…どうしよ…」

二人から逃げて帰ってきてしまった。次会うとき相当気まずいかもしれない。

「…」

でも悩んでいることはもう一つあった。

あの二人ならデートが失敗することなんてないってわかっていた。

普段からあんな感じに仲がよさげなのだからデートごときで気まずい雰囲気になったりすることはないと分かっていた。

それでもどうしてか心配になって見に行ってしまった。

そうして最後に私があの場を気まずいものにしてしまった。

結局私はあの二人の時間を壊したのだ。

あの二人の時間を壊さないように離れようと決めたのにそれを実行できていない。

もしかしたら私は自分が思うより悪い子なのかもしれない。


私は友達と一緒に居る時間が苦痛だった。

二人の友達と一緒に居るとなぜか一人の友達はもう一人の友達のことを邪魔だとい表情をするのだ。そしてそれはもう一人の友達も同じ。

私がそんな関係の間にいるのが嫌だった。人には嫌いなものがある、嫌いな人が居る。そんな感情が飛び交うのが嫌で友達といる時間が苦痛だった。

けど一人は寂しいから。一人でいるのは嫌だったから表情を見るのをやめて我慢をし続けた。


そうして見つけたのが『姫川舞』という女の子。

彼女と一緒に居ると何も気にしなくてもよかった。そうして碧くんもそう。

あの二人と一緒に居るとき、あの二人は私のことも、そうしてお互いのこともとても大切だと思ってくれている。


もしかしたら碧くんは、私が舞の親友だからという理由かもしれない。

けどそれでも構わなかった。今までよりもずっとよかったから。


(まあ、今までやってきたことをもう一度やるだけだよね)

これからはあの二人から離れていかないといけない。

だから、私は舞と出会う前の私に戻るだけ。私は前に進むことが出来ないのだろう。


でももし…あの二人が恋と同じくらいに私との友情を大切にしてくれるのなら…

「私も助けてほしいな…」

そんな誰にも聞こえもしない願いを口にするのだった。




俺と舞はあの後、そのまま家に帰った。

俺も舞も愛田さんの様子がおかしいことには気付いていた。

なので俺はこの前、舞が体調を崩した時の愛田さんの様子を包み隠さずに舞に伝えた。

そして舞からはこれまでの愛田さんのこと。

そして、愛田さんが人よりも表情で人の本心を見抜く力が強いのかもしれないということを教えてもらった。


「なるほどね…はあ、一夏は相変わらず馬鹿ね…」

「…やっぱりそういうことなんだ?」

「ええ、きっと一夏が恐れているのは『二人の時間を壊すこと』」

やはりそうだった。愛田さんが恐れているのは俺たちと一緒に過ごすことで二人だけの時間を壊すことなのだ。

「だけど、きっと一夏はそれ以上に恐れていることがあるわね…」

「…?」


舞曰く、愛田さんは時間を壊してしまうこと以上に恐れていることがあるらしい。

「一夏が恐れているのはきっと―――――」

「…!」

なるほど…それならあの時愛田さんが逃げ出したことにも納得がいく。

どうして愛田さんはあの時、俺たちから真っ先に逃げ出したのだろう。

付けていたことがバレたから?それもあるかもしれない。

けどあの時、愛田さんが俺たちの顔を意地でも見ないようにしていたのがずっと気になっていたのだ。

舞が教えてくれたおかげでそれの理由が分かった。

でもきっと愛田さんはその自分の"本心"には気付けていない。

自分の表情は鏡を使わないと見えないのだ。


そうして休日が明けた月曜日、俺と舞は愛田さんと話をすることを決めていた。

休みの日に連絡をしたのだが、既読すらつかなかった。

だから学校に着くなり俺と舞は愛田さんのもとへ向かったのだが…

「愛田さ――」

「あー!八幡くん!喉乾いたからジュース買いに行かない?」

「え?僕?も、もちろんいいよ」

…いや無理やり過ぎないか?明らかに愛田さんは俺たちのことを避けている。

そうしてそそくさと愛田さんと八幡くんが教室から出ていく。


もしかしたら愛田さんは八幡くんの恋心に気付いているのかもしれない。

だからそれをうまく利用した。

「これは苦戦を強いられそうね…」


そうしてその言葉通り俺たちは愛田さんに上手く避けられていた。

学校の中という同じ場所にいるのだから対して難しい問題ではないと思っていたのだがそうでもなかった。


そうして放課後になり俺たちはどうにかして愛田さんを捕まえて、屋上で話をしていた。


「ねえ一夏、あなたは私たちの時間を壊すことを恐れているの?」

「っ!そ、そうだよ!だから二人は二人の時間を優先すればいいの!私になんか構わなくていいから…」

舞が珍しく少し怒っている。舞は愛田さんに怒っているのではなく、自分の親友をこんな気持ちにさせてしまった自分を怒っているのだろう。

「…愛田さん。君は本当に時間を壊すこと"だけ"を恐れていたの?」

「そうだよ!恋人になった二人の間に私がいるなんておかしいでしょ?二人に私は不必要なんだよ」

それは違う。今回のデートも俺と舞は二人とも愛田さんにデートの相談をしていたことが分かった。だからもしかしたら愛田さんが居なければデートにすら行っていなかったかもしれない。


それに舞にとって愛田さんは一番大切な親友なのだから愛田さんを不必要だと思うわけがない。

でも、そんなことより今は愛田さんの本心を伝える必要があった。

今も愛田さんはずっと俺たちの表情を見ようとしなかった。

きっと愛田さんはそれを無意識的にしている。


なぜ愛田さんが俺たちの表情を見ようとしないのか。それは…

「愛田さんは俺たちに邪魔者と思われるのを恐れたんじゃないの?」

「え…?」

そう。それこそが愛田さんが俺たちの表情を見なかった理由。

自分にとって大切な二人から邪魔者と思われるのが怖かったからだ。




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