第34話 デート

…全然眠れなかった。


昨日、俺と舞は二人でお出かけをすることを決めた。

しかしながら、二人で出かけるにあたってなにをすればいいのかなどが全く分からなくなってしまい、愛田さんにアドバイスをもらった後も考え込んであまり眠ることが出来なかった。


そしていつも通りの時間に体を起こし朝食の準備をした。

朝食を食べている最中に話し合った結果、映画を見に行くことになった。

映画を見に行くというのは愛田さんにおすすめしてもらったものなのだが、舞も同じ意見だった。昨日のことといいやけに意見が被っているような…まあいいか。


そうして朝食を食べ終え出かける準備をそれぞれする。

昨日、服をどうしようと悩んでいた俺だったが、よくよく考えたら俺のファッションセンスはあまりいいものとは言えないので大人しくこの前二人に選んでもらった服を着ることにした。

自分は髪をセットしたりもしないのですぐに準備が終わった。

そして舞の準備を玄関で待っていると舞が準備を終えて玄関へと向かってきた。


「…!」

舞の服装はロングスカートにトップスという至って普通の服装なのだが…

(似合いすぎだろ…)

そう、似合っていた。はっきり言っても出ると言われても遜色がないほどに舞にその服装が似合っていた。そしてイヤリングなどの小物なども身に着けており、その小さなものが舞の美しさを引き立てている。


「えっと…どうかな?」

「…!その…似合ってるよ。とても綺麗だと思う」

「そ、そう?まあ当り前よね」

そうして舞は自信満々に胸を張って見せる。

耳が真っ赤だが、まあ見なかったことにしておいてやろう。


「えっと…それじゃ、行こっか」

「え、ええ」

そうして家を出て扉を閉める、二人で肩を並べて歩いていると舞が手を握ってきた。

「ま、舞?」

「…!えっとその、嫌だったかしら?」

そう言って舞が上目遣いでこちらを見てくる。

…この状況で嫌なんて言える人はいるのか?いや、別に舞と手をつなぐことをいやだなんて思っていないのだけれど。


「い、嫌じゃないよ!ただびっくりしただけ」

「そ、そう。よかった」

そうして舞はえへへと笑って見せる。

「グハッッ」

「碧くん?!大丈夫?!」

大丈夫ではあるが大丈夫ではないな。まじで可愛すぎるこの子。

自分の可愛さに気付いてない?無自覚?無自覚って怖いね。


「だ、大丈夫。川の先にいるおじいちゃんが見えたぐらい」

「それやばいやつじゃないの…」

「しかもおじいちゃんまだ生きてるし…」

「あなたが川の先にいる側なのね?!」

そんな冗談を言っているうちになんとか舞の顔を直視できるようになった。

そうして俺は舞の手を握り返し、映画館へと向かった。


俺たちが見ようとしている映画は、今話題殺到中?の恋愛映画らしい。

俺はあまりそういった映画は見たことはない。まあまず映画を見に行くこと自体がほとんどないのだが。

席を取り、二人並んで席に座った。そうして明かりが落とされ、映画の上映が始まった。


途中、舞と手が当たりお互いに恥ずかしくなって顔をそらすこともあったが、映画も終盤というところに差し掛かった。個人的にはいい映画だと思う。

こういうのをあまり見ない俺でもいい話だなと思ったり面白いと思ったりもした。

暗い展開が多めの作品だったので、最後の主人公とヒロインが抱きしめあうシーンには思わず俺もうるっと来るシーンだった。

隣に座っている舞をちらっと見た時に、舞に頬に雫がこぼれ落ちていたので舞にとってもいい作品だったのだろう。


映画を見終わった後は昼食を取るために近くの飲食店へと足を運んだ。

こういうデートとかの時って昼食に何を食べればいいかわからないよね。

マジで何が正解なのかわからない。映画を見るということを決めてなかったため、二人で話し合い、無難に近くのファミレスで昼食を取った。


舞が途中で『あーんとかしてあげた方がいいのかしら…』とか言い出した時には飲んでいる最中の水を吹き出しかけた…いや結局あーんはしてもらったけどね?最高でした。ただ、あーんしてもらってる最中に店員さんが通ったときはものすごく気まずかった。もう外ではしないようにしたいと思います。


昼食を取った後は動物園に行ったり、舞と一緒に服を見て回ったりした。

舞が露出度が高い服を着た時はいろんな意味でやばかった。

男性店員も舞に視線が固定されてたし…なんだか嫌な気分になったので急いで舞を更衣室の中に押し込んだ。


デートというものがあまりよくわからなかったが、まあまあ楽しめたのではないかなと思う。まあ結局は舞と一緒に居れたらなんでもいいのだろうが。

それほどに舞のことを自分は好きなのだなと自覚して少し恥ずかしくなってくる。


まあただこのデートがすべて完璧に終わったわけではない。一つだけずっと気になっていたことがあった。俺も舞も気付いていたのだがあえて言わなかった。

俺たちの後ろの隅に見えるオレンジ色の髪…誰とは言わないでおこう。


「心配になってきてしまった…」

自分はあの二人から距離を取ると決めたはずなのに、今二人の後をつけていた。

…だってあの二人デートに関してを全部私に聞いてくるんだもん。まともにデートできるのか?と思いついてきてしまった。

二人はまず映画館に入った。これは私がおすすめしたやつだ。

二人は恋愛映画を見るらしい。まあ私はこういった恋愛ものは全く見ないのだけれど心配だから私もついていくことにした。


そうして映画が終わり…

「うおぉぉ…」

私は泣いていた。いや普通に泣ける作品だった。

私の恋愛系の映画のイメージは『え?ただただ主人公とヒロインがイチャイチャしてるだけでしょ?』というイメージだった。けど見てみると普通に泣いてしまった。


(あ、やば!二人は?)

そうして舞と碧くんを探すと丁度映画館を出るところだった。

二人は近くのファミレスへと入り、食事をしていた。

舞が途中であーんをしていたがあれは私の入れ知恵だ。

『男はあーんしてあげればとにかく喜ぶよ!』

と昨日アドバイスをしておいたのだ。まあ二人とも顔真っ赤だったけど。


そのあと二人は動物園に行ったり、服を見て回ったりしていた。

(なんだ、心配なんて不要だったか…)

二人はちゃんとしたデートを出来ていた。私がただただ心配性だっただけだ。

そんなことはわかっている。けれど、あの二人を見ていると…あの二人が近くにいるとき私はなぜか安心感を覚えてしまうのだ。


そうして私はあの二人なら大丈夫だと思い、家に帰ろうとした。

そうするとあの二人がこちらの方へ向かってきた。

(え、な、なんで?)

「…一夏あなたずっとなにしてるの?」

「え、ず、ずっと?!」

嘘でしょ。どうやら私がつけていることがバレていたらしい。

「い、いつから気付いてたの?」

「映画館を出る時ぐらいかな」

「ほとんど最初からじゃない?!なんでよ!サングラスだってしてたのに!」

今日の私はサングラスをしている。目立つ行動さえしなければ二人にバレることなんてないだろう。今日の私は目立つような行動は…

「いや、映画館であんだけ大声で泣いてたら目立つでしょ…」

「あっ…」

めちゃくちゃしてたわ。バレても仕方ないくらいには思いっきり目立ってたわ。


私は恥ずかしくなって二人に背を向け、大急ぎで走り出した。

後ろから

『お礼が―――』

と聞こえたが私はそれすらもフル無視して家へと帰ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る