第30話 家での過ごし方と体調不良
今日は日曜日。つまり休日だ。
俺は休みの日は基本的に何もしないで過ごしている。とりあえず飲み物を取るためにリビングへ…
「あ、おはよー碧くん」
「あ、うん…おはよう愛田さん」
だから何度も言うけどなんで当たり前のように居るの…ここに住んだ方が早いんじゃないかな。
「おはよう碧くん」
「おはよう舞。今日は早いね」
「いつも早いわよ」
この会話も何度目だろうか。けどこんな会話を楽しんでいる自分がいる。舞や愛田さんと過ごす時間が楽しく感じられているのだ。
「にしてもここがまさか2人の愛の巣になるとはねぇ」
「愛の巣って…別にそんなんじゃないわよ」
「キスしたくなったら言ってね?私空気になるから」
「しないわよ…しかも滞在するんじゃなくて席を外しなさい」
なんだかいつの間にか舞のツッコミスキルが上がっている気がする。まぁ愛田さんは毎日のようにボケてくるから仕方ないことなのかもしれない。
「それで?付き合い始めてからなんか変わったこととかあるの?」
そう愛田さんに聞かれて考えてみる。
しかし意外と変わったことが出てこない。
キスどころかハグでさえ文化祭のあの時以来していない。まぁ異性が苦手寄りだったふたりが恋人になる所まで行ったのだから上出来ではあるだろう。
そうして首を横に振る。
「でも、碧くんと出会ってから舞の笑顔も増えたよねー」
「え、そうなの?」
「舞ってば、あえてなのかは分からないけどあまり笑顔は見せてくれなかったんだよねー」
まぁ何故か想像しやすくはある。そんな舞に笑顔が増えているということは俺は喜んでいいことなのだろう。
「それで、愛田さんの用ってそれなの?」
「うん。そうだけど?」
いやマジでそれだけなんだ。すごい行動力ではあるけれど。
「だって親友と唯一の男友達が付き合い始めたんだよ?気になるでしょー」
「唯一?」
「私、男子とは喋るけど友達になったのは碧くんだけだよー」
初耳だった。愛田さんはやけに慣れているから男友達もたくさんいるものだと思っていたのだがそうではなかったらしい。
「それじゃ、私は帰るねー。長居すると舞に怒られそうだし」
「いや別に怒らないわよ…」
そうして愛田さんは帰って行った。
「本当に何だったんだろう…」
「ふふ…そうね」
そうして舞は飛びっきりの笑顔でそう言ってみせる。愛田さんがいる時には絶対に見せないような笑顔で。
「別に愛田さんにだったらその笑顔も見せていいんじゃないかなぁ…普段愛田さんに見せてる笑顔って、ちょっと固いし…」
「見せたら一夏はきっとからかってくるわ。それにこの笑顔だけは碧くんの前だけにしようって決めたの」
「そ、そっか」
前にも言ったが、今の舞は『甘い顔』をする舞。
学校での舞は『苦い顔』をする舞。と表すのが的確であろう。別に隠さなくてもいいって言ったのだが。文化祭の日に屋上で俺が言った言葉が響いているらしい。こうなった舞は誰にも止められないので仕方がない。
その後俺たちは自由に過ごしていた。
恋人となっても、家でそれぞれ自由に過ごすことはあまり変わらない。ただ少し話す機会が増えたぐらいだろう。
しかしその日の夜…
部屋の中に扉をノックする音が聞こえた。
本を読んでいるだけだったのですぐに気付き、ドアノブに手をかけた。
「どうしたの?舞」
「碧く…んっ…」
そうして舞が軽く抱きついてきた。
「ま、舞?!」
「いや、その…違くて…」
何が違うんだろう。それよりも、こんなに大胆な舞はあまり見た事がない。
舞自体も恥ずかしいのか凄く体が熱くて…ん?熱い?
何かに気付いた俺は急いで舞のおでこに手を置いた。
「あつっ!舞、すごい熱だよ」
朝はげんきだったように見えていたのだが・・・もしかしたら少し無理をしていたのかもしれない。そして文化祭での一件。悩んでたことが一気に落ち着いて気が緩んだのだろう。
「や、やっぱり…?なんかすごいクラクラしてて…」
熱で判断能力が少し低下してしまっているのかもしれない。普段の舞ならすぐに薬飲んで寝てそうではあるが、今はそれどころでは無い。
「とりあえず熱測ろうか」
そうして舞を舞の部屋に連れていく。
咄嗟にお姫様抱っこをしたが舞は嫌がってなさそうなので大丈夫そうだ。
「大丈夫、舞?なんかさっきより顔赤い気がするけど熱上がった?」
「い、いや大丈夫!本当に大丈夫だから…」
舞を舞のベッドに降ろす。必然的に舞の部屋に入ることになってしまったが、まぁあまり見渡さないようにしておこう。
「はい、体温計。自分で測れる?」
「え、えぇ」
そうして舞が服を脱ごうとする。
いやなんでここで脱ぐんだよ!って思ったが・・・
俺は速攻で後ろを向いた。舞は突然後ろを向いた俺に首を傾げていたが、一瞬で事を理解し顔を赤らめていた。やはり判断能力が少し低下しているのかもしれない。
とりあえず一度部屋から出てパジャマに着替えてもらった。
ピピピという音で熱を測り終える。
「38.5…熱だね完全に」
「・・・」
「とりあえず薬とか取ってくるからちょっと待っててね」
そう言って部屋を出ようとしたのだが、舞に袖を掴まれてしまった。
「今日は・・・一緒に居てほしい」
こういう舞もとてもかわいいと思う。でも今は舞の体調が優先である。
「大丈夫、薬取ってくるだけだから。すぐ帰ってくるよ」
「本当?」
「うん、本当」
「なら・・・大丈夫・・・」
ちょっとかわいすぎて直視できないがとりあえず舞の頭を撫でることにした。
「んっ・・・」
そうして部屋を出て薬を取りに行く。ついでにおかゆくを作る準備もしておこう。
薬を取って部屋に戻り舞に薬を飲ませる。
「食欲はある?」
舞は首を軽く上下に振った。食欲はあるようなので安心した。
リビングに向かい急ぎ足でおかゆを作る。
(舞って梅が入ってても大丈夫だよな・・・?)
こういう時にそういう情報がないのは少し辛いがおかゆは梅がゆにした。
部屋に戻ってベッドの近くに机を持っていき、そこにおかゆを置く。
「舞は梅がゆで大丈夫だった?」
「ええ・・大丈夫」
やはり少し弱ってそうだ。なので舞が掴もうとしたスプーンを持ち上げた。
舞が不審な目で見つめる中俺はスプーンでおかゆをすくい、舞の口元へと運ぶ。
そうすると舞も今していることを理解したのか、顔を赤らめながらも食べてくれた。
「味の方は大丈夫?」
舞がコクコクと頷いてくれる。
そうして食事を終え、 舞に体を拭くようのタオルなどもろもろを渡し風呂に入る。
そこでやっと安堵の息をつくことができた。
突然のことでテンパってしまったがなんとかなっただろう。
風呂から上がり、舞の部屋へと向かう。
「舞、無理しなくていいから早めに寝るんだよ」
「ええ、本当にありがとう碧くん」
「病人を看護することなんて当たり前のことだよ、だからそんなに心配しなくても大丈夫」
「そう・・ねえ碧くん」
「・・・?」
「手を握っておいてほしいの・・・わがままなのはわかってるけど・・」
そういわれるだけで心臓の鼓動が早くなる。それほどに俺は彼女のことが好きらしい。
「大丈夫。わがままなんかじゃないから」
そうして舞の手を握る。俺よりも小さい手は簡単に俺の手に包まれる。
「えへへ」
そうして舞がはにかんでいる。とてもかわいい。
舞とはこれからもこんな関係で居れるだろうか。
そんな心配が思い浮かんでしまうが、今は目の前に舞がいる。
それだけで十分だろう。
そうして舞が寝たのは俺が手を握って5分後だった。
やはり疲れがたまっていたのだろう。寝るまでにそこまで時間はかからなかった。
「おやすみ舞。ゆっくり休んでね」
そうして10分くらい様子を見てから舞の手から手を放し、自分の部屋に戻る。
寝る前まで俺の手には舞の手のぬくもりが残っていた。
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