第29話 文化祭

恋人。それが俺にできることなんてずっとないと思っていた。

けど俺の隣には今彼女がいる。俺にとって一番大切な女性。

告白が成功したことを喜んでいたのだが・・・

「・・・あのさ舞、なんか近くない?」

「そうかしら?まあ付き合ってるんだから問題ないわよね」

そう、舞の距離感がおかしい!今は、舞が腕を俺の腕に絡ませて、密着した状態である。はっきり言って舞のたわわな胸がめっちゃ当たってて色々とやばい。

しかもこの状態で学校の中を徘徊したら間違いなく視線を集める!

いや舞がいるだけでだいぶ視線を集めるのだけれど・・・

なのでここはなんとか舞を説得しよう。

「あのさ舞、舞のそういうところは俺からしたらとっても可愛いんだけどさ。ほらここ学校だし」

「私さえいれば他の人なんて関係ないって言ったのは碧くんでしょ?」

うぐっ・・・それはそうだがこれはこれだ。

・・・仕方ない。ちょっとカッコつけすぎな気もするが。

「舞のそういう甘い顔をほかの男に見せたくないんだよ」

そういった瞬間、舞の顔がボッと赤くなった。

「わ、わかったわよ・・・」

まあこれでなんとかなるだろう。まあでも気持ちはわからなくもない。

舞はきっと男のことをずっと苦手意識してきたから。

男に甘えるという感覚が新感覚すぎるのだろう。

まあ幸い家は同じ・・・同じ?

「・・・」

「どうかしたの?碧くん?」

「えっとさ、俺たち恋人になったじゃん?」

「そうね。それがどうかしたの?」

「つまりさ・・・これからは同棲ってことになるんだよね・・・」

そうするとまた舞の顔が赤くなった。恥ずかしいのはわかるけど耐性なさすぎでは・・・

「そうね・・・これからは同棲ということになるわね」

「・・・」

「・・・」

お互いに沈黙。この空気どうしよう・・・

「まあとりあえずせっかくの文化祭だし楽しもうか」

「え、ええそうね。あ、でも・・・」

「わかってる。愛田さんも一緒に回るんでしょ?」

相変わらず舞は友達想いのいい子である。それに今回は二人とも愛田さんにはお世話になっているので愛田さんに振り回されることぐらいは覚悟しておいた方がいいだろう。そうして二人で並んで歩きながら愛田さんのところへ向かう。


「お、二人とも~。仲直りしたんだねえ」

「喧嘩してたわけじゃないんだけどね・・・」

「急に舞が碧くんのこと避けるからびっくりしたんだよー?」

「うっ、ごめん・・・」

愛田さんが怒ってるように見えるが口は笑っているので心配はいらなさそうだ。

「なら、お礼として一つ聞きたいんだけどさ?」

「なに?」

「二人は付き合ったんだよねえ?」

「なっ・・・!」

まあ隠し通すことなんて無理だろうなと思っていたが・・・

「どうしてわかったの?」

「いや、なんか明らかに舞が距離近いし・・・」

そうして横目で舞の方を見る。そうすると視線をそらされてしまった。

俺が気付いてないだけで普段より近い距離にいたのか。

「まあせっかく三人で回れるんだし早く行こ~!」

そうして愛田さんが俺たちの手を引っ張っていく。

俺たちが友達という関係はどうやら学校の中でも相当広がっているらしく、男子からの鋭い視線はあるものの特に弊害はなかった。

・・・まあ舞とはもう友達という関係ではないのだけれど。

「うーん、なんかおなか減ったねー」

そういえば確かに。文化祭の仕事中は何も食べていないので腹は減っている。

「それじゃあ何か食べ物探そうか」

「それならいいところあるよー」

そうして愛田さんが案内してくれたのは外にある屋台。

「クレープ?」

「そう!これなら舞も大喜びだしね~」

そういえば舞は甘いものが好物だったな。既に財布に手かけてるし。

そうして三人してクレープを頼む。

「んー美味しいねえ」

愛田さんと舞はいちごホイップ。俺はバナナホイップを頼んだ。

「碧くんのやつも美味しそうね」

「そう?一口食べる?」

「え?!いや、その・・・」

あ・・・よくよく考えたらこれって間接キスになるか。

「えっと、ごめんそういうつもりじゃ」

と謝ったのだが。

パクッ

「・・・」

思いっきり舞にクレープにかぶりつかれてしまった。

頬は赤く染まっているが、やけに満足顔である。

「ま、舞・・・」

「食べる?って言ったのは碧くんだから・・・」

それはそうだが・・・

「じー」

・・・愛田さんの存在を忘れていた。愛田さんに見つめられて二人とも視線をそらした。

「はあ・・これからはこのイチャイチャをずっと見せつけられるのか・・・」

そうしてクソでか溜息をつく愛田さん。なんか申しわけない・・・

「まあいいんだけどねー。それよりほかのところも回ろー」

そうして愛田さんは立ち上がって歩いて行ってしまう。

気のせいかもしれないが、どこか愛田さんの表情は少し寂しさを覚えるものだった。


「・・・ねえこれ本当に入らないとだめ?」

「何言ってんの碧くん。ほら入るよー」

そうして愛田さんに連れてこられたのはお化け屋敷。いや確かにあるとは思ってたけど・・・それでもやっぱり苦手なものは苦手なのだ。

「碧くんそういえばホラー系統、超苦手だったわね・・・」

そうして愛田さんに引っ張られて中に入っていく。

5分ぐらいで終わる簡単なものだったのだが、普通に怖かった。

途中で舞に抱き着くぐらいには怖かった。

『あははービビりすぎだって碧くんー」

って愛田さんに言われたけど逆にどうしてあれだけ余裕なのか教えてほしい。

あれなのか。寝る前にホラー動画見て寝れなくなった経験とかないタイプなのか。

そうしてそのあとは3人でいろんなところを回った。

焼きそば買いに行ったり、迷路をやってるクラスを訪れたり、チュロスを買ったり。

いや食べ物系統多いな・・・


そうして舞と愛田さんと一緒に過ごしているうちに2日間の文化祭があっという間に終わった。ちなみに二日目は親も入校可能だったため、母さんが来た。

母さんが舞に対して『舞ちゃん久しぶりね』と声をかけたせいで軽く騒ぎになりかけたのはここだけの話。事前に注意しておくべきだった・・・

そうして二日目の夜、いわゆる後夜祭というやつだ。

「あれれ?舞と碧くんは踊らないの?」

そうして座ってダンスを踊っている生徒たちを眺める俺たちに愛田さんが声をかけた。

「踊ったら、また騒ぎになるでしょうしね・・・」

「もうこの際バレてもいいんじゃないの~?」

確かにバレても問題はないだろう。ただちょっと、この関係を隠していたい俺がいる。俺と舞の関係を知っているのは俺たち自身と、二人にとって一番の友人である愛田さんだけでもいいのだ。それはきっと舞も同じことを考えているだろう。

「・・ねえ一夏」

「ん?どした?」

「私たちはこれからも親友で居られるよね」

舞はずっと怖かったのだろう。もしかしたら俺と付き合うことで愛田さんとの関係が崩れるんじゃないかと。その舞の問いに愛田さんは・・・

「当たり前じゃん!舞が誰と一緒に居ようが、私たちはずっと親友なんだから!」

「一夏・・・そうね、ありがとう」

そして愛田さんの表情はとても明るく見えた。寂しさなど覚えなかった。

きっと愛田さんも舞と同じことを考えていたんじゃないだろうか。

ずっと舞と一緒にいたのが愛田さんだ。それをぽっと出の男に居場所を奪われかけた何て愛田さんからしたら複雑な気持ちではあるだろう。

それでも愛田さんは俺たちのことを応援してくれていた。俺たちのことをずっと気にかけてくれていた。だからこそ俺たち3人の関係はこれからも続いていくだろう。


この時の俺は愛田さんがずっと悩みこんでいることをまだ知らなかった。


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