第27話 二人の気持ち
今日は9月15日。明日からは文化祭が始まる。
愛田さんは3人で回りたいと言っていたのだが、舞が乗り気ではなかったので愛田さんと舞が一緒に回ることになっている。
まあ俺は屋上で時間でも潰せばいいだろう。
でもだからってこのままでいいだなんて思っていない。
明日こそ今の問題を解決してやる。
――翌日
「それじゃ今日一日頑張りましょ~!」
実行委員の掛け声と共に文化祭は始まった。
俺と舞も愛田さんも前半に仕事を入れているので準備に取り掛かろうとしたのだが・・・
「水瀬くん!ちょっとこっち来てもらってもいいかな?」
「・・・?」
話しかけてきたのはクラスメイトの女子だった。名前はなんだっけな松原さん?松下さん?
まあいいか。
「別にいいけど何か用?」
「うん、ちょっと話したいことがあって」
彼女は俺を先導して教室から離れていく。
そうして一目のつかないところに連れていかれた。
「水瀬君のことが好きです!付き合ってください!」
「え?」
突然のことで頭が真っ白になってしまった。だって急に告白されたんだぞ?
それも人生初めてだし・・・
「実はちょっと前から気になってて・・今日文化祭だし一緒に回れたらと思って」
「えーと・・・」
どうしよう。告白なんてされたことなかったからこういう時どうすればいいのかわからない。でもこれから一生告白されることなんてないのかもしれないぞ?
せっかく好きだと言ってくれたのだ。付き合うのもありなんじゃないか?
そんな考えが頭の中によぎる。けどその考えよりもある人物が頭の中には思い浮かんでしまった。否、自分から思いつかせたのかもしれない。
「・・・ごめん、君とは付き合えない。俺、『好きな人』がいるんだ」
「そっか・・・」
そうして女子は教室に先に戻っていった。
そこで俺はさっき頭の中に思い浮かんで人物について考える。
きっと彼女はこのまま関わらないままの方がいいと思っているのかもしれない。
でもそれが彼女の本心ではない。俺はそう信じてる。
彼女はどこか苦しそうだった。避けるのが辛そうだった。
避けたいから避けているんじゃない。避けざるを得ない状況に陥っているように見えたのだ。
彼女が避けることを望んていないのだとしたら?なにか事情があるのにそれを誰にも相談できなかったとしたら?間違いなく彼女は今苦しい状況にいるだろう。
だからこそ、俺はあの日・・・俺の実家に泊まりに来た時の彼女との約束を守るのだ。
『そう・・・それなら、今度は私を助けてね』
助ける理由なんて一つで十分だろう。
俺は『姫川舞』という女の子のことが好き。
この感情を彼女に・・・舞にぶつけるのだ。
文化祭が始まった。結局まだ碧くんのことは避けてしまっている。
一夏は3人で回りたいと言っていたのに申しわけないことをした。
碧くんは私が避けようとしている私に対して無理に関わってきたりはしない。
だから、このまま続けば私たちの関係はなかったものになるだろう。
本当は家でも避ける必要性はないんじゃないかと思った。
けれども家でも関わり続けてしまったら、学校でも同じように関わり続けてしまう気がしたのだ。だから私は家でも避けるようにした。
それに私は聞いてしまったことがある。クラスメイトの松本さんが碧くんに今日告白する気だということを。
彼女は容姿も整っている。そして碧くんは優しいから・・・彼女を傷つけない方法を考えるだろうし、なにより多分だけど人生初の告白だと思う。
もしかしたら彼は彼女の告白をOKするかもしれない。
そう考えただけでとても悲しくなる。どうしてこんなに胸が苦しいのだろうか。
(こんなことばかり考えていてもだめね・・・)
今は文化祭での仕事の最中だ。私と一夏と碧くんは前半に仕事を割り振っているので、同じ時間帯での仕事になる。
彼とは仕事の関係上で少し関わることはあったけれど特に何事もなく終えることが出来た。
私は制服に着替えなおす。うちのクラスはコスプレ喫茶的なものを出し物として行うことになったらしく。できる限りコスプレをしてほしいとのことだった。
まあ私はコスプレなんてしたくなかったので従業員のコスプレをすることにした。
それコスプレっていうの?って一夏につっこまれたけどとりあえず無視しておいた。
私は一夏と一緒に文化祭を回ることにしている。
碧くんを含めて3人で回るのだけは避けたかった。なので最悪の場合、一夏は碧くんと回ってくれてもよかったのだけれど、一夏は私と回りたいからと言って碧くんに謝っていた。謝るべきなのは私の方なのに。
まあ・・・もしかしたら彼は松本さんと一緒に回る可能性もあるから。
そうして屋上に向かう。なぜか一夏は集合場所を屋上にしたのだ。
普通に仕事の時間は同じなんだしそのまま行けばいいんじゃないか?と思い聞いたのだが・・・
『屋上でちょっとやりたいことあってさ!準備が必要だから屋上で待っててくれない?』
と言われてしまった。屋上でやりたいことってなんだろう?と考えながら一夏を待つ。
そうして考え事をしていると、屋上の扉が開いた。
「やっと来たのね一夏、遅いじゃな――」
私は振り返って固まった。
(どうして・・・)
彼は私がここにいることを知らない。ましてや、他のクラスの出し物のところに向かっていったのも見ていた。だからここに来ることはないと思っていた。
「今度は俺が助ける番だね、舞」
その瞬間に涙が出そうになる。彼はしっかり守ってくれた。
この前彼の実家に泊まった時に交わした約束。
私が今本当は辛いことも理解してくれている優しい男の子。
押し殺していた感情があふれ出てくる。
この日、この時。私は彼・・・『水瀬碧』のことを好きだと自覚した。
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