第23話 大切な家族

「へー、それじゃあ明日からは二人は碧くんの実家に行くんだね」

「そういうことになるね・・・そしてなんで当然のようにいるの」

朝起きたら愛田さんがいたというのに見慣れてしまっている。

「いやあにしても舞ってば親御さんへの挨拶は早いんじゃないの?」

「っ?!ち、違うわよ!そんなんじゃないから!」

「あーはいはい。顔真っ赤ですよ~」

本当に相変わらずである。にしても挨拶か・・・

姫川さんと付き合えたらというのは考えたことがある。けれども自分は姫川さんに恋をしているのかすら理解できていない。まあ理解できていたところで付き合うのなんて当然無理だろうけど・・・


――そうして次の日

「姫川さん忘れ物はない?」

「ええ、大丈夫よ」

そうして二人で家を出て鍵を閉める。俺たちの手にはキャリーケースがある。

日帰りの予定だったのだが、母さん曰く泊まっていきなさいとのことだったので二日分の用意を詰めてあるのだ。

(にしても姫川さんと自分の実家に行くことになるなんてな・・・)

今回の目的は基本的には父さんとのことで話をつけることだ。

それなのに姫川さんと実家に行くということになぜかすごく緊張をしている。

「水瀬くんの実家は隣の県なのよね?」

「そうだよ。だから電車でならそんなにかからないから」

幸いそこまで遠出ではないので最悪の場合はすぐに帰ってくることが出来るので問題はない。そうして駅に向かって電車に乗る。

「・・・ねえ本当に泊まりで大丈夫?今からでもホテル取ったり・・・」

「普段から同じ家なのだから今更でしょ・・・」

「た、たしかに」

よくよく考えたら俺は毎日姫川さんと同じ家で寝ているのだ。

意識したら急激に恥ずかしくなってきた・・・

そうして1時間ほど雑談をしながら電車に揺られていると目的地に着いた。

どうやら母さんが車で向かいに来てくれているらしく駅で待っているとのことだった。駅の出口に歩いて行くと母さんの姿が見えた。

同タイミングで母さんも俺を見つけたのか俺の方に向かってくる。

「あ、碧~久しぶりねえ」

「母さん久しぶり。といっても半年ぐらいだけどね」

「半年でも久しぶりって言うのよ。ところでそこにいるお嬢ちゃんは?」

「初めまして水瀬くんのお母さま。水瀬くんの同級生の姫川舞です」

なんか本当に親御さんへの挨拶みたいな雰囲気だな・・・

「・・・え?」

「え?」

「碧?一緒に来る友達って女の子だったの?!」

「あれ・・・そういえば伝え忘れてたような」

やってしまった。色々焦っていたせいで一緒に来る友達が女の子だということを完全に伝え忘れてしまっていた。

「あわあわあわ」

「水瀬くんのあれはお母さんから引き継いだのね・・・」

「一大事じゃない!父さんとの面談なんてどうでもいいわよ!二人の関係をあとできかせてもらうからね!」

「いや普通に友達なんだけど・・・」

父さんとの面談をメインで来ているのにどうでもよくしちゃだめだろ。

「よかった・・・碧のことをしっかり見てくれる人が居たのね」

母さんの目から一滴の雫がこぼれた。

「母さん・・・」

「舞ちゃん、碧のことをこれからもよろしくお願いします」

「え、あ、はい」

・・・同居していることなんて話したら失神してしまいそうだから黙っておくことにしよう。


そうして母さんの車に乗り実家まで向かう。

「それで、父さんはいつ頃に来るの?」

「夕方ぐらいには向かうって言ってたわ・・・できれば来てほしくないぐらいだけどね」

「でも俺を含めてでも話したいってことは相当大切なことなんじゃない?だから俺も話を受けたわけだから」

「それはそうなんだけどねえ・・それにしても碧が女の子を連れてくるなんてねえ」

「なんか言い方に含みがあるんだけど・・・」

ちなみに隣に座っている姫川さんは緊張しているのか体がガッチガチである。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ舞ちゃん。私たちの話し合いに関しては気にしなくていいから。その間は外で観光しててもいいし」

「いや、普通に考えて同級生の男の子の実家に行くってなかなかに行動がやばい気がして・・・」

まあ普通じゃ起きないイベントだとは思う。しかもその向かう実家がこれから修羅場と化すのだから。俺は父さんを許す気はない。たとえ母さんがそんなことを望んでいなかったとしても、俺が前に進むために必要なことだから。


そこから雑談をしているとあっという間に実家に着いた。

「ここが水瀬くんの実家・・・えっと、お邪魔します」

「はい、いらっしゃい」

そうして三人で家に入る。

「ごめんなさい少し問題があってね・・・」

「ん?どしたの?」

「お友達が男の子だと思っていたから寝る場所を碧と一緒にしちゃったのよね・・」

「あ、なら俺がソファで寝るよ。姫川さんはそれでいい?」

「え、ええ。ごめんなさい私のために」

「いや、姫川さんが謝ることじゃないから」

元はといえば伝え忘れていた俺が悪いし。

「それじゃ父さんが来てからは忙しくなりそうだし今の内にご飯つくっちゃいましょうか。碧手伝ってくれる?」

「うんわかった」

「あ、私も手伝います!」

「あらそう?それじゃお言葉に甘えちゃおうかしら」

そうして三人でご飯を作り食べる。この時間だけでも俺はとっても楽しかった。

まあそんな時間は長くは続かないのだけれど。

――ピンポーン

玄関のチャイムが鳴った。

「・・・来たわね」

「うん。それじゃ姫川さん行ってくるね」

「ええ、行ってらっしゃい。無茶するのはだめよ」

そうして姫川さんは部屋に入っていく。

それを確認したうえで母さんと一緒に玄関へと向かう。

そうして扉を開けたところで俺と母さんは固まってしまった。

「久しぶりだな碧。それと朋美」

「・・・ええ久しぶりね。それでその隣の方は?」

そう、俺と母さんが固まった理由。それは父さんの居る女性が理由であった。

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