第22話 夏祭り編3

「・・・それってどういうこと?」

「私も詳しくわからないんだけど・・・とりあえずこの面談だけは受けてほしいって言われて」

そういえばこの前ショッピングモールで会ったときにそれらしきことを言っていた気がする。にしてもこのタイミングとは・・・

「とりあえず前言った日あるでしょ?その日を伝えておくから・・もし碧が面談を許容するならその日に来てちょうだい」

「・・・わかった」

「ごめんね碧。ありがとう」

そうして母さんは電話を切る。本当は母さんも電話するのでさえ辛かったのだろう。

母さんは父さんとの問題を俺に関与させずに解決してきた。

それが突然父さんのせいで関与せざるを得ない状況になってしまった。

(まあ今考えるべきじゃないな)

家に一人でいるなら深く考え込んでいたかもしれないが、今は姫川さんと愛田さんを待たしている。こんなところで考え事をしている場合だろう。

そうしてメッセージで伝えられた場所に向かう。


「ごめん。今戻った」

「あ、お帰り~」

「おかえりなさい水瀬くん」

きっと俺の雰囲気がさっきと比べて暗くなっていることなどこの二人にはお見通しなのだろう。けれどもあえて何があったのかは聞かない。誰と電話したかなんて聞かない。そのやさしさが今はとてもありがたかった。

「あ、ほらほら花火始まるよー!」

そうして愛田さんが空に指をさすと、タイミングよく花火が打ちあがった。

「きれいだね・・・」

「ええ・・・」

「え?なになに私が綺麗だって?もー碧くんってば~」

「解釈がおかしすぎるでしょ・・・」

こんな時でも愛田さんは笑顔を絶やさない。だから周りも明るくなる。

これこそが愛田一夏という人のいいところなのだろう。

(やっぱり愛田さんも姫川さんもすごいな・・・)

だからこそ今度こそは。今まで逃げてきた自分を捨てて新しい自分になるのだ。

父さんを怖がっている場合じゃない。その時に俺は面談を許容することに決めた。

そうして15分ほどで花火が打ち上げ終わった。

「いやーすごかったねえ―」

「夏祭りに初めて来たけどすごい楽しかったよ」

「でしょ?来年も来たいって思えた?」

「うん思ったよ」

「そっか。なら来年もこの三人で来ないとね」

「来年までこの関係が続いてるといいけどね」

「そんな悲しいこと言わないでよ?!」

そうして笑みがこぼれる。今の日常が楽しい。だからそれを母さんに伝えて安心をしてもらう必要がある。母さんはきっと未だに俺のことを心配しているから。

なのでこのタイミングでの面談はある意味タイミングがいいのかもしれない。


そうして俺たち三人は帰路に就くことに。

「・・・今日は泊まっていこうと思ってたんだけどそのまま帰るね」

「まず泊まろうとしてたのが初耳なんだけど・・・」

「まあ碧くんには言ってないからね~、じゃ私は電車で帰るから。またね舞と碧くん」

「またね愛田さん」

姫川さんも無言で手を振る。

「あ、そうだ舞。"夜更かしはほどほどにね"」

「・・わかってるわ」

この時は意味がよくわからなかった。

しかし家についてからその意味が少しわかった。

「・・・それじゃ水瀬くん。何があったか聞かせてもらっていいかしら?」

(ああ、なるほど)

本当はもっと早く聞きたかったのだろう。しかし過去のことを伝えていない愛田さんの前では話しづらかったりなどが重なっているので家についてから話を聞くことにしたのだろう。そうして姫川さんがキッチンにコーヒーを取りに向かう。

「話しづらいと思うからゆっくりでいいわ。今から1時間後でも。3時間後でも。たとえ朝になっても私はあなたが話してくれることを待つわ」

「っ!」

どうして姫川さんはここまで優しくしてくれるのだろうか。自分なんて何もできないただの臆病者なのに。

それからどれくらい経っただろうか。10分なのか1時間なのかもわからない。

けれどそこでやっと開かなかった口が開いた。

「実は・・・」

そうして今日の電話で伝えられたことを話した。この夏休み中に実家に帰省する予定だったこと。その日が父親との面談の日になっていること。そうしてその面談には俺も参加してほしいと言われたことを。

「なるほどね・・・」

「母さんには友達が出来たなら顔見せてほしいなとか言われてたんだけどね。状況が状況だから・・・」

まず友達が出来たなら顔見せてほしいって何だろう。孫か何かなのか。

「いいえ。私もついて行くわ」

「そうだよね・・・え?」

「水瀬くんのお母さんがよければ来てほしいと言っていたのでしょう。ならば問題ないはずよ」

「それはそうだけど」

「きっとあなたは一人で無茶しようとするわ。だからそれを止める人が必要よ」

「・・・」

「まあ一度お母さんに聞いておいてもらえないかしら」

「・・わかった」

そうしてなぜか姫川さんも一緒に実家に行く流れになりつつある。


「それじゃ今日は疲れたでしょうし寝ることにしましょう」

「それもそうだね」

既に今は1時を回っている。今日はずっと歩き回ったりしていたので疲れている。

「・・まあそれに顔に出てた不安も少しは取れたみたいだしね」

「え、そんなに顔に出てたかな」

「やばいくらい出てたわよ」

「まじですか」

「まじよ」

よくよく見たらちょっと雰囲気が変わっているぐらいかと思えばめっちゃ変わってたらしい。恥ずかしい。

「それじゃあおやすみなさい水瀬くん」

「うんおやすみ姫川さん。それとありがとう」

「当然のことをしただけだから」

姫川さんはそういうが俺にとってはとってもありがたかったのだ。

そうして寝室に向かいベッドに倒れる。

(忘れないうちに母さんに連絡しておくか)

そうして母さんに面談を許容することに加え、友達も一緒に行っていいかという話をした。母さんは少し悩むそぶりをしたものの快諾したのであった。

本当にそれでいいのか・・・


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