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※※※
私は変な子なのだと思う。今もこれからも・・・
私は人の心情がなんとなくわかる気がした。相手の顔を見れば今考えていることがなんとなくわかるのだ。物心ついた時からずっとそうだった。
父は最低な人間だったと思う。全部お母さんに頼ってばっかで、その顔からはどうして結婚したんだろうなどというふざけた心情が見えてきたような気がして・・・
それでも母は優しかった。私にずっとよくしてくれた。一緒にいてくれた。
ずっと一人でいる私を慰めてくれた。
・・・だけどそれが裏目に出たのかもしれない。
母の顔からは母の本当に辛いという心情が見えてきて。辛いという感情を押し殺して私のために頑張ってくれている母を想像して・・・とうとう嫌気がさした。
『こんななんの役に立たないものなんていらないっ!もっと普通の子に生まれたかったっ!』
母がいないところで何度も泣いた。だからこそ相手の顔を見ないようにした。
相手の顔を見ても心情を当てようなんてことをしなくなった。それが自分にとってどんなけ不利益を産むことなのかを理解したから。
私が泣いている時も父は母に文句を言っていて、言われている立場でもないのにとっても辛い気持ちになった。
死にたいと考えることだってあった。それでもその行動だけはしなかった。
『お母さんを必ず幸せにしてみせる・・・』
それが今の私の最大の目標。私の幸せよりも大事なものだから。
そうして私が中学に入学したころ父と母は離婚をした。そのせいで母は私を育てるためにさらに仕事を忙しくしたようだ。でも、それでも離婚したことが間違いだとは思わない。前よりも少し表情が柔らかくなっている気がしたから。
私はお母さんに自分のことは心配しなくてもいいと言った。お母さんにはもうちょっと楽をしてもらいたいから。どれだけ私が不幸でもいいのだ。
中学に入学してすぐに少し騒ぎになった。悪い意味ではない。
『あの子めっちゃきれいだよね~』
『わかる~肌もきれいだし優しいもんね!』
(確かにきれいな子だな・・・)
姫川舞。同じクラスメイトの女の子。容姿端麗で頭もよくて、おまけにスポーツ万能らしい。きっと告白が後を絶たないんだろうなと思った。
そうして私の考えた通り姫川舞はたくさんの告白を受けたようだ。
そして話題になったのが姫川舞が誰とも付き合わなかったという事実だ。
けど私が注目したのはそこじゃない。
(告白を受け始めてから男子への対応が素っ気なくなってる・・?)
そう、そこが気になった。男子からの告白がめんどくさいからそうするのか、それとも最初だけはいいように振る舞っていたのかはわからなかった。まあ理解しようともしなかったのだけれど。
でも、そんなある日。姫川舞は私と同じく部活に入っていないのでHRが終わればすぐに帰宅となるのだが、今日は少し様子が違った。否、姫川さんの様子が違うのではない。少し遠目で姫川舞のことを見ている男子三人組の様子が少しおかしいのだ。
そうすると姫川舞が教室を出ていくのと同時に男子三人組もそれに続くように出ていった・・・まさかね?と思いながらも私もついて行く。
そうしてついて行ってたらわかったがやはり男子三人組は姫川舞のことを尾行している。最低だなと思った。まあ私も尾行を行っているのだから人のことは言えないのだけれど。
そうして姫川舞が家の前についたところで・・・
『ほら!やっぱりここじゃん姫川さんの家って!』
『すげえ。結構立派な家じゃね?』
『ど、どうしてあなたたちが―――』
その時見た姫川舞はとても怯えていた。まあ確かにストーカーなんてものをされているのだから当然のことだとは思った。それでも異様なほどにおびえていたから、私は何かあったのだと確信した。
・・・だから私は数年ぶりになんの役にも立たないもので心情を確かめた。そうして彼女の顔からわかった心情はおそらくだが、男子が怖い。
信用できない。気持ち悪いなどの心情だった。
(本当に男子となにがあったんだろう・・)
明らかに今だけの心情じゃない。今までのことも含めて男子を怖いと認識しているのだろう。それが原因で彼女は言い返せない。声が出ない。怖いものは怖いから。
だから私が彼女を助けてあげなきゃと思った。私と彼女は特に関わりがあったわけでもないけれど、それでもこの場で見て見ぬふりする人などいないと思った。
だから私は男子のことを𠮟りつけて、姫川さんと一緒に先生に相談をした。
あれから男子からの謝罪があったそうだ。最近姫川さんは私と話すようになった。
きっとあれ以来少し信用というものを私に抱いてくれたのだ思う。
・・・だからこそ私が姫川さんのことを守らないと。
君は私のように傷ついていい人間じゃない。傷つくのは私だけで十分だから。
姫川さん・・いや、舞にはこれから幸せになってもらわないと。
私のように生まれた時から不幸にならなくていい。彼女はずっと幸せを握っていればいい。私はお母さんの幸せと舞の幸せを大切にすることにした。
そして高校に入った。別に私は頭が特段悪いということではなかったのでなんとか舞と同じ高校には通うことが出来た。できれば舞と一緒の寮生活を望んでいたのだが、頭が特段悪くないということは逆に言うと頭が特段と良いわけではないということで・・・舞と一緒に寮で暮らすことは無理だった。まあお母さんが寂しくなるかもしれないしそれはそれでいいかなと納得した。
けれどもそんなある日、舞の新しい寮に遊びに行ったのだが・・・
『えー?なんで男の子がー?』
『み、水瀬君!』
舞の寮に男子がいた。名前は水瀬碧というそうだ。どういうことだろう。
舞は男子が怖いと言っていたし、実際そうだと思う。今でもそうだ。
ならなぜ男子の水瀬君と一緒に暮らしているんだろう。
それがわからなかった。だから私は水瀬君を警戒することにした。
『ねえ碧くん、ゲーム一緒にしよー?』
だから舞から突き放そうとした。もしなにか弱みでも握られて無理やりの関係なら私は許す気はない。
と、そう思っていたのだが。そういう気持ちが見つからない。水瀬君が私が思っていた人間とは違った。舞も学校では今も男子に対して冷たくあしらっている。
『氷姫』と呼ばれているらしいがそれはただの姫川舞の仮面を被った姿でしかないのだ。それなのに舞は水瀬君に対して素の姿を見せていた。一切仮面を被らずに笑ったり、時々少し怒ったり。仮面を被らない姿を舞は男子に見せていた。
その時、私は少し喪失感に襲われた。舞が水瀬君のところに行ってしまえばきっと私と話すことが少なくなるだろうと。でもそれでも文句を言うことも行動を起こすこともなにもしなかった。だって私が決めたことだから。舞には幸せになってもらうって。もし今の舞が幸せなら?私が望んでいたことではないか。舞が誰の手によって幸せになったかなんて関係ない。私が望んだのは舞が私のようにならずに幸せをつかむこと。だから今の状態が正解なのだ。舞とはこれからも親友で居れると思う。
それでも舞の幸せを見つけたから。これからはお母さんの幸せにも向き合っていかないと。そうだ、舞が幸せになったなら今度はお母さんの番だ。
けれども私はお母さんがなにをすれば幸せになってくれるのかわからない。
ただそれだけがずっと考えていてもわからなかったのだ。
お母さんのことはゆっくり考えていこう。まだ時間はあるんだから。今は舞の幸せを喜んで守ってあげるべきだよね。
そうして『愛田一夏』は今日も仮面を被るのだ。
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