第14話 お出かけと最悪

時間が経つのは早いものである。

気付けば球技大会のあの日から約2ヶ月が経っていた。今日は定期テストの最終日である。

テストに関しては寮で過ごすにあたって高得点が条件とされているため、勉強を欠かしたことは無い。平均で90点はあるだろうしきっと大丈夫である。これはフラグでは無い。…ないよね?

(姫川さんはどうだったんだろうな。後で家で聞いてみるか)

最近は家でなら話すことが増えてきたのできっと話しかけても怒られたり嫌われたりはしないだろう。そう考えて、急いで家に帰宅する。


家に帰宅するとなぜか姫川さんは玄関で待っていた。本当になぜ?

「おかえり水瀬くん」

「うん、ただいま。で、どうして玄関にいるの?」

「実はテスト終わりで時間がたくさんあるから、買い物に行こうと思っているの」

「…?そうなの?なら気をつけてね」

「…いや、その…。実は買うものが多いから1人で持てるか分からなくて…」

「あぁ、荷物持ちしてほしいってこと?」

俺がそう言うと姫川さんはこくこくと頷いた。

「という訳で、20分後に玄関集合ということで」

「うん、分かった」

そう返事をして、部屋に向かう。

(あれ?これって2人で買いに行くの?それってデ──いや、ただただ買い物に行くだけだから)

きっと姫川さんはただただ買い物に行くだけだと思っているだろうし、俺だけ意識するのもなんか気持ち悪いから辞めておこう。


20分後。玄関で待っていると姫川さんが来た。

「ごめんなさい。少し用意に時間がかかってしまって」

姫川さんの姿はとても美しかった。モデルと言われても遜色はないし、街中を歩けば視線がとても飛んでくるだろう。

「え、えっと。よく似合ってるね」

「?!」

そう言うとそっぽを向かれてしまった。

「あ、あなたに褒められても別に嬉しくないわよ。ただ出かけるのだからしっかりとした格好にしているだけよ!」

「そ、そっか。ごめん」

「はぁ…あとこれも付けないと…」

「…?サングラス?」

「えぇ。今から行くところはここから少し離れてはいるけれど、同じ学校の生徒がいる可能性があるのだから変装は必要でしょう?」

「あー、確かに」

「それじゃあ行きましょうか」

「うん、そうだね」


そうしてたどり着いたのは2駅ほど跨いだ先にあるデパートだった。

「そういえば何を買うの?」

「部屋にある家具が少し私に合わなくてね、新しく買いたいのがあるのと、他にも日用品とかを買っておきたいから1人じゃ少しきつかったの」

「なるほど」

「先に昼飯を済ませてしまいましょうか」

「えぇと、なにか近くにあるかな?」

「あ、あれはどう?」

そう言って姫川さんが指したのはスイーツ専門店だった。

「えっと…昼から甘いものばっかり食べるの?」

意見を出していないから強くは言えないのだが、流石に昼から甘いものには抵抗しておいた方がいい気がした。やはり姫川さんは謎のセンスがある気がする。

「えっと…ダメかな…?」

「うんいいよ。ここにしようか」

折れた。恐ろしく早かった。姫川さんほどの美人な人に上目遣いとかされて断れる人っているのか?いや居ないだろ。

「姫川さんは甘いものが好きなの?」

「えぇ好きよ。嫌なこと忘れられるから」

「理由が少し重い…」


そうしてなんやかんやで昼食を取り、家具や日用品を買い終わり帰宅しようとしたいた。

「これは確かに1人じゃ無理だね…」

「そうでしょ?えっと、水瀬くんありがとう。手伝ってくれて」

「うん、別にこれぐらい大したことないから大丈夫だよ」

「あら頼もしい。なら冷蔵庫買う時は持って帰ってもら──」

「それはさすがに無理かなぁ。業者頼る方が早くない…?」

「ふふふっ。それはそうね」

おかしな会話。でもそれが心地よく感じる。

昔からちゃんと人を信用出来ていたらこんな風に楽しい学校生活を送れていたのかもしれない。

まぁ今更後悔しても遅いのだが。


2人で他愛のない会話をしながら歩を進めていると、1人の男性が話しかけてきた。

「──おっと?碧じゃないか!」

「──っ!」

「えっと…水瀬くん?お知り合い?」

「久しぶりだなぁ碧!何年ぶりだぁ?」

「…父さん。何年ぶりだろうね」

そう。目の前に居るのは浮気をして母を傷つけた最悪の父、『水瀬貴也』である。

こんなところで会うとは思わなかった。

「─!水瀬くんのお父さんだったんですね」

「んん?君は誰だい?碧の友達か?」

「こんばんは、私は姫川舞と言います。水瀬くんとは同級生で寮生活を共にしてる同居者でもあります。おそらくそちらにも情報は…」

「なに?!碧、こんな美人な子と同棲みたいなことしてんのか?お前も変わったなぁ」

「やめてくれ父さん。もう関わらないって決めたじゃないか」

「…?えっと水瀬くんどうしたの?」

「あー実はなぁ──」

「やめて父さん。人に話すような事じゃないでしょ」

「なんだよ、久しぶりに会ったって言うのに冷たいなぁ。反抗期ってやつか?それにしても母さんは元気かぁ?」

「っ!母さんって気安く呼ばないでくれ。あなたにそう呼ぶ権利はもうない!」

「ったくめんどくせぇなぁ。まぁいいか。でも気をつけた方がいいぜ碧。美人な奴ほど性格に難があるんだ。そこにいる嬢ちゃんもそうかもしれないぞ?」

「姫川さんを悪く言うのはやめてくれるか?もう俺と父さん…いや、俺とあなたは他人だ。深く関わる必要はないだろ。俺はお前を許していない」

「ふん、変わったな碧。まぁいいか。またもしかしたら関わることもあるかもしれねぇしな」

「…どういう事だ?」

「いーや、こっちの話だ。それじゃあな」

「ちょっと待て」

「なんだ?碧。自分から遠ざけておいてやっぱり何か用か?」

「姫川さんに謝ってくれ。姫川さんは関係ないのに巻き込まれている。それぐらいわかるだろ」

「あーそうだったなぁ。すまんな嬢ちゃん碧が迷惑かけたな」

「迷惑かけてんのはどっち──」

「じゃあな」

そう言って『水瀬貴也』は離れていった。


「…」

「…」

しばらく沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは俺だった。

「帰ろうか。もう用は済んだことだし」

「え、えぇ。そうね…」

そうして俺たちは行きよりも少し急ぎ足で家に帰った。

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