第13話 隠し事

※※※

今日は球技大会だ。私は一夏以外の子と一緒にいることもあるとはいえ、信用は出来ていないかもしれない。だから集団でのスポーツはやっぱりまだ苦手なのだ。

…にしても水瀬くんの方は大丈夫だろうか。見た感じあまり人付き合いが得意とは思えなかった。

そんな心配をしていたら試合のホイッスルがなった。

(うわっ…この子身長高いなぁ)

私よりも高い身長を持つ女の子が相手のチームに居る。水瀬くんぐらいの身長はあるんじゃないだろうか。私の種目はバスケだから身長が高い人はやっぱり強い。しかも上手いし。…多分だけどこの子バスケ部かな。

とはいえ私も運動は得意だ。別に生まれた時から全部が得意だったわけじゃない。容姿もそうだし勉強もそう。周りが遊んでいる中、私は努力してきたんだから。


前半は私たちのチームが優勢だったのにやっぱり体力の多さが違う。少し差をつけていたと思っていたがいつの間にか逆転されている。

時間としては残り1分ほど。あと1回ずつアタックをして終わりぐらいだろう。

こういう時って結構緊張するよね。

今は2点差で相手のチームに負けている状況だ。

「佐野さんナイスカット!」

チームメイトの1人がそう叫んだ。気付いたらチームメイトの佐野さんが相手からボールを奪っていた。

…なぜか少し集中力が切れている。だからだろうか私は周りを見渡してしまった。

大きな声を張り上げて応援をしている男子たち。

キャーキャーと叫んでいるようにしか聞こえない声を上げている女子たち。

今私(たち)はこの歓声や観客に包まれている。

「──っ」

嫌なことを思い出してしまう。今の状況を中学校の頃のトラウマに置き換えられて怖くなる。


小学校の頃は普通にみんなと仲良くしていた。変わったのは中学校からだろう。

男子たちは私が何かしただけで集まって褒めてきた。何が凄いのか分からなかった。それでも男子たちは私に群がってきた。そして告白も増えた。

私も普通に男子とも話していたから何か接点があった男子はなぜかほとんどが告白をしてきた。

けど私はそれを断った。

そして男子たちは諦めが悪いのだ。

靴を隠された。男子は好きな子にちょっかいをかけたくなるというのは本当らしい。

ある日リコーダーが無くなった。どこにやったのかが分からなくて先生に相談したけれど、数日後に新しいリコーダーが渡されただけだった。

だから私はリコーダーを無くしたと信じ込むことにした。私は何も見ていない。クラスメイトの男の子が私のカバンを漁っているところなんて。

その子が手にリコーダーを持っていたことなんてきっと私の目には写っていないのだ。

…そこからだった。男子が怖くなった。

だからあえて関わらないように頑張った。

女子たちは意外といい子が多くて私のことを心配してくれる子もいた。もちろん中には嫉妬で嫌味を言ってくる子などはたくさんいたが気にしないようにしていた。

帰る時も急ぎ足で一人で帰ったりたまには母親に迎えに来てもらっていた。もちろん母親には相談などしていない。何かと理由をつけて迎えに来てもらっていたのだ。


しかしある日。急ぎ足で下校をし、家の前に着いた時だ。

「ほら!やっぱここじゃん姫川さんの家って!」

「すげぇ。なんか結構立派な家じゃね?」

曲がり角から数人の男子たちが出てきた。

(な、なんで?どういうこと?なんでいるの?)

と思っていると1人の男子が話し始めた。

「やっぱついて行ってみて正解だな!姫川さんの家知ってるの俺らぐらいなんじゃね?!ねぇねぇ姫川さん家入れてよ!」

本気で言っているのか?それはもはやストーカーでは無いか。尾行して家を特定する。

自分がいざストーカーをされると思っていなかった。私は声が出ないほどに怯えていた。

「ねぇ、聞こえてる?姫川さん?せっかくなんだから遊ぼうよみんなで」

そう言いながら少しこっちに近づいてくる。

「い、いやっ!」

「なんか最近姫川さん冷たくない?前まで普通に話してくれてたじゃん」

「い、いやそれは…」

運が悪いことに今日は母親が買い物に行くと言っていた。急いで家に入ってしまえばいいのだろうが、もし力ずくで入ってこようとされたりしたら一瞬で入られるだろう。そんなことはしないはずと思おうとしても尾行をしてきた時点で信用出来るわけが無い。家の前で怯えていると…


「こらぁ!!あんたたち何してんのよ!!」

さっき男子たちが出てきたところから女の子が出てきた。確か名前は愛田一夏さんだったと思う。

「げっ、愛田。な、なんでここに」

「なんでってあんたたちの帰り道こっちじゃないでしょ?!なんか怪しかったら様子見てたら姫川さんのこと尾行して!やっていい事といけないことがあるでしょ?!」

「な、おい。めんどくさい事になる前に帰ろうぜ」

「だ、だなっ」

そそくさと男子たちは去っていく。本当に怖かった。

「大丈夫?姫川さん?」

「え、えぇ。ありがとう愛田さん…まさかこんなことが起こるなんてね…」

「ほんとにそうだよ!ちゃんと親と先生に話そうよ!」

「え。で、でもそれじゃ面倒事になってしまうし…」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!私が見てる限りさっきの姫川さんとっても恐怖に怯えてたよ!」

「っ!」

「だから私も一緒に言ってあげるから!ね?」

「わ、わかった」

そうして親と先生に相談をし、男子たちの両親からとても謝罪をされた。男子たちも謝っていたが見ることさえ怖くて見れなかった。

それが私のトラウマ。周りの男子から囲まれるのでさえ怖い。いつ何をされるか分からない。

今の状況は歓声などだけだし、遠く離れている。それでも昔のトラウマを思い出すと怖くなる。


「姫川さん!シュートお願い!」

「え、あ、はい!」

佐野さんからパスをもらう。今私がいるのは3ポイントラインの外側。決めれば勝ちだ。

でも今の私は恐怖心や緊張で足すらも震えている自信がある。こんな状況で決めれるだろうか。

もういっその事諦めてしまおうかと思った。

でも歓声の中に、ある男の子の声があった。


「頑張れ!姫川さん!」

なんの特徴のない声。でも私は毎日のように家で聞くようになったから判別できる。水瀬くんだ。

正直に言おう。私は水瀬くんに特別な感情を抱いている。…と言っても恋愛的な感情を持っている訳では無い。人を好きになるってよく分からないし。

でも私は男子たちと関わらないようにしてきた。

けれど私は水瀬くんと関わっている。

ほかの男子とは違う男の子。私の中では特別な男の子。そんな彼の応援だけで私は十分だった。

ボールを放った。綺麗な曲線を描いている。

ボールがリングにも当たらずに綺麗にネットを通った。


最後の方は変な感情になっていたのに1人のたった1つの声でそんな感情は吹き飛んだ。

(私ってこんなんだっけな…)

と心の中で思ってしまう。とりあえず中学校時代のことは忘れよう。そしてこのことは絶対に水瀬くんに話してはダメだ。彼は優しいから。

優しいからこそ私のトラウマを知ってしまったら距離を置こうとするだろう。私を安心させるために。

せっかく唯一話せる男の子の知り合いができたのだ。ここで関わりがなくなってしまったら私は一生、男という生き物に恐怖心を抱きながら生きていくことになるだろう。

だから彼をキッカケに中学校時代のことは水に流さないといけない。大丈夫、私ならきっとできる


そんなことを考えていたら水瀬くんのチームの試合が始まった。だから私も1歩進むために水瀬くんのように応援をしてみることにした。

私の声に気付いたのか、最後の最後まで一生懸命に頑張っていた。結果としては負けちゃったけどそれでも私から見て水瀬くんはかっこよかった。

ああやって何事にも本気で取り組める人は尊敬できる。

(今日ぐらいちょっといい晩御飯にしようかな)

そんなことを考え、私の球技大会は終わった。



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