第11話 球技大会2
──放課後。生徒たちが下校していく。
今日どこ行く?や早く帰ろー!などと楽しそうな声が聞こえてくる。
「…痛いなぁ」
俺はというと体育の時間で思いっきり頭をぶつけたせいで最悪の気分だ。頭をさすりながら今日の予定について考える。
「…今日は特に予定は入ってないし帰ろっかな」
そう思い、帰路につく。
「──ただいまー」
と声をかけ荷物を置き、部屋に入る…のではなく何故かまたリビングのところに居る姫川さんの元へ。
(最近は家でだけ少し話すようになったんだよな)
姫川さんは俺の存在に気付いた途端少し急ぎ足でこちらに近づいてくる。
「あっ、水瀬くん。…えっとその頭大丈夫?」
「なんで急に俺ディスられたの…?」
「そ、そうじゃなくて!ほら体育の時に…」
「あぁ見てたんだ。そのなんか恥ずかしいね」
「あ、あそこまで騒ぎになってたら誰でも見るわよ!で、大丈夫なの?」
「うん。当たった時が痛かったぐらいで今は特に痛くもないよ」
「そ、そう…ならよかったわ」
「もしかして心配してくれたの?」
「っ!そ、そんなわけないでしょ!同居人が怪我したら私に負担がかかるから確かめただけよ」
「そ、そっかごめん…」
耳を真っ赤にしてまで怒ってみせる姫川さんを前に、確かに心配してくれたの?はきもかったなと思いなおす。やっぱり女性と話すのは難しい。
──時間が経つのは早いものだ。
気付けば球技大会当日。相変わらず寝落ちが弱い姫川さんを叩き起して急いで支度をする。
「…おかしいわね。昨日はいつもより2時間早く寝たはずなのだけれど…」
「もはやそういう体質なのでは…?」
「早起きはどのテストよりも難しいわ」
ワケワカメである。まじで姫川さんの親御さんお疲れ様です。
なんやかんやで学校に着いた俺は体操着に着替えて体育館へ向かう。道中には女子に囲まれている姫川さんが。
「きゃ〜体操着姿でも相変わらず姫川さんは可愛いし美しいわ!」
「毎朝きっと早くに起きて手入れしてるんでしょうね〜!尊敬する〜!」
「あははは…」
凄いな。見事に予想とかけ離れている。凄い(大事なことなので2回言った)。
体育館では先に女子たちの競技が行われるらしい。男子たちは邪魔にならないように観戦席に座ったりしている。
姫川さん頑張れー!
周りからそんな声が聞こえてくる。
どうやら1試合目はウチのクラスの女子VS隣の組の女子らしい。
ちなみに隣のクラスはバスケ部所属が多いらしく。5人全員バスケ部で固めようとしたところさすがに拒否されたらしい。
…それでも十分すぎるほどに差がある気が…
なんと隣の組には180越えの女子もいた。
もはや卑怯の類だよあれ。
隣の組の男子が負けるわけねぇ!と叫んでいたが、実際どうかというと…
「うわっと!っく…姫川さん運動神経良すぎでしょ」
普通にバスケ部相手に対抗していた姫川さんであった。…とは言いつつもやはり相手もバスケ部。
姫川さんがゴールを決める度決め返されて、差がつくことがない。
…そうして気付いたら同点のまま残り1分。
と、残り30秒ほどでこちら側のチームにボールに。
周りから姫川さん頑張れ〜!などなど色んな声が聞こえてくる。
(俺も何か言ってみるべきかな)
普段なら絶対に何も言わずに黙っているだけだが、今はなぜか声を出したい気分だった。
「ひ、姫川さん!がんばれー!」
そう俺ができる限りの大きな声で発した時、少し姫川さんが笑ったように見えた。
…そう入学式の日に見せた笑顔のように。
(まぁそんな幻想が見えるぐらいには高校生活楽しんでんのかな俺…)
姫川さんが放ったボールがリングにも当たらずゴールに決まった。
おおお!わああ!
という歓声が周りから響き渡っている。
(…本当に姫川さんはなんでも出来るんだな。すごいなぁ。俺はずっと人に脅えて…)
思い出されてしまったのは昔の記憶。
あの日ただ怯えることしかできなかった自分。
周りと話すことを拒み、1人になることを選んだ自分。それなのに結局は友達が欲しいなど恋人が欲しいなどほざいている自分。
そんな自分と姫川さんを見比べると、とても自分が惨めで仕方が無くなる。
(はぁ…球技大会の最中に何考えてるんだろ)
そう思い、姫川さんの方に視線を向ける。
チームメイトたちに囲まれて今にも胴上げされそうな雰囲気の中にいる姫川さん。
(あんな子と付き合える人は幸せものなんだろうな)
姫川さんは冷たい。それが学校においての姫川さんの男子からの印象。それは間違っていないし、俺もそう思う。でも姫川さんがそれだけでは無いということは最近わかった。
まず第一に姫川さんは優しいのだ。優しい上に努力家。そして美人。なるほど男子が惚れまくるわけが詰まっている。しかしそんな人に俺は好意を抱かない。抱いてはいけない。俺はもう幸せの形を忘れてしまったから…
そういう暗いことばっかり考えていたからだろうか。俺は姫川さんがまるで人の心を見透かすような目でこちらを見ていることに気付くことは無かった。
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