第10話 球技大会
学校が始まって4週間ほど経てば、学校の行事が始まってくるものである。
俺達にとっての最初の学校行事は球技大会である。そう、球技大会。
…球技大会と言えばあまりいい思い出は無い。
サッカーをして顔面に思いっきりボールが当たった。バスケをしてパスされたボールで突き指をした。バレーをして上手くレシーブできたと思ったら跳ね返り思いっきり顎に当たった。
…ボールに嫌われてるのか、ただただ運動神経が悪いのか。どちらかなのかは分からないが、とりあえずいい思い出出ないのは確かである。
「それじゃあ男子はバレーボールかサッカー、女子バスケットボールもしくはテニスから選ぶように」
男子の種目はバレーボールとサッカーのようだ。
はっきり言うとどっちともいい思い出がない種目なので参加はしたくない。しかしそんなこと言っても参加しないということは出来ないので、比較的マシなバレーボールに参加することに。
どうやらバレーボールもサッカーも1チームずつしか作らないようで、バレーボールの方は交代で出ることになる。つまり自分が出なくていい時間があるということ。そんな理由で決めた。
「よし、じゃあ決まったな。球技大会とはいえこれからの体育では一応練習時間が設けられるからしっかり練習するように」
怪我はしたくないのでしっかり練習しようと思う。せっかくやるなら勝つ方が気分はいいだろう。
そうしてその後はチームで話し合いをする時間が設けられた。バレーボールのグループのところに向かい話を聞いておく。…と、そこで
「えっと君、水瀬くんだよね。同じチームの矢幡優斗。よろしくね」
「え、あ、うん。よろしく」
名前を呼ばれて話しかけられたのは初めてではないだろうか。話しかけてきたのは、髪を染めたりしている訳では無いが、明らかに俺とは違う陽の雰囲気を纏っている男子だった。
クラスメイトと話せただけで進展し、たと思っていいのかな…
ちなみに途中で愛田さんと目が合ってしまい、愛田さんがこっちに向けてウィンクをしていたが見なかったことにした。周りの男子たちが
『今俺にウィンクしたよな?!』
『いや俺だろ!』
とか馬鹿なことを言っていたおかげで助かった。
絶対口軽いよねあの人…
そして放課後、特に予定は無いのでさっさと帰宅することにする。帰る際に周りの人達が寄り道をしていたりするのを見かけるが、特に気にする事はない。今までと何ら変わらないのだから気にしなくていいのだ。それが水瀬碧だ。
…そうして家に帰ってきた。
「ただいま…」
つい高校に入る前と同じように癖でただいまと言ってしまったが、まず言葉が返ってくることない。しかしながら今日は違った。
「おかえりなさい水瀬くん」
「…!珍しいね、姫川さんがリビングにいるなんて」
姫川さんは基本的に夕食の時以外は部屋で過ごしている。いつも家に帰ると既に部屋にこもっていたので、今日ここに居ることが珍しかった。
「俺になにか用でもあった?」
「そんなに重要なことでもないんだけど、水瀬くんは球技大会の種目何にした?」
「え?俺はバレーにしたけど。どうして急に?」
「…はぁ。一夏にもうちょっと男慣れするために、水瀬くんと接しないさいと言われたのよ」
「あー、なるほど」
確かに愛田さんなら言いそうではあるな。
「…確かに全くもって男子に対して愛想がないというのはわかっているけれど、愛想良くしたら告白が増えるのが目に見えてるから…」
「…たしかに。モテるって大変だね」
「えぇそうよ。モテていいことなんて実際はほとんどないのよ」
すごくモテる姫川さんだからこそ説得力がある。
その後はバレーを選んだ理由や、姫川さんがバスケを選んだことなどを話していつも通りの生活をした。俺たちはきっと今の関係でいい。
家に帰ってもほとんど話すことはなく、夕食の時に少し話す。そうしてお互いの時間を作る。
そんな関係だからこそ姫川さんも安心しているのだろう。
…そして翌日。早速体育の時間がやってきた。
「各々ストレッチしてその後自由に練習。先生は何かあった時だけ対処するから基本的には自分たちで頑張るように」
そうして各々ストレッチを開始する。
しかしながら1人だけストレッチをしていない男子が。…いや正確にはストレッチをしているのだけれどね。
「あはは、水瀬くんそういえば体硬いんだったね」
「…覚えてたんだ、矢幡くん」
そうして話しかけてきたのは同じチームの矢幡優斗。
「まぁさすがにあの記録はね…」
「うぐっ…」
体育が始まって速攻なぜ俺は精神的ダメージを食らっているのだろうか…
「──じゃあ、僕はレシーブするから水瀬くんは打ってみてね」
俺とはいえボールを打つことぐらいはできる。
少し離れているがこれぐらいならいけるだろうとボールを勢いよく打ってみる。
ボールを手で思いっきり打った瞬間、気持ちのいい音と共に、ボールが飛んでいく。
「──ぐへっ」
…顔面にボールが当たった。誰かが打ったボールと当たりボールがはね返ってきた。
「み、水瀬くん!大丈夫?!」
そう言って矢幡くんが近寄ってくる。
…やっぱりボールなんてクソくらえだ。
そう頭の中で文句を言う俺が見たのは心配そうな眼差しでこちらを見る姫川さんだった。
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