第8話 最悪の形

──あれから1週間が経った。

今日は体力テストの日らしい。運動は得意でも不得意でもないので特に思うことは無い。

体力テストと一緒に身体測定もするそうで、昨年度は身長が170cmちょうどだったので伸びたのか縮んだのかは気になるところである。


「水瀬碧。記録7.90秒!」

50m走で相変わらずの普通の記録を出していく…なにかしら特技が欲しかった…


「──すごーい!姫川さんはや〜!」

少し離れたところで記録を測定している女子たちが騒いでいる。ちなみにこちらの男子は姫川さんの胸に注目していたらしく、どれだけ速かったのかは見てなかったのだろう…馬鹿どもめ…

ちなみにタイムは7.10秒なのだそう。

…普通に負けて悔しいとは思わない。あそこまで容姿端麗だし運動もできるのではと思っていたが、やはり出来るようだ。

ちなみに俺はというと、体が硬すぎて長座体前屈でクラスの最低記録を出した。背中いてぇ…


そんな感じで体力テストを終え、クタクタになった俺だが、今日は帰りに寄るところがあるので疲れて帰宅なんてことは出来ない。

家から荷物はある程度送ったのだが、それでもやはり足りないものやこっちで調達した方がいいものなどがあったので今日は寄り道をして買いに行こうと思うのだ。

こんなことでわざわざ連絡するべきか?とは思ったが、初めて姫川さんに連絡をしてみる。


『姫川さん?』

『…?なに?』

前の席の方で同じように姫川さんがスマホをいじっている。

『今日買わないといけないものがあるから、帰るのは少し遅れるかも。こんなことで連絡するのもどうかと思ったんだけど念の為』

『わかったわ。それにしても何を買いに行くの?エロ本?』

『いやそんなわけないでしょ…ただただ、足りなかった家具とかを買いに行くだけだよ』

『え?なに?エロ本が無くても私がいるからいいって?汚らわしいわ。話しかけてこないで』

『被害妄想酷すぎませんかね?』

まさか姫川さんからエロ本という単語が飛んでくると思っていなくて少し焦ったが、まぁ何とかなっただろう。…というか最初の連絡でなんという会話をしているんだ…


というわけで放課後。早速俺は近くのデパートへと赴き、足りなかった家具などを探していく。

「これ良さげだけど少し高いな…それに部屋に置けるかも怪しいしな」

と1人でブツブツ言いながら探し続ける。

するとそこで…

「なにかお探しでしょうか?」

「?!」

猫のように飛び跳ねてしまった。

あぁ…出た。コミュ障にとって1番辛いショッピングの敵。『店員さん』である。俺の存在感薄々の効果を持っても普通に話しかけられてしまうのだから怖いところだ…

「い、いえ。だ、大丈夫です…」

「そうですか。もし御用がありましたらいつでもお呼びかけください」

そうして綺麗にお辞儀をして去っていく。

…とりあえず強敵は去ったようだ。

ちなみに俺は買い物をする時はできる限りセルフレジを利用している。…理由はまぁ言わずともわかるだろう。

「はぁ…さっさと買って帰ろ…」

そうして欲しかったものをパッパと手に取り会計を済ましていく。


「思ったより早く買い終わったな」

店員さんから逃げたくてさっさと買い物を済ませたせいか、予定より早く帰宅出来そうだ。

「そういえば姫川さんに何時ぐらいに帰るということは伝えていなかったな」

その事を思い出し、チャットアプリを立ち上げる。

『姫川さん、思ったよりも早く買い物が終わったから今から帰るよ』

こんな連絡をしてたらキモイと思われるかもしれないが、念の為だ。

…既読がつかない。少し歩いてからスマホをもう一度見てみたが既読がつかない。スマホを触ってないこともあるのは分かっているが、家にいる時は姫川さんは基本的にスマホを触っていた気がするので少し違和感を覚えた。

「寝てたりするのかな?」

そう思いこみ、少し急ぎめに帰ることにした。

…そうして後悔することとなった。


家の前に着いた俺は「ただいま」という声と一緒にドアを開く。ちなみにいつも言っているが姫川さんはおかえりとは言ってくれない…やはり冷たい…

「…?」

そこで俺は違和感を覚えた。何故か見覚えのない靴がある。姫川さんが新しく靴を買ったのか?いやそれにしては少し使い古しているような…

そうしてリビングへと向かってる最中に答えは明かされた。


「──なになに?誰が帰ってきたの?!」

「あ、ちょっ、待ちなさい!一夏!」

「待たないよーだ!この家に誰が入ってきたのか…な…」

そうして『愛田一夏』と目が合う。

「えぇーー?!舞が男を連れ込んでるー!?」

「ちょっ、一夏?!」

…はっきりいって最悪だ


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