第6話 過去
※※※
『──ふざけないでっ!!どうしてあなたはいつもいつもそうなのよ!!』
『あぁ?!なぜこちらのせいになる!元はと言えばお前のせいだろう!!』
なぜ2人が喧嘩するのか分からなかった。
大好きなパパとママは自分のことを愛してくれた。幸せな家庭だったはずだ。ならばなぜ喧嘩をするのだろう。
小学校に入学したばっかの僕はパパとママが喧嘩をする理由が分からなかった。
僕はごく普通の一般家庭に生まれた。別に贅沢をできた訳でもないが、逆に不自由でもなかった。
両親は優しかったし、友達だっていた。
だがそんな生活もたった一つの出来事で無くなってしまった。
『あなたが浮気なんてするから悪いんでしょう?!なんでこっちのせいになるのよ!!』
『お前のせいで日々ストレスが溜まっていたんだ!こちらが一方的に悪いとされるのはおかしい!!』
父親が浮気した。母によると、たまたま忘れ物をした父のことを追いかけて荷物を届けた際、
部下の人と手を繋いで入社している父親を見たのだとか。その後問い詰めたところ浮気が発覚し、揉め合いになっている。ものが飛び交う。怖くなって隣の部屋に逃げ込む。今まで大好きだった父親が醜く見え、そして怖くも見えた。
『碧ならわかってくれるよな?父さん悪くないよな…?』
『ちょっと!碧に近づかないで!』
父がこちらに手を伸ばしてくる。母が父を止めようとしているが力で勝てるわけが無い。
やだ…やだ…こっちに来ないで。パパが怖いよ。
僕をどうする気なの。誰か助け──
「──っ」
目が覚めた
「はぁ…はぁ…はぁ…」
久しぶりにこの夢を見た。最後に見たのは中学3年生の夏休みぐらいだろうか。
俺が1番覚えている記憶であり、1番忘れたい記憶でもある。
「服めっちゃ濡れてる…」
相当の汗をかいたのだろうか。着ていた服は所々が濃くなっていて体に引っ付いて気持ちが悪い。
「着替えるか…」
部屋のクローゼットから新しい服を取りだし、洗面所にタオルを取りに行く。
「姫川さん起こしちゃ悪いしこっそり…」
そうして洗面所からタオルを取り、体を拭き、新しい服に着替える。
「なんで今になってまた…」
さっきも言った通り、この記憶は1番忘れたい記憶。普段は絶対に思い出さないようにしているので普段は思い出すことは無い。
ならなぜ今になってまた思い出したのか。
「こんなこと考えるだけ無駄か…寝よ…」
自分の嫌な記憶について考えるなんてゴメンだ。
今の時間が4時とは言え、まだ眠い。
学校だってあるのだから少しでも睡眠時間は多い方がいいだろう。…しかし何故か眠れない。
「誰にもバレないようにしないと…」
本当はわかっている。誰かを頼るべきだと。
両親のことを誰かに話して少しでも心を安らぎさせるべきだと。だがそんなことはする気は無い。できない。これは自分の気持ちの問題。子供の頃から誰にも頼らず生きてきた。母さんは毎日仕事で夜まで忙しかったから話す機会もほとんどなかった。
離婚したあとも父親からお金は送られているらしいが。母さんは『これは碧がいつか幸せを見つける時まで貯めておくからね』と言っていた。
本当に優しい母親だ。…だからこそ浮気をした父親が憎い。母と自分を不幸にした父親が憎い。
父と母が離婚したのを機に俺は誰も信用しなくなった。学校でも誰とも喋らずに端っこにいるだけ。そりゃそうだろう。父親の今までがただの仮面に過ぎなかったと気付いてしまったのだから。
周りにいるみんなもきっと同じだ。信用することなんてできない。父と母のようにあぁなってしまうのならば最初から人を信用しなければいい。
ひねくれた考え方ということはわかっている。
でもそれでいい。それが『水瀬碧』なのだから。
…本当のことを言えば姫川さんのこともあまり信用出来ていない。優しいのはわかっているし美人で面白い女の子だということも。
それでも認識するのと信用するのは違う。
今はそうであってもそれが本当の姿なのかは分からないのだから。そんな事ないと分かっていてもやはり怖い。相手を信用して自分の心が満たされたとしても。それを幸せと感じたとしても。
その『幸せ』をまた壊されるのが怖い。
「…どうするのが正解だったんだろう…どうすれば…どうすれば…」
そんな悲しげな声が響く中、夜はあけていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます