第1話 氷姫と呼ばれる君

「…緊張するな」


俺の名前は水瀬碧。今日から桜木高校に通う高校一年生だ。今まで住んでいた県から少し離れた県にある学校なので同じ学校に進学した友達などはいない。

……まぁ元々友達いなかったのだけれども。

そんな俺は今高校に向かって歩いているところだ。周りを見てみると、友達と話しながら同じ場所に向かっている生徒がちらほらいる。


「―――――」


…なにを話しているのだろう。盗み聞きはあまり良くないが気になるので聞いてみる。


「なぁ聞いたか?!俺らと同じ新入生に、姫川舞がいるらしいぜ!」


「姫川舞ってあの、容姿端麗で頭脳明晰で有名な姫川舞かい?」


「そうだよ!その姫川舞だよ!」


…どうやら姫川舞という人は他の中学である人からも名前を認知されているほどの有名人らしい。

何をしたんだ一体……


「え?そんな人いるんだね。俺狙ってみようかな。」


「やめとけやめとけ。噂では告白を断った回数は100回以上。話しかけてくる男子を氷のようなオーラで遠ざけていくことから『氷姫』と呼ばれてる姫川舞だぜ?お前みたいなやつじゃ話しかけることすらままならないっての」


100人て…50人目が振られた時点で全員諦めろよ。と俺は思うが、他の人はきっと違うのだろう。1ミリでも可能性があれば告白して付き合いたいのだ。まぁ俺にはきっと縁のない話だな、と思っていると気付いたら学校の門へ着いてしまった。


「はあ…友達できるかな…」


昨日母さんに心配されたことを思い出す。

中学で友達を1人も作れなかった俺が高校で友達なんて作れるのだろうか…


「まぁ何事にも挑戦が大事か。」


そうして俺は門を通った。


そうして入学式を迎える……前に俺には最大の壁が押し寄せている。

そう。自己紹介である。

張り出されているクラス表を見て組を確認した俺は教室へと向かった。そうして担任が来たところで入学式の前に済ませてしまおうということで自己紹介タイムが始まった。

…はっきり言ってもう帰りたい。


「じゃあ出席番号順に自己紹介してもらうから。じゃあ最初は朝日さんからどうぞ」


「はい」


「―――――」

と、そんな感じで出席番号1番目の人から自己紹介が進んでいく。ちなみに緊張しすぎて全然他の人の自己紹介は聞こえていない。自分は『水瀬(みなせ)』なので出席番号は30番ぐらいである。まぁ順番はどこであろうと辛いのには変わりない。

そして30番に近づいてきたというところで1人の銀髪の女の子が立ち上がった。


「「「おぉー」」」


そんな声が周りから発せられる。


「それじゃあ次は姫川さん。自己紹介よろしくね」


「はい。分かりました。」


透き通った声。綺麗に靡く銀髪。誰もが見とれてしまうほどの美少女。姫川舞がそこにはいた。


「同じクラスだったのか…」


そう小さく呟く。他の人の名前など、どうでもいいと言うことで自分の名前だけ確認して教室に来たが、まさか同じクラスだったとは。


「姫川舞です。花ノ宮中学から来ました。好きなことは読書です。1年間よろしくお願いします。」


そう言って綺麗にお辞儀をして見せた。これは100人に告白されるのも納得である。

……まぁ全員見事に散ったらしいが。

そんな彼女のことを考えていると自分の番になってしまった。こうなったらもうヤケクソで頑張ってみよう。


「えっと…水瀬碧です。す、好きなことはまぁ…ゲームとか色々好きです…1年間よろしくお願いしましゅっ」


「ふふっ」


やらかした。思いっきり噛んだ。しゅってなんだよしゅって。しかも誰かに笑われたし。

やっぱり自己紹介なんてクソみたいな時間だ…

もう友達なんてできないかもしれない…

と思いつつ、周りの人達の微妙な空気に嫌な気になっている時、ふと前を見ると、姫川舞が少し笑っているような気がした。人を馬鹿にするような笑いではなく、面白い人を見るような笑い方だろう。


その時初めて俺は女の子である姫川舞という存在に興味を持った。

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