氷姫と呼ばれる君の僕だけが知る甘い顔

水無月桜

プロローグ

四月。

新しい出会いに楽しみを抱く人や、不安を抱く人もいる季節。

……俺はもちろん後者であるが。

だがそんな不安を持っていても時間は待ってくれない。


俺は明日から少し離れた県の高校に通うことになる。勉強は出来た方なので難なく合格することが出来た。今日までは母さんと二人で暮らしてきたが、明日からは母さんは傍にはいない。


「それじゃあ碧。これからはお母さんいないけど頑張ってね。」


「うん、頑張るよ。あっちに行ってからも定期的には連絡するから」


「えぇ、そうしてちょうだい。……ねぇ碧?」


「…?どうしたの?」


「……友達できるといいね」


「またその心配?俺は大丈夫だから。……友達できなくても」


「こら」


友達ができなくてもいいと言ったのは半分本音で半分は嘘である。

本当は友達だって欲しいし欲を言えば恋人だって欲しい。けど、どうしても自分の父と母がどうなったかを考えると……いや、これ以上はやめておこう。


「大丈夫だって。俺が過ごすのは学生寮だから。きっと一緒に暮らす人と仲良くなれるさ。」


「……でもその学生寮って、碧ともう1人の2人きりじゃなかった?」


「うぐっ」


その通りである。俺は母さんにお金の負担をかけたくなかったので、テストで高得点を取ることが条件の無料の学生寮で過ごすこととなるのだが……高校の先生いわく、その学生寮は俺ともう1人の生徒の二人きりで過ごすことになるらしい。……はっきりいって心配である。


「まぁ、ずっと心配してても仕方がないわよね。辛くなったら帰ってきていいからね」


「だから大丈夫だって母さん。それじゃあ行ってきます」


「えぇ、行ってらっしゃい碧」


学生寮で一緒に暮らす男の子とも仲良くなって、平穏な高校生活を送ると決めたんだ。そのためには自分から歩んで頑張って行かなければ。


……この時の俺はまさかの次の日に、平穏な生活という目標を砕かれるとは思ってもいなかっただろう。

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