第3話

 転送石・・・砕くとあらかじめマーキングしたところに飛ぶことができる帰還アイテム。使用者にしか作用しない

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ギルドの中には多くのクライマーたちがおりそれぞれバベルに行く準備をしている者や仲間と話し合いをしている者たちなど様々な者で溢れていた

征司達はそんな中を進み受付に向かう。


「これは黒狐くろこ様、平日にいらっしゃるのは珍しいですね?本日はどのようなご用件でしょうか?」


受付嬢は征司の今の姿の人物を知っているようだった。


「天音さん、すまないが個室を借りたい」


「・・・かしこまりました、ではこちらに必要事項をご記入ください」


天音と言われた受付嬢は黒狐征司に書類を渡すと黒狐はそれに記入していく。

記入を終えた書類を天音に渡すと天音は後ろにいた別の受付嬢を呼び交代をし受付カウンターから出てきた


「では、ご案内させていただきます。」


そう言うと天音は歩き出し地下へ続く個室へと案内を始めた


「ギルドの地下にこんなとこがあったなんて・・・」


絵梨は天音に連れられギルドの地下に降りるときょろきょろ見渡していた。


「別の階にも個室はあるのですがここのは特別知られてほしくないこと用なのです」


天音に付いて行くと通路の先にある1つだけある扉に案内され中に入る。

中は広く、正面には大きなモニターがあり会議室のようになっていた

征司と絵梨はテーブルを間に対面に座るがなぜか天音は黒狐の隣に座っている


「それでくん、今日は何があったの?」


「!?」


天音が征司の名を呼んでいる、絵梨はいまだ女性の姿をしているのに対し本来の名前で呼んだことに驚いていた

すると黒狐は顔につけていた狐面を取りいつもの征司の姿に戻り


「・・・天音さん、ごめんバレた・・・」


征司は絵梨とここに来た経緯を申し訳なさそうに天音に説明していた


「はぁ・・・私言ったよね?できる限りバベル内でも仮面をつけた方がいいって視界はちゃんと確保しているから探索には問題ないって」


天音はため息を吐きながら征司に説教をしていた、その姿は親に怒られてる年相応の姿だった


「さて、どこから話しましょうか・・・」


説教を終えた天音は絵梨のほうを向き話を始める絵梨は驚きながらも話を聞く姿勢を示す


「まず自己紹介からしましょうか、私の名前は北条天音ほうじょうあまねと言います。見ての通り受付嬢をやっております」


「桜坂絵梨といいます」


軽く自己紹介をすると天音は真剣な表情で口を開く


「では桜坂さん、征司君がクライマーってことは助けられてるから理解と思うけどじゃあ、なんで男性である彼がクライマーなんて危険なことをしている理由それは・・・」


「それは・・・?」


喉を鳴らしながら聞き返す絵梨、する天音は口を開く


「彼のわがままなのよ!」


「・・・・・・・え?」


絵梨には天音が言った事が理解ができないでいた。


「だから征司君のわがままなのよ、それ以外特にないの」


「ほ、本当にそれだけなんですか・・・?」


天音は頷くだけだった、絵梨はまさかそんな理由だけなのかと驚きを隠せないでいた。征司のほうを見るが無言のまま頬杖をついてそっぽを向いているだけだった


「できる限り男である征司君がばれないようにギルドでは黒狐として活動しているんだけど、運悪く桜坂さんにバレちゃったってわけ」


「俺は別にバレても問題ないと思っているんだけど」


今まで無言でいた征司が口を開くが


「だめだから黒狐として活動させてるんでしょ!!」


天音はテーブルを叩き征司を叱りつける、絵梨は天音がここまで感情をあらわにするのを見せたため驚きを隠せないでいた。

その後、天音の説教が続き30分程経過した頃やっと終わりを迎えた。征司は顔を上にあげ口から魂が抜けているようだった。


「はぁ、説教はこれくらいにして本当に本題に入りましょうか」


天音は何度目かのため息を吐き絵梨のほうへ向くと本題に入ることにした。


「桜坂さんにお願いするのは至ってシンプル征司君のことを言わないことそれだけよ」


天音から提示されたのは簡単なものだった、ただ黙っていればいいそれだけでいと、しかしなぜ征司がクライマーということを知られたくないのであればそもそもわがままでクライマーにしなければよかったのではないのか?そんな絵梨の心情を天音は読み取っていた


「征司君をクライマーにしたのは何というか・・・大人の事情ってことで理解して?それに桜坂さんは記録を見る限り最近クライマーになったみたいだけど、黒狐って一応有名なのよ?そんな有名人が実は男なんて知られたら・・・」


「ああ・・・なるほど」


天音が何を言いたいか理解した絵梨は頷くしかなかった。有名クライマーが実は男ですなんてバレたらいろいろなところから声が上がり大変な事になる可能性がある。


「絵梨以外にも知っている奴はいるけどほとんど身内だからな・・・」


いつの間にか復活していた征司が言うと天音も頷く


「だからお願いね桜坂さん」


天音は絵梨に頭を下げる、その姿は先ほど征司を叱りつけていた女性とは違いまるで保護者のようだった


「頭を上げてください!大丈夫ですよ誰にも言いませんから!」


慌てて立ち上がり両手を振りながら大丈夫とアピールをする絵梨


「ありがとう桜坂さん、それともう一つお願いしたいんだけどいいかしら?」


「はい?なんですか?」


天音の頼み事とは一体なんだろうかと首を傾げる絵梨


「征司君とパーティーを組んでほしいの」


「は?」「え?」


天音の頼み事に征司と絵梨は同時に声を発した


「なんでそうなるんだよ・・・」


「だってあなた今ソロでパーティー組める知り合いいないでしょ?」


「それはそうだけど・・・」


征司は黒狐として活動している当初からソロで不自由なくやってきたため親しいクライマーはいない


「最近伸び悩んでいるって言ってたし、言い方は悪いけど桜坂さんの監視もかねてこの方法が最善だと思うけど?」


「・・・彼女と俺とじゃ実力が違いすぎる」


征司の言っていることは間違ってはいない、片やソロで50階層以上登っているトップクライマー、片や最近クライマーになった素人では足並みをそろえることは難しい


「それは征司君次第よ、いい加減ボッチを卒業しなさい?」


「う・・・」


征司は痛いところをつかれ言葉を詰まらせる、実際こんな世界じゃ同性の友人なんてできる機会など少ない、ましてや異性の友人なんて


「はぁ、わかった・・・絵梨とパーティーを組む・・・」


征司は根負けしたかのように天音の提案に乗ることにした


「そう?それはよかった」


天音は安堵した様子で胸を撫で下ろす


「それで桜坂さんあなたも大丈夫かしら?」


「は、はい!全然大丈夫です」


絵梨も天音の提案に戸惑うながらも承諾した。


「じゃあ桜坂さんこれから征司君のことよろしくお願いね」


「こちらこそよろしくお願いします!」


こうして征司と絵梨の2人はパーティーを組むことになった。その後天音からパーティーでの注意事項などについて説明を受けた後、2人はギルドを後にし帰路につくことにした。


「なんかすごい1日だった・・・でも本当によかったんですか?征j黒狐さん・・・」


帰り道絵梨が今日の出来事を思い出しながら呟くと黒狐になった征司が口を開く


「遅かれ早かれ誰かにバレる可能性はあったしバレたのが絵梨1人だけでも運がよかったと思えばいい・・・」


そういうと征司は絵梨のほうを体ごと向きなおす


「さっきも言ったが俺とお前じゃ実力差がありすぎるから今週の休みから鍛える、しばらく様子を見てもし俺が納得できるレベルじゃなかったらパーティーは解消だ」


「わ、わかっています。でも・・・」


絵梨は征司に笑顔を向け


「すぐに追い付くどころか追い越してやりますよ!」


絵梨はそう返事をすると征司を追い越し歩き出す。征司は仮面の中で目を白黒させるがしばらくして笑みを浮かべ再び歩き始める


「ああ、楽しみにしておくよ」


こうして2人の波乱万丈の1日が終わろうとしていた

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