診断
第18話 診断結果
六月十四日、わたしは再び心療内科を訪れた。
初診とは違う先生が担当だった。
「その後調子はどうですか?」
「よく眠れてますか?」
などという質問に適当に受け答えしたが、そんなやりとりなんぞどうでもいい。
さっさと本題に入れと言わんばかりに、私は口を開いた。
「それで。診断結果は……」
「ああ。ADHDかどうかですね」
さっさと言え。何カ月焦らされていると思っているんだ。
と、いかにもな思考でイライラしはじめる俺。
「そうです。病名がつくならそういう方向で動きたいんで……」
「そういう方向、とは?」
「障がい者年金とか……」
そこで先生が、失笑に近い表情を浮かべる。
「障がい者年金、ですか。ADHDってだけでは難しいんじゃないでしょうか」
「五年前に適応障害と診断されています。それに、関係あるかどうかは分かりませんが、二年前から生理不順と不眠症で薬飲んでます」
「そうなんですか。その薬はどこで?」
「産婦人科です」
先生は呆れた様子でこう言った。
「適応障害の薬はもう飲んでいないんですよね。だったらADHDと繋げるのは無理があります。それに、産婦人科でもらった〇〇と〇〇(薬名)を飲んでますって言ってもねえ……。厳しいかと思いますよ」
先生は「テメェに障がい者年金は無理」という旨をダラダラと話し始めた。
いや違う。俺が聞きたいのはそんな話じゃねえんだよ。
「障がい者年金が無理なのは分かりました。それで、ADHDの診断はどうなんでしょうか」
別に無理をしてまで障がい者年金が欲しいわけではない。
利用できるなら利用しようと思っただけだ。
無理なら無理でそれでいいのだ、俺は。
それよりも診断結果を早く言ってくれ。
「ええ、ADHDの診断は出ますよ」
あっ。よかった。
「病名が付くくらいの数値だったということでしょうか」
「はい。ADHDの基準を大きく上回っているので」
というわけで、俺のADHDが確定した。
先生がキーボードをぱちぱち叩きながら尋ねる。
「障がい者手帳はどうされます?」
「あっ。ほしいです」
「分かりました。障がい者年金は難しいですが、障がい者手帳は問題なくもらえると思いますよ。半年後になりますが、そのときが来たら診断書書きますね」
「ありがとうございます」
先生が障がい者年金をすすめなかったのは、単純に俺の状態が「申請しても通るのが難しそう」「年金がなくても生きていけそう」と判断したから、というのもあるが、もっと大事な理由があった。
「障がい者年金をもらうことになってしまえば、ずーっと病院通いをする必要があるんです。本当にそれが必要な人であれば年金用の診断書を書きますが、〝ああ、私も昔は心療内科に通ってたわねえ〟と思い出にして、それまでと同じ生き方をしたほうが幸せな人もいるので」
ぽみーさんは後者だと思うんです、と先生は言った。
実際、先生はそういう、「年金をもらえなかったが、年金を欲しがっていたときよりも幸せそうに日々を過ごしている人」をたくさん見てきたのだとか。
先生の話を聞いて俺は納得した。もともと棚からぼたもち程度の期待しかしていなかったしな。
ともあれ俺はこの日から、「俺、発達障害なんじゃね?」から「俺、発達障害だったわ」になったのだった。
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