第17話 検査結果を友人に報告
はじめのほうに発達障害について相談した四人の友人を紹介したが、そのうちの三人――看護師、国語教師、ラジオパーソナリティー――に検査結果を報告した。
まずはじめに報告したのは、国語教師だ。
「今日検査結果来たんやけど……ADHD付きそうやわ笑」
LINEで報告したら、こう返事が来た。
「おれもADHDだよ絶対笑」
国語教師は、以前から「自分はADHD寄りの人間だ」とよく言っていた。
彼女的には、わたしがADHDなど思いもしなかったものだから、「じゃあ自分も絶対ADHDだわ」と感じたようだった。
これはわたしの勝手な感じ方だが、国語教師は確かにがさつで落ち着きがないところはあれど、記憶力がアホほど良いし、仕事もテキパキこなせるよくできた人間なので、わたしにはADHDにはとてもじゃないが見えない。
だが、国語教師がわたしのことをADHD(仮)だと気付かなかったように、国語教師にも頑張ってカバーしている&隠している面がきっとあるのだろうな、とは思った。
そのやりとりのあと、わたしは検査結果の写真や、検査結果に対する感想などを送りつけた。
しかし、返事がない。
国語教師が既読無視するのは日常茶飯事なので、あまり気にしていなかった。
そしてその数日後、父親とのやりとりについての愚痴を彼女のLINEでこぼした。
しかし、それでも返事がない。
一週間経っても返事がなく、わたしはだんだん不安になってきた。
「ADHDだから嫌われたんじゃないか」
「ADHDの人と特に仲が良いことで、国語教師自身の自信を失わせたんじゃないだろうか」
「父親とのやりとりを聞いて、わたしが〝ADHDだから配慮して!〟という無遠慮な人間に見えてげんなりしたのだろうか」
わたしはものすごくネガティブ野郎である。
無関心な人にはどう思われようが全く気にしない。対照的に、好きな人に対しては、いつも自分の発言や行動を振り返っては「嫌われたんじゃないだろうか」と考えて不安になる。
鬱々とした日々を過ごすこと八日、やっと国語教師からLINEが来た。
「お前と話したすぎてしぬ! 忙しすぎて返事できんかった。ロム専ですまん!」
あああ……嫌われてなかった良かったぁぁぁ……と、泣きそうになった。
頭では「こんなことで私のことを嫌いになる人ではない」と分かってはいるのだが、そう信じきれる心をわたしは持ち合わせていないのだ。
その夜、国語教師から電話がかかってきた。
「いやぁ、ぽみーがADHDやったなんてなあ! びっくりしたわ。でも、だから異常なほど方向音痴なんかもなーって考えてたで」
正直、国語教師に嫌われていなかった喜びで頭がいっぱいで、話が入ってこなかった。
◇◇◇
次に報告したのは、ラジオパーソナリティだ。
彼女からは真摯で無難な返事が届いた。
後日、ラジオパーソナリティから「劣等感がありすぎてしんどい」とLINEが来た。
わたしは「え!? あんたが!?」と第一声で送ってしまった。
続けて「あんたが劣等感抱くとかどんな人らに囲まれとん……」「なんかあったん?」と送った。
その後、ラジオパーソナリティから返事が来なくなった。
やっちまったな、と後悔した。
「あなたはすごい人だよ」的な意味合いで送ったのだが、そのままの意味でラジオパーソナリティが受け取ってくれていたとしても、傷付けてしまったのだろう。
わたしが「発達障害かも」と友人たちに相談したときに「あんたはそんなんじゃないと思うけど」と返ってきたときに、わたしは少なからず傷付いたというか、がっかりしたのだ。
誰もわたしの苦しみや悩み分かってくれない、と感じた。
もしかしたらわたしは、ラジオパーソナリティに同じ思いをさせてしまったのかもしれない。
それと……
ここでわたしのネガティブ野郎が顔を出す。
「『ADHD(仮)のわたしに、健常者のあなたが〝劣等感がある〟なんてこと、よく言えましたね』的な意味合いで受け取らせてしまっていたらどうしよう」
わたしにその意図は全くない。そもそもわたしはADHD(仮)ということにそこまで劣等感を感じてはいないはずだ。
(こんなことを考えている時点で劣等感があるのかもしれないが)
少なくとも、ADHDじゃない人に対して恨みつらみを吐いたり、嫉妬したりなどは全くしていない。これは断言できる。
なのだが……
もしラジオパーソナリティにそう思わせてしまっていたらと思うと、やるせない気持ちになる。
しかし、ここでまたわたしが畳みかけたら余計に傷口をえぐってしまうかもしれない。そうも考えてしまい、わたしは今も彼女とのやりとりを放置している。
◇◇◇
最後に看護師なのだが、彼女も報告LINE(というよりも父親とのやりとりの愚痴)を半日ほど既読スルーした。
看護師がADHDなどの病名に甘える人に厳しいことは前から知っていた。
「わたし〇〇(病名)なんで、そういうことできないんで」と偉そうに言うヤツらがムカつく、と愚痴を漏らしていたのを聞いたことがあったからだ。
彼女自身、鬱を持っている。それでも、病名に甘えずに普通の人と遜色のない働きぶりを職場で見せているそうだ。
だからこそ、病気に甘える人たちが余計に許せないのだろう。
それを思い出したわたしは、「わたしもそう思われたらどうしよう」と不安になってしまい、父親とのやりとりの愚痴LINEを送信取り消しした。
それから一カ月後、ふと思い立って、わたしは看護師に「ほぼADHDだろう」という報告だけしようとLINEした。
彼女からの返事はこうだ。
「それで? 父親はその後何か言ってきたか?」
おおん……お前からその話ぶり返すか……
「取り消されたから敢えて返信せんかったんや」
とのことだった。そこには特段悪感情は乗っていないように見え、少しホッとした。
それからしばらくやりとりをして、最後にわたしはお礼を言った。
「おまえに背中押してもらえたおかげで病院いけた。まじ感謝」
「ちゃんと病院行ったのはぽみーの勇気のおかげやで。行動するかどうかは結局本人次第やから」
泣ける。
◇◇◇
私がこの三人に報告したのは、この三人なら私がADHDだと診断されても態度が変わらないだろう、というある程度の確信を持ってのことだった。
ちなみに、序盤に登場した脱力系会社員の友人には報告していない。
あの子はわたしがADHD(仮)だと聞けば、いろいろと考えすぎて落ち込むだろうと予想したからだ。
友人三人に検査結果報告をして気付いたことがある。
「これはめったやたらと他人に言うもんじゃねえな」
当たり前である。
理由はいろいろとあるが、一番わたしが身に染みたのは、わたし自身が過剰にADHDを気にしすぎていることだった。「他人が、わたしがADHDということを知って、態度を変えると考えすぎている」と言葉を変えたほうが正しいかもしれない。
もしわたしがADHDを誰彼なく公表したとする。
そうすればきっとわたしは、何かがあるたびに「わたしがADHDだから――」と無駄な思考をよぎらせることになるだろうと、三人の友人に報告して確信した。
◇◇◇
最後に……
母親にこんな質問をされた。
「もしあんたが友人からADHDって報告されたら、どう声をかける?」
そういう経験がないので実際のところは分からないが、わたしはこう答えた。
「〝へー、そうなんや〟って答えるかなー」
それがどうしたん、くらいの感覚である。
「そりゃ、初対面の人に〝わたしADHDなんです〟ってカミングアウトされたら、ちょっと気を付けて接すると思うけど……今まで仲良かった子に〝ADHDやねん〟って言われても、別に……。だって病名が付いただけで、今までのその子と何も変わらへんもん」
ちなみに、わたしが一番嬉しかった反応は、「今まで大変だったね」「よく頑張ってきたね」である。
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