第13話 初診-その他の質問

「計算についてはどうですか?」

「小さいときから苦手でした。今でも一桁の足し算すら暗算が難しいです。できないことはないですが、かなり時間がかかります」


 小学生のときに算数のテストで0点を取ったことがある。

 中学生のときは数学がだいたい赤点だった。


 八と七が入っている計算が特に難しい。八たす七なんていまだに分からん。


 ◇◇◇


「計画を立てるのは苦手ですか?」


 計画を立てること自体は嫌いではない。だが――

 俺が言葉に詰まっていると、先生が言葉を変えた。


「計画を立てて、それを実行することは苦手ですか?」


 なんだこの先生。エスパーか?

 俺は大きく頷いた。


「は、はい……。計画を立てることはできます。でも、計画通りにはできません」


 わたしが計画を立てると、細かすぎて実行できないのだ。


 大学時代、数人の友だちと旅行に行くことになった。

 そのときにわたしが計画を立てたのだが、その計画表が分刻みのスケジュールだったのでみんなドン引きしていた。総理大臣のスケジュールか。

 結局旅行はなくなった。たぶん俺のせいだ。ごめん。


 そうじゃなくても、気分にムラがあったりして計画通りに実行できない。

 そもそも……このときは「計画を立てられる」と言ったが、よく考えてみると計画を最後まで立てることも難しいかもしれない。


 これを書いていてふと思ったのだが、小説を書くときもそんな感じだ。

 プロットを作ったはいいものの、プロット作成の段階で力尽きて結局ボツになったり。プロットを頑張った作品は今のところ全てボツになっている。


 プロット作りを途中で飽きて、そのまま小説を書き始めてしまったりもよくする。

 俺が気持ちよく書けるのは、プロットなしのぶっつけ本番で書いたときだけかもしれない。


 それとこれとはまたちょっと違うのかもしれないが、とにかく計画通りに実行することは、わたしにとっては至難の業なのだ。


 ◇◇◇


「掃除は苦手ですか?」


 嫌いではないが苦手だ。

 掃除をするときはピッカピカにするのだが、なんせ俺は仕事が遅い。一区画だけをピカピカにして残り区間の掃除は諦める、なんてことはしばしばだ。

 そんで掃除してもその日のうちにめちゃくちゃ散らかる。

 鞄の中や車内は常に悲惨な状態だ。


 ◇◇◇


 この際なので、気になることを質問してみた。


「あの。わたし、ずっと耳と鼻の中が膿んでいるんです。ほじっちゃって」


 大学生の頃からずっとそうな気がする。

 耳をかいてしまうのだ。傷付いて、膿むと、膿のかさぶたができる。それを引っぺがすのが好きだ。ちょっとした痛みと戦利品のかさぶたに中毒性がある。

 あと膿のかさぶたがものすごくかわいい。


 鼻も同じようなものだ。鼻の奥に血のかさぶたがあるので、それを剝がしてしまう。

 ときたま鼻血がドバドバ噴き出すのが困りものだが、やめられない。


「それはストレスですね。ほら、毛を抜いちゃったり、爪をかじったりしてしまうような」

「ああ、毛。毛は他人の毛をむしりたくなります」


 前職での会議中のことだ。

 俺の隣には、そこまで親しくはない同僚が座っていた。

 ふと同僚の手元に目をやった俺は、心の中で「ウヒョッ」と声を上げた。

 同僚の手の甲に、もっさり毛が生えていたのだ。


 俺は衝動を抑えられず、その毛をむしってしまった。


「いだぁっ!!」


 会議中に響き渡る、おっさんの声。

 一瞬にして静まりかえる会議室。視線はもちろん、同僚と俺に向けられている。


 同僚は自分の手の甲と俺を交互に見た。


「えっ、なに!? なにしとん!?」


 おそらくこのときの俺は、他人事のような目で見つめ返していたと思う。


「毛が生えてたから……」

「だから何!?」


 他にも、友人(国語教師)の夫と食事をしていたとき。

 友人夫の指毛に目がいった。


「んぁっ!?」


 気付けばわたしの手には、毛が数本握られていた。

 それから友人夫はわたしの前で手を隠すようになった。


 中学生くらいのときは、寝ている兄のすねにガムテープを張り付けて思いっきりはがしたり。(飛び起きた兄にシバかれた)(思ったほど毛はむしり取れなかった)


 最近ではウトウトしている父親の耳毛をじわじわ抜いたり。


 話を聞いていた先生がクスクス笑う。


「ムダ毛を抜いてもらえるなんて、ありがたいことですね」

「迷惑がってますけどね、みんな」


 ◇◇◇


 丁寧なヒアリングのあと、先生が見解を述べた。


「お話を聞いていると、ADHDの傾向があるではないかなと思いました。自閉症は……コミュニケーションもきちんと取れていますし、そこまで強くは出ていないように思います」


 そこで、わたしは国語教師の友人が言っていたことについて尋ねてみた。


「友人に、わたしは敏感すぎるから発達障害には見えないと言われたんです。発達障害の人は決まって敏感じゃないのでしょうか?」

「敏感なのは、発達障害かどうかにかかわらず、過去に人間関係で上手くいかなかった人にあらわれます」


 先生の言葉そのままではないが、こんなニュアンスのことをおっしゃっていたと思う。


「さて。発達障害の検査をご希望ですね。また後日心理士から連絡します」


 こうして初診が終わった。

 数時間後、心理士さんから電話がかかってきた。

 検査は約一カ月後の五月十五日となった。


 どのような結果になるかは分からないが、検査してこようと思う。

 ひとまず今回はここまで。


 ◆◆◆


 ※ここまでが、四月二十三日くらいに書いていたものをリライトしたものです。※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る