第12話 初診-家族との関係
「家族との関係はどうですか?」
ここまで読んでくれた方ならお察しだろうが、俺の父親はドがつく過保護である。
もともとそういう性質を持っていたのだろうが、俺が特に頼りなかったから過保護が急加速したようなきらいはある。
また、父親は亭主関白であり、DV気質があった。
歳をとってからは丸くなったが、俺が子どもの頃はよく殴られていたものだ。
父親は怒鳴りと暴力で子どもに躾をしていた。
暴力は連鎖する。
わたしには兄が一人いる。兄も父親に躾の暴力を受けていた。
その腹いせにサンドバッグにされていたのが、わたしだ。
わたしは父親と兄から暴力を受けていた。
家が怖かった。
父親を怒らせたら殴られる。
両親がいないときは、兄に殴られる。財布についていたチェーンで首を絞められたこともあった。
俺は兄から逃げるためによくトイレにこもっていた。
おそるおそるドアの隙間から外を覗いたとき、中を覗いていた兄と目が合ったのはホラーだった。
そして父親と兄から受けた暴力を、わたしは友だちで発散していたのだと思う。本当にごめんよ……。
父親はくちごたえも許さなかったので、父親になにかを言われたときには「はい」という返事しか許されなかった。「いいえ」と言ったら殴られるし、黙っていたら「はい」と言うまで詰め寄られる。
これは殴られるよりも辛いことだった。
言いたいことを言えない。言いたくないことを言わされる。
そのストレスにより、わたしはよく口内を噛んでいた。噛みすぎた口内の皮はずる剥けで、口内炎のようになっていた。
ストレスのあまり、動いてもいない乳歯を無理やり引き抜いたり、安全ピンを歯茎に突き刺していたこともある。
◇◇◇
母親は宗教に熱心な人だった。
俺が高校生のとき、その宗教のことを悪く言ったことがある。
母は泣きながら俺を殴りつけた。そしてこう言い捨てた。
「育て方間違えた」
これ、言われたらほんとに傷付くから。絶対にお子さんに言ってあげないでくださいね。
◇◇◇
先生は兄についても質問した。
「お兄さんとの関係はどうですか?」
「長年別々に暮らしているのでなんとも言えませんが、悪くはないです」
幼い頃はわたしをサンドバッグにしていた兄だが、大人になるにつれ暴力を振るわなくなった。おそらく、父親が暴力しなくなったからだと思う。
「ただ、わたしが一方的にコンプレックスを抱いています」
「たとえばどんなところにコンプレックスを抱いていますか?」
兄はスタイルがよく、容姿も整っている。美意識が高いのだ。
私は肥満体型なので、よく兄に笑われる。
また、就活をまともにできなかった俺とは違い、兄は大企業に就職した。それだけでなく、社内で高く評価されているためエリートコースまっしぐらだ。
「それと……生命力の高さにですかね」
兄は二十五歳にしてガンを患った。
それでも兄は、生きることに迷いがなかった。
「わたしなんて、すぐに死にたいとか、なんで生まれてきたんだろうって思っちゃうのに、お兄ちゃんは何があっても前を向いて歩いているんです」
同じ人の子宮と精子から生まれたとは思えない。
そりゃ、母が「育て方間違えた」というのも納得である。
ちなみに、俺の親族はほぼみんなヤベェヤツである。特に母方の家系がヤベェ。
まず、バツイチが多い。
母は初婚だが、父親はバツイチだ。
母方の両親(俺の祖父母)も離婚と再婚をしているので、俺には母方だけで四人の祖父母がいた。
ここまではまあ分かる。今に比べて昔はバツイチが珍しかったことを加味した上でも、まだバツイチは分かるし別におかしなことじゃないと俺は思っている。ただ家系にバツイチが多すぎるので紹介しまたまでだ。
だが母の姉(俺の伯母)はヤベェ。バツヨンである。
おれ一度も結婚できたことないけど、なんでそんな結婚してくれる相手見つけられんの? すごくね?
ちなみに伯母の現夫もバツイチである。
それと俺が付き合っていた直近の恋人二人もバツイチだった。
バツイチに惹かれる血でも流れているのだろうか。
バツイチを抜きにしても、うちの親族は曲者揃いだ。
その中でも一番ヤベェのは、やっぱり伯母である。
一昨年、伯母が金をせびりに祖母の家に押し掛けた。拒否したため暴力を振るわれた祖母は通報。警察沙汰になった。マジでヤベェ。こわいです。
他にも、母の義母(母の実父の再婚相手)が、夫(母の実父)の死後早々に家を捨て、夫の遺族年金を引っ提げて他の男の家に転がり込んだ、という面白くないエピソードもある。
母の実母が、娘(俺の母)の第一子出産中にものすごい形相で病院に来て、使用済みコンドームを振り回しながら「旦那が浮気してた~!」と暴れていたというエピソードもある。(これは父から聞いた。真偽は不明だが、父がこんなネタをオリジナルで思いつくとは思えんのでおそらく実話だろう)
書いているだけで頭がおかしくなってくるぜ、全く。
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