第10話 初診-生い立ち-大学卒業後

「大学を卒業してからは、どうされたんですか?」


 就活をしていたがことごとく書類選考で敗退。

 あとさき考えずに物事を決めてしまう俺は、さっさと就活をやめた。

 なんとかなるっしょ。と思っていた。


 就活をやめたはいいが、頭パッパラパーのわたしは「じゃあ今後どうするか」を考えずにボケーッとしていた。

 そこで危機感を抱いたのが、父親だ。


 父親は考えた。このどうしようもない娘にレールを敷いてやらねば、と。

 そして父親は、娘がイラストを描くのが好きなことを思いだした。好きといってもチラシの裏にボールペンと色鉛筆で絵を描いて満足している程度のものだが。


「ぽみー。イラストの専門学校に行くか?」

「えっ。行きたーい。あたい絵本作家になるー」


 こうして俺は、父親の年金で専門学校に行かせてもらったのである。

 今考えるとほんと……ほんとに……ごめん……っ。


 専門学校はなかなかハードだった。

 バイトをする暇もなく、山ほど出る課題をこなすだけで精いっぱいだった。


 夏休みも学校に行き、でっかいキャンバスに意味の分からん絵を描いていた。

 無心で絵を描くために、般若心経を聴きながら描いたりしていた。


 絵は精神に直に触れる。般若心経を聴いていたらなおさらかもしれない。

 毎日毎日、朝から晩までそんなことをしていたからだろうか。


 気付けば俺は、幽霊が見えるようになっていた。


 キャンバスの裏から、少年が顔を覗かせているのが見えていたのだ。

 目で直接見ているのではないが、そこにいるのがハッキリと分かった。


 その少年は俺のあとをついてきた。

 電車に乗っているときは、数メートル離れた場所に立ってじっと私を見つめていた。


 少年の他にもいろんなものが見えていた。


 当時は本気で幽霊だと思っていたが、おそらくあれは幻覚だったのだろう。

 半年ほどで見えなくなった。


 幽霊が見えはじめたあたりから、俺のメンタルがだんだんおかしくなっていった。

 過呼吸が頻繁に起こるようになってきたので、こりゃあヤベェかもと危機感を抱いた。


 そこで俺は、はじめて心療内科にかかった。

「神経症」と診断された。


 俺は半年間休学した。

 半年後、一年かけて卒業した。

(専門学校でも遅刻・欠席のせいで単位を落としまくった)


 専門学校を卒業してから、イラスト関係の就活を始めたが、これも早々に諦めた。

 その後いきあたりばったりで上京し、某石鹸ショップで働き始めたものの、職場に馴染めずわずか数カ月で退職。


 もう無理だあ、俺。

 なんにもできねえ。

 どこ行ってもダメだあ。

 親にこんなに元入れしてもらったのに、なあんにもできねえ。


 このときの自分に対する絶望と失望はけっこうでかかった。

 しかし我ながら腹立たしいことに、「ま、えっか!」となっちゃうのだ。


 もうええや、テキトーにバイトかなんかしてたらなんとかなるやろ~。的な。


 某石鹼ショップを退社したあと、俺は実家に戻った。

 また思考停止してボーッとしだした俺に、父親が危機感を抱く。

 そして父親が俺の代わりに就活をしてくれた。


「ぽみー。ゴルフ場で働いてみいひんか」

「ん? おっけー。働いてみりゅ~」


 しかしゴルフ場での職場でも、お局にイビられた俺は耐えきれずに半年で退社。

 再びボーッとする俺。俺の代わりに就活してくれる父親。


「ぽみー。保険会社で働いてみいひんか」

「おっけぇ~。やってみりゅ~」


 父親には頭が上がらん。


 この保険会社は、父親が経営している保険代理店が取り扱っている保険会社だ。

 将来は父親の代理店で勤めるという前提で、研修生として保険会社の営業店にお世話になる、という制度を使った。


 ここで奇跡が起きた。

 どうも俺は、保険の営業に向いていたようだ。

 働いていてはじめて楽しさややりがいを感じた。

 といっても、ノルマをクリアするためにずいぶん父親のお世話になったのだが。


 おそらくだが、研修生という特別枠で雇用されたのも大きかったと思う。

 営業店の社員というていではあるが、あくまで代理店の人間として扱われる。

 つまり、俺の仕事は自由が利く個人プレーであり、チームワークなどは求められなかったのだ。(社員の方にめいっぱいサポートはしてもらっていた)


 あと営業だったので、狭い事務所に缶詰にならずに済んだもの良かった。

 社員同士の人間関係に巻き込まれることもなかったしな。

 とてもとても、自由な環境で働けたのだった。


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