第6話 初診-生い立ち-幼少時代

「幼稚園でのあなたはどんな様子でしたか?」


 幼稚園での記憶なんてあまりない。

 唯一覚えているのは、男の子にちょっといじめられていたことくらいだ。

 わたしの制服のポケットに、母が可愛らしいリボンを縫い付けてくれた。それが気に入らないと、少年たちはいたいけな少女に罵声を浴びせたのだ。

 男の子が気になる女の子に意地悪をするというのは本当のことのようだ。


「小学校ではどうでしたか?」


 小学時代のことはところどころ覚えている。

 なんせ私は、小学時代からの中学時代までの自分が大嫌いなのだ。


 私は攻撃的な子どもだった。

 だからまわりから嫌われていた。

 友だちを殴ったり、蹴ったり。悪口を言ったり、なんやかんや。


「あとは……頭がくさいで有名でしたね」


 私は風呂が大嫌いな子どもだった。今でも嫌いだが。


 母に「お風呂に入りなさい」と言われても、毎日「明日入る」と答えていた。

 母からは「明日が永遠に来ない、不思議の国のアリスみたい」とメルヘンなことを言われていた。


 なんとか湯船に浸かっても、十秒で出てしまう。

「今日はカラスの行水か」と苦笑されていた。

 一週間頭を洗わないなんてザラだった。


 突然で申し訳ないが、甘酸っぱい思い出話を聞いてくれ。


 小学生低学年のとき、わたしには好きな男の子――仮にAくんとしよう――がいた。その男の子はクラスの人気者だった。


 そしてわたしは、自慢じゃないが、小学生低学年の頃はわりかし可愛かった。

 母に毎日結ってもらっている自慢のロングヘア。柔らかそうなりんごほっぺに、蕾のようなささやかな唇。


 Aくんとも仲が良く、よく一緒にいた。

 クラスでは、「ぽみーとAくん、両想いなんじゃない?」なんて囁かれていた。


 そんなある日、Aくんがおもむろに私の頭を撫でてくれた。

 きゅんきゅんしながら彼を見つめていると――


 Aくんはその手を自分の鼻に近づけ、大声で「くっさ!!」と叫んだ。そしてその場から走り去っていったのだった。


 どうせクラスで「ぽみーの頭くせーぞ」と噂にでもなっていたのだろう。

 当たり前だ。ロングヘアで一週間以上風呂に入っていなかったらくせぇに決まっている。


 これがわたしの人生初の失恋エピソードである。それからしばらくはショックのあまりに風呂に入ることができなくなった。


 ちなみに、その後もAくんとわたしはそれなりに良好な関係を築いていた。

 Aくんはとても優しい男の子で、わたしが教室の中でゲロを吐いたとき、慌ててゴミ箱を持ってきてくれた。わたしはゲロを撒き散らしつつ、「やっぱり好きぃ!」となったのをよく覚えている。


 当然、わたしとAくんが結ばれることはなかった。

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