初診

第4話 初診-自分で気になるところ

 四月二十二日。

 俺は初診のために心療内科に行った。


 先生はきれいな人だった。声が小さくて聞き取りづらかったが、穏やかで優しそうだったので、リラックスして話すことができた。


 先生はまず、こう質問した。


「自分で気になるところを教えてください」


 そのときパッと思い浮かんだのは……

 ①マルチタスクが苦手

 ②噛み癖と壁殴りの癖がある

 ③記憶力が壊滅的


 気になるところを説明する前に、ざっくりと俺の今を伝えておく。


 俺は今、両親が経営する保険代理店で働いている。社員は両親と俺の三人だけという、個人事業のこじんまりした店だ。

 俺はそこで営業と事務をしている。営業もしているとはいえ、ほとんどは事務所で事務作業か電話対応をしているのだが。


 では、「自分で気になるところ」に戻る。


【①マルチタスクが苦手】

 俺はマルチタスクが苦手だ。作業をしている最中に別のタスクが積み上がっていくと、頭が真っ白になって何から手を付けたらいいのか分からなくなる。

 あと、自分のやりたい仕事を途中で中断させられることに、びっくりするほどイライラしてしまう。「あ~、今これやりたいのにぃ!」と手足をバタバタさせてしまう。

 不思議なことだが、作業中に電話がかかってきて、作業を中断して電話対応をしなければならないことについてはあまりストレスがかからない。

 ただ、電話対応が終わったあとは、「あれ? さっきまで何してたっけ?」と全てを忘れてしまうのだ。


 仕事以外だと、テレビやラジオを付けたまま誰かと会話することが困難に感じる。

 全ての音を同等の音量で拾ってしまうのだろう。相手の声とテレビなどの音声が入り混じり、混乱する。聞き分けをするという作業が非常に疲れる。


 だから私は子どもが苦手だ。子どもの声は高いので、よく耳が拾ってしまう。

 子どもが喋っていたり、はしゃいでいたりすると、そちらに意識がいってしまい、集中すべきところに集中できなくなる。

 子ども自体は好きなのだが、そういう理由で苦手だ。



【②嚙み癖と壁殴りの癖がある】

 噛み癖は、両親や飼い猫、仲の良い友人、恋人が主な犠牲者だ。

 先日なんて父親の腕に噛みつき、力加減を間違えて流血事件になってしまった。


 壁殴りは、どうしようもない怒りが沸き上がってきたときにやってしまう。

 硬い壁に向けて、拳が真っ青になるまで殴り続けてしまう。



【③記憶力が壊滅的】

 特に固有名詞と数字を覚えるのが苦手だ。

 営業でお客さんのところに伺ったときも、目の前にいるお客さんの名前を覚えられなかったりする。そういうときは、見積書をちらちら見ながらなんとか名前を呼んでいるが……何度呼んでも、覚えられないのだ。


 学生の頃もずいぶん苦労した。

 まずクラスメイトの名前が覚えられない。学年末になっても覚えていない子がいたくらいだ。


 それに関しては、周囲への無関心さも影響していたのだと思う。なぜなら、クラスメイトの名前は覚えられないのに、ハリーポッターの登場人物や三国志の武将の名前は山ほど覚えていたからだ。


 なんせ他人に興味のない子どもだったし、今も興味が全く持てない。

 芸能人や知り合いレベルの人の名前を覚える気がそもそもない。なんなら必要性も感じていない。(必要なのだろうが)


 それで言えば、小説などの登場人物もほとんど覚えずに最後まで読んでいたりする。

 ハリーポッターや三国志などの超長編だとさすがに覚えるが、一冊で終わるような小説だと主人公の名前さえ覚えないことがほとんどだ。


 だが興味を持った人に関してはものすごい執着を持っていろいろと覚えたり調べたりしてしまうのが、極端なところだと自分でも思う。

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