第28話 突然のお別れ side陽菜
始業式で公園の子の名前を知った。
しかし、欲張りな私はそれだけでは満足できなかった。
私はなんとかして涼音ちゃんと話したいと思った。
けれど、教室での涼音ちゃんは一匹おおかみという言葉がよく似合うようなクールな感じで、話しかけようと涼音ちゃんの席に近づくも鬱陶しそうにされるだけ。
とても話しかけることなんてできなかった。
どうすれば、涼音ちゃんと接点が持てるのだろう?
どうすれば、あの子に私という存在を知ってもらえるだろうか。
そう思って毎日悩みに悩んだ。
自分の一人称を私から陽菜に変えて名前を覚えてもらおうとしたり、さりげなく同じ委員会に入ったり。
けれど、あまり成果は得られなかった。
そんなある日、「陽菜ちゃんはもう部活決めた?」と、友だちに聞かれた。
確か、このときは部活の体験入部が行われていてその流れの中での会話だったと思う。
この時私はある策を思いついた。
そうだ、バスケ部に入ってしまおう。
陽菜の学校では4年生から部活動が始まる。
わざわざ公園に行って練習するほどなのだから、きっと涼音ちゃんはバスケ部に入るだろう。
そう思って部活の希望用紙には興味のかけらもなかったバスケ部への入部希望を書いた。
勿論涼音ちゃんがバスケ部に入る保障などない。
もし、仮に涼音ちゃんが別の部活だったらどうしよう。
不安はあったが私にはそれしか方法がないように思われた。
それまでは家でおとなしく漫画でも読んでる、あまり活発ではなかった私だが涼音ちゃんが関わることだけには積極的になれた。
幸い私は賭けに勝った。
初日の練習日、体育館には涼音ちゃんの姿があったのだ。
あの時の心臓が跳ねるような喜びを今でも覚えている。
涼音ちゃんはバスケ部に入る前から地域のチームに所属していたらしく、ずば抜けて上手だった。
新入生の中の話ではなく、バスケ部全員のなかでだ。
一年生からあっという間にレギュラーになってチームを引っ張るエースになった。
私は涼音ちゃんに少しでも良いとこを見せようと、まあ私の方が圧倒的に下手なんだけど……必死に練習した。
しかし、そんな涼音ちゃんを良く思わない人もいた。
自分たちは全然努力をしないくせに批判だけはいっちょ前にする人達。
練習はしないくせに、「私たちなら全国大会に行ける!」などとほざいていた。
どうして、練習もせずに試合に勝つことが出来るだろうか?
しかし、そんなチームを涼音ちゃんは決勝まで連れて行った。
今でも、あの大会の涼音ちゃんを夢にみるぐらい、まさに神がかっていた。
徹底的にマークされるなか、どんな厳しいシュートも決める姿。
チームメイトを引っ張っていく姿勢は観客をも魅了していた。
涼音ちゃんがボールを持つたびにざわめく会場。
まさしく、スーパースターだった。
しかし、決勝で陽菜たちは負けた。
最後シュートを外してしまったのは涼音ちゃんだった。
けれど、涼音ちゃん以外誰も通用していない中でそれほど接戦になったのは、涼音ちゃんのおかげだ。
私は試合に負けた悔しさと同時に自分の親友を誇らしかった。
けれど、チームメイト達は自分たちの実力を棚に上げて涼音ちゃんの責任だと言わんばかりの態度だった。
陽菜はそんなチームメイトに心底、嫌気がさしたんだ。
バスケ部を引退してからは涼音ちゃんと会話する機会が途端に減ってしまった。
なんとなく避けられているように感じることもあった。
例えば廊下で会っても目も合わせてくれなかったり、遊びに誘ってもいつも予定があったりなどだ。
けれど、また中学校に上がって一緒にバスケ部に入ったらすぐ元通りになると思っていた。
しかし、私の楽観的予想は卒業式で砕け散った。
長い校長先生のお話に号泣するクラスメート、まさに卒業式って感じだった。
人目を憚らず泣くクラスメートをよそに私は全く涙が出なかった。
だって、陽菜にとっては涼音ちゃんとまたバスケができる中学校生活が待っていると思っていたから。
陽菜はクラスの輪をこっそりと抜けて涼音ちゃんを探し始めた。
「ちょっと、陽菜いい?」
「あ、涼音ちゃん!写真とる?」
少しの間あたりを歩き回っていると涼音ちゃんの方から陽菜に話しかけてくれた。やっぱり、避けられているなんて勘違いかもと嬉しくなった。
「いや、ここじゃあ話しづらいから、こっち来て」
そう言うと陽菜の手を引っ張って校舎裏まで連れて行かれた。
あたりには誰も居ない……。
もしかして、告白かも!
どうしよう、心の準備が……。
そんな風に舞い上がる私とは正反対に涼音ちゃんの態度はどこかよそよそしかった。
「陽菜、私同じ学校に行けない」
「え……?」
「私立の学校受験したの。だから、今日でお別れ……今までありがとね」
それだけ告げると涼音ちゃんは陽菜に背中を向けて去ってしまった。
追いかけなければ……咄嗟にそう思ったが体が動かなかった。
まるで金縛りにでもあったかのような感覚だった。
涼音ちゃんとお別れ……?
嫌だ、受け入れたくない。
行かないで欲しい、そう思っても今更どうにもならないことだった。
だって、涼音ちゃんは一人で決めてしまったから。
私が何かを行っても気持ちが変わることはないって理解できた。
さっきまで描いていたバラ色の未来が粉々に砕け散った瞬間だった。
そこからの記憶はよく覚えていない。
ただ家に帰って布団の中で泣いたことだけは鮮明に覚えている。
中学校に入ってからは退屈な日々だった。
迷った末に小学校のチームメイトに誘われてバスケ部に入ったものの涼音ちゃんがいないと、どうしてもモチベーションが上がらなかった。
特やることもなく、なんとなく日々を過ごしているうちにいつの間にか三年生になっていた。
陽菜は別に勉強が好きなわけじゃなかったから、適当に行けるとこに行こうと思っていた。
少子化が進んでいるし、流石にどこかには入れるはずだと踏んでいた。
しかし、ある日を境に陽菜は猛勉強を始めることになる。
きっかけは勿論涼音ちゃんだ。
「電車の中で白雪中学校の制服を着た涼音ちゃんを見かけた」と友達が教えてくれたのだ。
それを聞いた瞬間、私の進路は決定した。
きっと涼音ちゃんはそのまま白雪高校へと進学するだろうと思ったからだ。
それと嬉しいことに白雪高校にはバスケ部がなかった。
それだったら一から好きなメンバーで自由なチームを作って涼音ちゃんと一緒にバスケが出来ると思った。
しかし、白雪高校はお嬢様学校として知られていて高校から入るのはかなり難易度が高いと言われていた。
それまで一切勉強してこなかった私が目指すような高校ではなかった。
実際、担任の先生からは「無理だ、諦めろ」と何度もいわれたが進路を変える気はさらさら無かった。
涼音ちゃんに会える……!
その想いが私を突き動かした。毎日図書館に通って何時間、時には十時間も勉強した。
その甲斐あってなんとか合格すること出来た。
今考えると割れながら無謀な挑戦だったと思うのだが結果おっけーだ。
入学式の日、久々に会った涼音ちゃんはなんだか以前よりもとげとげしさが無くなっているように見えた。
きっと、なにかあったのだろうと感じている。
シュートが入らないのもそのことが原因なのではないかと薄々感じている。
以前だったら他人のことをあまり意識しない様子で唯我独尊という言葉が似合うな孤高の存在だった涼音ちゃんがまるで正反対になっていたから。
まあ、そんな涼音ちゃんも大好きだけどね!
けど、このままだと涼音ちゃんはバスケットを辞めてしまうかもしれない。
それどころか、学校にも来なくなってしまうかもしれない。
明日は来てくれると良いんだけど……。
また一緒に話したい、バスケしたいよ。
もし、明日来てくれたらいっぱい話したいな。
いままでのこともこれからのことも……。
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