第14話 ポジション決め
「それじゃあ、まずはポジション決めはしたいと思いまーす!」
最初の練習の日、みんなを集めて陽菜は言った。ポジション決めておかなければ練習もままならないため、最初に決めることにしたのだ。
「ワタシは昔フォワードをやっていたからできれば以前と同じがいいな」
少し控え目にリリーが言った。昔とはリリーがフランスにいたときのことだろう。
バスケットではポジションが異なれば役割が全然違うため慣れ親しんだポジションでプレーしたいのは当然だ。
「身長を考えれば私と陽菜がガードをやって、一番背の高い静香がセンターをやるのが良いと思うんだけど」
バスケは身長が重要なスポーツだからポジションもなるべく身長を考えてやるのがベストだと考えて、そう発言する。ちなみに私は百六十三センチで陽菜は百六十センチと若干私の方が背が高い。
「確かに、そうすると私が一番で涼音ちゃんが二番、リリーよりも身長が低い宮子ちゃんは三番になってリリー先輩と静ちゃんが四番と五番になるね」
陽菜が具体的なポジションを示してくれた。
それだとバランスもとれてるし、ぴったりだと思う。いいね、リリーが手をたたく。
リリーも陽菜が言ったポジションに賛成のようだ。
「ちょっと待ってくれ、センター?ガード?何を言っているのかさっぱり分からないのだが……」
と、宮子さんが困惑した声で口を挟んできた。横を向くと静香も、うんうんと頷いている。
そうだ、二人は初心者なんだからいきないセンターとか言われても意味が分からないだろう。二人には一から説明する必要がある。
「えーと、センターとかガードって言うのはバスケットのポジションの名前なんだ。ポジションが違うと役割も全く違うんだ。それで具体的にどこが違うっていうとね……うーん、涼音ちゃん説明任せた!」
えー⁉私が説明するの?いきなりの丸投げに驚きを禁じ得ない。
……まったく、部長というのは肩書きだけのようだ。
けど、陽菜がこういった説明を上手にできるとは思えないし、しょうがないな。
バスケのポジションっていうのはね――私はなるべく簡潔にまとめて説明した。
内容を要約すると以下のようになる。
まず、バスケットでは五人の選手がコートに立つ。
ボールを運んでゲームメイクしたり、味方にパスする人のことを一番、ポイントカードという。
そして、二番はシューティングガードといって点取り屋としての役割を求められる。かのバスケットボールの神様マイケルジョーダンがこのポジションだ。
シュートが打てない私が二番をやるのはおかしいと思うかもしれないが、私は一番が出来ないから仕方ない。
私は小学校の頃、バスケ部の中では身長が小さい方だったので一番をやらされることもあった。
しかし、世界が自分中心で回っていた私は味方にパスを出すことを嫌い全部自分でシュートを打っていた。
そのため一番を失格とされ二番に配置転換となった。
もちろん、今ならもっと周りを見られるだろうし、パスを出すことも厭わない。
けれど、昔と同じポジションをやった方が負担は少ない。
それに、自分で言うのもなんなんだが、私はパスが下手なのだ……。
だって、昔はシュートばっかり練習していたし。
だから、パスが重要な一番は私には出来ないポジションだ。
話を戻して、三番のポジションはスモールフォワードといって万能型のポジションだ。
しかし、このポジションは選手によって大きく役割が異なることもある。
ゴールに向かうプレーをするのが得意な選手もいれば守備を売りとする選手もいる。
三番が一番プレーヤーの個性が発揮されるポジションだと思っている。
そして四番はパワーフォワードといってゴールの下とスリーポイントシュートで活躍するポジションだ。
そして、最後は、センターというのはゴールの下での得点や守備、相手や味方が外したシュートをとる役割が求められる。
それと基本的には一番から五番にかけて要求される身長は大きくなっていくと言われている。
二人とも私の説明を聞いて、うんうん、と頷いてくれていた。
よかった、ある程度のことは理解できたらしい。
静香がそれならばと口を開いた。
「なるほど、それじゃ一番身長が大きい私はセンターっていうのをやればいいの?」
「うん。センターはリバウンドをとることが重要な役目だから頑張ってね」
「リバウンド?どうして私がダイエット失敗したこと知ってるの⁉」
静香が驚愕の表情を浮かべた。いや、多分そのリバウンドじゃない……ていうかダイエットしてたんだ。
こんなにモデルみたいな体型してるのに⁉
逆に私がびっくりだよ。
「そんなに太ってきてるの分かりやすかった⁉」
「いや、そのリバウンドじゃない……静香落ち着いて。バスケットでは相手の外したシュートのことをリバウンドっていうんだよ。センターは相手のセンターとリバウンドを取り合うの。もし、相手に奪われたらまた相手の攻撃になっちゃうからリバウンドはとっても重要なんだよ」
「なんだ、てっきりダイエットのリバウンドの話かと思っちゃったよ。私ちょっとみんなより体重重たいから減らそうと思って最近ダイエットしてたんだ」
てへへ、と恥ずかしそうに静香は笑った。
「うそー静ちゃんがダイエット?そんなのしなくても全然痩せてるじゃん」
陽菜があり得ないとばかりに口を開いた。私も同感だ。今の体型でも十分すぎるように見えるけどなあ。
リリーは静香に諭すように言った。
「静香はみんなより身長が高いからその分体重も重たくなってるんじゃないかな。だから気にする必要はないんじゃない?」
なるほど。それは一理あるな。というか、静香が太っているようには見えないし、それが理由に違いない。
「そうだったらいいんだけど……はーあ、もっと身長が低ければなあ」
うっ、静香に悪気はないんだろうが、ひどい嫌みに聞こえてしまう。私のような身長が大きくない選手がどれだけバスケットをする上で苦労しているか……。
身長が低いという理由だけでポジションも限られるし、リバウンドもとれないしで散々な目に合う。
あと五センチ身長が高ければ、となんど思ったことか。
身長が低ければいい、なんて贅沢な悩みなんだろう。
まさに持って生まれた者、勝者の言葉だ。
陽菜も同じ気持ちなんだろう。静香の言葉を聞いて、ぐはっ、と胸を押さえていた。
「あれ、どうしたの二人とも。そんな苦虫をかみつぶしたような顔をして」
私と陽菜の様子がおかしいことに気づいたのか静香が首をかしげた。
「あー、多分二人はシズカと逆なんだよ。シズカは今まで身長が高くて苦労してきたかもしれないけど、バスケットにおいては身長が高いっていうことはものすごく良いことなんだ。逆に身長が低いことはバスケット選手にとってあまり良いことはないの。シズカは身長が低くなれば良いと思ってるようだけど、そこの二人にとっては喉から手が出るほどうらやましいことだと思うよ」
バスケット経験者のリリーは私たちの気持ちが分かったようで不思議そうな顔をしていた静香に完璧に説明してくれた。
「そーなんだ……身長が高いなんて嫌なことしかないと思ってたよ」
静香は信じられないとばかりに吐き出す。
人より身長が大きいことがきっかけでいじめられた静香にとってはまだ私たちの感覚が理解できないのだろう。
高身長がずっとコンプレックスとなって静香を悩ませてきたとほのかさんは言っていた。
けれど、もしかしたらバスケットをやっていって私たちのような価値観に触れることで静香が変わるきっかけになるかもしれない――そうなったら良いな。
「一番身長が高い静香さんがセンターとやらをやるとして、私はどのポジションをやればいいんだ?」
宮子さんが早く教えてくれとばかりに聞いてきた。
「宮子さんは三番、スモールフォワードをやってもらおうかな」
「雨宮さんのさっきの説明だと攻撃と守備、どっちも重要らしいが素人の私にできるのだろうか?」
宮子さんは少し自信なさそうに首をかしげた。
「そこは心配しなくて大丈夫だよ。ちゃんと私たちがサポートするからね。それにコートには五人で立ってプレーするんだし、そこまで気負う必要ないと思うよ」
正直、五人しかコートに立たないバスケットという競技においてプレーの負担はそこまで変わらない。
全員で攻撃するし、守備もする。
だから、どこのポジションでも重要度は変わらないと思う。
むしろ、ポジションを決めるのにおいて一番大事なのは身長だ。
仮に背の低い人がセンターをやったとしてもリバウンドはほとんど相手のセンターにとられてしまうことは容易に想像がつく。
つまり素人だろうが宮子さんが三番をやることが身長を考えるとベストなのだ。
「わたしも初心者でちょっぴり不安だけど、一緒にがんばろうね!」
静香が宮子さんを励ますように言った。
「そうだな……誰だって初心者なんだし、まずはやってみることが重要か」
宮子さんがそう呟いたことによってポジションは決まりとなった。
整理すると陽菜が一番・私は二番・宮子さんが三番でリリーは四番、一番身長の高い静香がセンターというきっちりと背の高さを考慮した布陣が白雪高校バスケ部のスタメンだ。
これはひょっとして結構強いのでは?とかなり期待が持てる。
なぜなら、身長は最低でも陽菜の百六十センチはあるし、なによりリリーと静香がいる。
二人とも百七十センチ後半はありそうだし、ポテンシャルは高そうだ。
もしかしたら七月の下旬にある最初の大会で一回戦くらいは勝てるかもしれない。
ゆくゆくはもっと上まで……。
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