第11話 意外な顧問
家に帰って早速陽菜に連絡する。
もちろん要件はリリーの入部ついて知らせるためだ。それと顧問やその他部活を作るための条件についても話さなければ。
プルルルル――プルルルル――プルル、「もしもし、どうしたの?」
何度目かのコールの後で陽菜が電話に出た。
電話に出た陽菜の声は機嫌がよさそうでやはりなにかあったのだろうかと思う。
なにがあったのかは後で聞くとしてとりあえず今日の報告を済ませる。
静香の言っていた金髪の人、リリーに会いに行ったことや既に入部することが決まったことなどだ。
今日一日あったことを話せるだけ話した。
陽菜はまさかリリーがもう入ることになるとは思ってもいなかったようで驚きの声が電話の向こうから聞こえた。
「それで、その人はどんな人なの?」と陽菜は興味津々といった様子で聞いてきた。そりゃ勿論気になるよね。これから一緒にやっていく上で性格が悪かったりしたら最悪だし。
けど、リリーは悪いどころか最高だ。とてつもなく美人なのに威張り散らかしてないし、優しいし。
私の中のリリーの評価は特Aだ。
私はリリーが良い人だと、これからも仲良くやっていけそうな人だと丁寧に説明したのだが――。
「ふーん、美人でかっこよくてファンクラブまである、と」
陽菜の低い声が私の話を遮った。
なんか怒ってるみたいだ。けど、なんでだろう。私はリリーについて説明してただけなのに。てっきり、陽菜はファンクラブがあるなんて凄いね!なんて言うかと思った。
「それで涼音ちゃんはかっこいいリリーさんのファンクラブに入るの?」
電話の向こうの陽菜はなんだか拗ねているような気がする。非難めいた口調で問いかけてきた。
「そんなわけないじゃん。一体どうしたの?なんか陽菜らしくないよ」
こんな態度の陽菜は珍しい。私の中の陽菜のイメージは明るく単純な性格だった。今も変わっていないと思っていたのだが。
もしかして私が勝手にリリーに会いに行ったことを怒っているんだろうか。
「だって私――好きなのに……そんな話、ごめん。この話はもうやめにしよ!」
私が結論を出すよりも早く陽菜は話を打ち切ってしまった。好きってなにを?なんでそんな悲しそうなの?陽菜が話の終わりを宣言したことで私の疑問は心のタンスにしまわれたままになってしまった。
「そーだね。これで私の今日一日の報告は終わりなんだけど――陽菜は誰を見つけてきたの?」
空気を変えるため少し声を明るくして別の話題に移す。
「ウェ!な、なんで陽菜がミヤコちゃんを誘ったことがわかったの?」
なんでって、そりゃあ私が話している間ずっとそわそわしてて、何か言いたそうにしてたからね。なんとなく陽菜も誰かを見つけてきたことぐらい察せられた。
というか、五人目はミヤコさんというようだ。
「幼馴染みの勘というやつかな」
「なにそれ!せっかく涼音ちゃんを驚かせようと思ってたのに」
あーあ、と陽菜がため息をついたのが聞こえた。
「けど、もう1つサプライズは残ってるもんね」
おや?陽菜はまだなにか話していないことがあるらしい。
元気を取り戻したようでまた口調が明るくなった。
「なんと、顧問の先生を見つけました!」
「おお!」
私はすっかり忘れていたが陽菜はしっかりと探してくれていたらしい。
さらに、陽菜は体育館の手配や、用具を使用する許可などを既に終えていると話した。
てっきり陽菜は私と同じでなにも考えていないかと思っていたから驚きだ。まさか一人で終わらせてしまうとは。
陽菜も随分成長したんだな、となぜだか感慨深くなった。
「もう準備してたんだね。私は顧問の先生とか場所取りとか、なにも考えていなかったから助かった。ありがとね」
私のお礼に対して陽菜は「まあ陽菜が言い出しっぺだからね。そんくらいやってトーゼンだよ」と言った。
当然とは言っているけれど、照れているのが丸わかりだった。
きっと電話の向こうでは顔を真っ赤にしているだろう。
それにしても発起人として部員を集める以外はすべて陽菜が一人で終わらせてしまったらしい。
一見、適当そうに見えて陽菜って実はちゃんとしてるなあと失礼ながらも感心させられてしまった。
それで顧問は誰になったのか?陽菜のクラスの担任の若い女性の先生だろうか。
それとも体育の厚木先生だろうか。候補が次々と頭に浮かぶ。
しかし陽菜の答えは私の予想外の人だった。
「な、なんと……赤城先生でーす」
うそ⁉赤城先生って私のクラスの担任の?あのいつも気怠げでやる気なさげな赤城千夏先生だと?
信じられないが、白雪高校には他に赤城という名字の先生はいなかったはずだ。
ということはそのまさかまさかの赤城千夏先生で間違いないだろう。
私が絶句していると「驚いたでしょー」と陽菜の楽しげな声が聞こえた。
経緯を聞くところによると最初は別の何人かの先生に頼んだが全員に断られてしまったらしい。
まあ、最近教員の過労が問題になっているし部活なんて負担の大きいものやろうと思う先生もいないのだろう。
陽菜もそう思ったそうで諦めかけていたそうだ。
しかし、赤城先生にダメ元で頼んで見たところオッケーだったらしい。
ちなみに陽菜のクラスの現代文赤城先生が担当していたはずなのでその時頼んだのだろう。
「実は私も赤城先生は無理かなって思って最初頼まなかったんだ。けどもうあらかた断られちゃってさあ。もしかしたら……って思って声かけたらオッケーが返ってきてびっくりしたよ」
そりゃあ赤城先生を知っている人なら誰だって顧問を頼もうなんて思わないだろう。気怠げな感じで部活の顧問なんて興味なさそうだし。まず赤城先生に頼もうと思ったことがすごいな。私だったら絶対無理だと決めつけてしまっていただろう。
「いやーまさか赤城先生とは。一体どんな魔法使ったんだい?魔女さんや」
「それりゃあ凄い魔法を……って私魔法なんかつかえないし!陽菜は普通に声を掛けただけだよ。ぶっちゃけ、なんで引き受けてくれたのか陽菜もよく分からないんだよね」
陽菜は心底不思議そうに言った。
「理由とかなんか言ってなかったの?元バスケ部員とかバスケが大好きとかさ」
「それがさー、なんにも言ってないんだよね。陽菜も一応バスケやったことあるか聞いてみたんだけどバスケのこと何にも知らない感じだったよ。なんなら最初話したときバレーと勘違いしてる様子だったし」
それは本気で興味なさそうだ。一体なぜ?ますます謎は深まるばかりだ。
「けど、これでいよいよ部活ができるね」
陽菜の声にハッとする。
そうだ、まだ私たちは準備が終わっただけだった。これからがスタートなんだ。
まだバスケットを昔みたいにできる自信はない。けど、ちょっと楽しみになっている自分もいるんだ。陽菜や静香、リリーとなら楽しくできるかもしれない、昔を忘れられるかもしれない――。
「これからもよろしく、陽菜。あと……誘ってくれてありがとね」
そう、陽菜が誘ってくれなかったら昔にとらわれたままだったかもしれない。ずっとバスケットから逃げていたかもしれない。そう思うと自然と感謝の言葉が口に出た。
「どーしたの急に。こっちこそよろしくだよ!」
陽菜は照れているのか少し笑いながら言った。
しかし、こうもはっきりと感謝を伝えると恥ずかしいな。でも決して嫌な感情ではない。なんだか胸がホカホカする。
「あ、そうだ。涼音ちゃん、いつから部活始めよう?できればみんな集まれる日にスタートしたいよね。そしたらミヤコちゃんとも顔合わせもできるし」
「そうだね。リリーと静香には私が連絡とるからミヤコさんには陽菜が連絡とってくれる?みんなが都合の良い日にスタートしよう」
部員集めは準備段階にすぎない。これで、やっと部活がスタートするんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます