第12話 顔合わせ

 今日はバスケ部の顔合わせの日、水曜日の授業後だ。

 全員予定が空いていたのが今日だった。

 静香みたいに家の手伝いがあるといつでも空いてるって訳ではないからね。互いに連絡をとり合って今日にしたのだ。

 まあ私はいつでも暇なんだけど……。

 授業後に静香と急いで体育館にやってきたのだがまだ誰もいない。

 どうやら私たちが一番乗りのようだ。それと体育館は剣道部も使っているのだが今日は活動していないようで体育館は独占状態だ。

 広い体育館の真ん中に私たち二人きり。空間を持て余しぎみ。

 しばらくの間、体育館の真ん中に座りながら静香と雑談して時間をつぶしていると「涼音ちゃ~ん」と入り口の方から陽菜が手を振りながらやってきた。ど

 うやら陽菜も急いで来たようで少し汗をかいている。

 それからは陽菜も交えてまた雑談が再開される。

 静香と陽菜の間にもうぎこちなさはない。

 しばらくすると、また入り口の方で物音がした。誰か来たようだ。

 「お、もう来てたのか。私が一番早いと思ったんだけどなあ」と言いながら少し悔しそうにやってきたのはリリーだった。

 相変わらず美人で遠目から見てもスタイルの良さが際立つ。何度見ても目が吸い寄せられてしまうな。

 あれ?なんか隣から殺気が……。


 「リリーさんですね?涼音ちゃんの幼馴染みの早川陽菜です」


 やたら幼馴染みという部分を強調して陽菜がリリーに挨拶をした。

 そこは自分の名前を強調した方がいいんじゃないかなと思う。だって自己紹介なんだし。

 ちょびっと違和感のある陽菜の自己紹介に続いてリリーが口を開こうとしたとき、また入り口から物音が聞こえた。

 「あ、宮子ちゃん!」と陽菜が手を振る。

 ということはこちらに向かって歩いてくる彼女が最後の一人なんだろう。


 「初めまして、私は一年四組の藤原みやこ。宮崎県の宮に子供の子で宮子という。どうぞよろしく頼む」


 そう言って私たちの前でお辞儀をした宮子さんからは相当な育ちの良さを感じた。不思議なものだがお辞儀一つで分かるものなのだ。

 ただ腰を深く折るだけじゃない、手の位置からつま先まで完璧に洗練されたお辞儀だった。

 背筋を伸ばした宮子さんの身長は私よりも高く百六十五センチぐらいはあるだろう。

 色白で整った眉毛にキリッとした目は気の強そうな美人といった印象を受ける。髪型は俗に言う姫カットというやつで、和風美人といった言葉がよく似合うように思う。なにより背筋がピシッとしていてなんとも言えない迫力を感じる。

 この大和撫子は……絶対お嬢様だ!


 「さて、どうやら全員そろったことだし今一度自己紹介としようか」


 宮子さんの迫力にびびっていた私をよそにリリーがそう提案した。リリーの口調はいい意味で飄々としていて場が盛り下がらない。

 それから私たちは互いに自己紹介しあった。

 どうやら宮子さんはバスケット未経験者らしくルールもよく分からないとのこと。バスケット経験者でもなく陽菜とは組も違うのにどうやって陽菜は勧誘したのだろうか。

 気になって二人に尋ねてもはぐらかされてしまった。

 宮子さんは頑なに話そうとしなかったし、陽菜は一体なにをしたのだろうか。

 ちょっと心配になる。なにか変なことやってなければいいんだけど……。

 まあ、そんな不安を覚えながらも自己紹介はこれと言った問題もなく終わった。まあ今後何年かは一緒にやっていく仲だし、宮子さんとも自然と仲良くなっていくだろう。

 今日はもう終わりかなあなんてと思ったとき入り口から足音が聞こえた。

 はて?バスケ部は全員いるし、誰だろうと思いながら振り向くとそこにはよく見知った顔が。

 というよりほぼ毎日見る顔――私のクラスの担任、赤城先生がいた。

 そうだった、赤城先生がバスケ部の顧問になってくれるんだった。


 「授業についてちょっと質問されてな、遅れてしまった。すまないな」


 私たちにの元にきて謝る赤城先生の口調はいつもの少しぶっきらぼうな感じだ。

 ちなみに髪もいつもどおり寝癖があった。


 「いえ、むしろ引き受けてくれて大感謝です!先生がバスケ部の顧問になってくれたおかげで助かりました。ありがとうございます!」


 そう言って陽菜が頭を下げたのに続いて口々に私たちもお礼を言う。


 「それじゃあ、まずこの紙を記入してくれ」


 赤城先生はポケットから四つ折りにした紙を取り出して陽菜に渡す。

 どうやら部活を作る申請書のようで部員と場所と活動日、顧問の先生の四つを記入して提出することでやっと部活として正式に登録されるようだ。


 「部員はここにいる五人でよくて、場所は体育館っと。顧問の先生は赤城先生だとして……活動日はいつにしようか?」


 陽菜が代表して用紙を記入してくれていたのだが活動日の欄で手が止まった。


 「他の部活が活動していない日にしたらどう?週三日ぐらいは空いてるんじゃないの?」


 なんとなくの予想で言ってみる。

 実際部活が全く盛んでないこの白雪高校で毎日活動している部活なんてないはずで多くても週3日ほどしか活動していないだろう。


 「体育館は月曜日と水曜日、土曜日が空いてるな」


 事前に赤城先生は調べてくれていたらしくメモを見ながら教えてくれた。

 あまり生徒に感心がないタイプの先生だと思っていたけど、顧問を引き受けてくれたり、体育館の空いてる日を調べてくれていたりと面倒見の良さが垣間見える。

 言葉はぶっきらぼうだけど中身は全然違うようだ。

 「私はその曜日だったら練習に参加できるよ」と静香が言うとリリーも宮子さんも大丈夫だとうなずいた。もちろん私はいつだって空いている。


 「じゃあ月、水、土曜日の週三日活動にしようか」


 私たちの様子を見て陽菜が申請書を記入して、赤城先生に渡す。

 よし、これで全ての準備が整った。


 「書き終わったな。それじゃあ私はこれを提出してくる。今日はまだ部活が正式に始まってはいないからここら辺で解散しとけよ」


 そう言い残して赤城先生はあっという間に帰ってしまった。


 「私も用事があるので今日はこれで失礼する。これからよろしく頼む」


 宮子さんも用事があるようで一言挨拶して帰ろうと背を向けた。


「あ、そっか。今日魔女っ子カティちゃんのイベ――」


「違う!」


 しかし、陽菜がなにかを言いかけたのを聞いて慌てて陽菜の口を塞ぐ。

 確か魔女っ子カティちゃんは小学生に大人気のアニメシリーズだったはず。

 一体それがどうしたのだろう。

 陽菜の口を塞ぐ宮子さんの顔はリンゴよりも真っ赤でまるでゆであがったタコのようだ。


 「え、でも今日イベントあるからなるべく早く帰りたいって」


 「ち、違うし。そんなの知らないもん。それ以上なにか言ったら私バスケ部もう来ないから」


 そう言うと宮子さんは脱兎のごとく出口に走って行った。

 というか、宮子さんの口調はあれが素なんだろうか。厳しめなお嬢様というイメージとのギャップが凄い。

 けどあっちの方が付き合いやすそうだ。

 「宮子さんちょっと怒ってなかった?」


 陽菜に聞いてみる。もしかしたら私の勘違いなのかもしれない。けど、もし宮子さんが抜けてしまったら廃部なんだからシャレにならない。


 「え~そうかな?」


 どうやら陽菜は気にしていないようで生返事だった。

 リリーも陽菜と同じ気持ちのようで大したことないだろうと伝えてくれた。


 「まあ、特に気にする必要はないんじゃないかな。私には怒って帰ってしまったようには見えなかったよ。それより、この後暇かな?よければどっか寄り道して帰らない?」


 「いいね!どこに行こうか?」


 「最近、鹿野駅の近くにおいしいサンドイッチ屋さんができたってお母さんが言っていたよ」


 「あー、その店陽菜のお母さんも美味しいって言ってた!」


 「じゃあ、そこに行こうか」


 「こういう部活っぽいことアニメで見たとおり!」


 リリーが嬉しそうに、はしゃいだ。

 そんな風にみんなで話しているうちに宮子さんへの私の不安は頭から消えさっていた。

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