第4話 もう一人のボッチ
起立、お願いします――学級委員長の挨拶によって本日最後の授業が始まった。
担任の赤城千夏先生の現代文だ。私は中学生になってから本を読むことにハマり、現代文も好きになった。
どうせ、ボッチで机に突っ伏すのも悔しいから本を読んで私ボッチじゃないですよアピールしてただけだろって?うるさい!
とにかく、一番楽しい授業だが今日は違う。陽菜との約束があるからだ。
その約束とは勿論、部員集めに協力するというもの。そのことが頭をよぎって授業に集中できない。
「涼音ちゃんは二組の中で入ってくれそうな人知らない?」
体育館で話したあの日の夜、陽菜が私に電話をかけてきた。番号を教えたその日に連絡くれるとか……友達みたい!とちょっとテンション上がったのはここだけの話だ。
「まだ新学期でクラス内の交友関係とかもできてないし、心当たりないなあ」
……まあ私以外とっくにグループできてるんだけど。けれど、私を頼りにしてくれている陽菜に正直に話すのはためらわれた。断じてぼっちを隠しているわけじゃないから!
あーあ、クラスでまだグループに入れていない人なんて私ぐらいだし。悲しくなってきた……
あ、でも私以外にもまだグループに属していない子が一人いた。
斉藤さんはクラスであまり他の人と話しているのを見かけないしどこにも属していないはず。この機会に斉藤さんと仲良くなれたりして。そしたらぼっち回避できる。これ以上休み時間に寝たふりしなくて済むかも……!
それに、斉藤さんは背も高いしバスケ部の戦力としても期待できそうだ。
「あ、でも一人思いついたからその子に声をかけてみるよ」
「ありがとおー。陽菜も一組で入ってくれそうな子探してみるね」
そう話し合ったのが一週間前。そう一週間前だ……。
あれから未だに斉藤さんに声をかけられずにいる。
声をかけようとは思うのだが、直前になって日和ってしまう。
まあ、今はいっか。もうちょっと作戦を考えてからにしよう。
そう甘えてるうちに一週間が経ってしまっていた。
今日の帰りは絶対に声かけよう!このままだと永遠に声を掛けられない予感もしてきたので、そう朝から決意していたのに。
今になって声をかけようか迷いが出始めてきた。
いきなり話しかけて嫌な顔されたらどうしよう?
でも案外話しかけてみたら仲良くなって、友達になれたりして。
いや、逆に嫌われてしまうかも……
いや、でも……頭の中でシミュレーションを繰り返していると、「起立、ありがとうございました—」授業の終わりを告げる学級委員長の声が教室に響いた。
とうとう授業が終わってしまった……。
今日は担任が最後の授業をしたのでそのまま帰りの会へと移る日だ。
どうしよう?なんて話しかけよう?
一週間前からずっと考えている問題の答えが帰りの会の僅かな時間に出るはずもなく、時間だけが過ぎた。
そして、ついに帰りの会も終わりゴトッと皆が席を立つ音が教室を埋め尽くした。
えーい、これ以上考えていても仕方ない。こうなったら最終手段だ!
とりあえず声をかけて、あとは場に身を任せる!
一週間悩んでたどり着くような答えでは間違いなくなかった。
けれど、私にはどうしても正解が分からない。もしかしたら人間関係に正解なんてないのかもしれない。
寮に行く人、家の迎えを待つ人、家路へ急ぐ人。そんな群衆の中から斉藤さんを探す。
おかしい。見つからない――。
斉藤さんはぱっと見でも身長百七十五センチはある。
そんな斉藤さんが見当たらない。もう帰ってしまったのだろうか。
「ゆき、斉藤さん見なかった?」
ちょうど教室の出口近くに立っていたゆきに聞いてみる。ゆきは寮に帰る途中だったのか鞄を背負っていた。
「斎藤さんって
そうだった。斎藤さんはクラスに二人いたんだった。
私は目的の人物が前者――斎藤静香さんであると付け加える。
「静香さんねえ……見なかったけど静香さんに用事でもあんの?」
「ちょっと話したいことがあるんだよね」
「まさか告白⁉」
わざとらしく、大げさに反応するゆきはふざけているのが丸わかりだ。
「そんなわけないでしょ!」
ちょっと苛立ちを声に込めて反論してみる。
悪いが、ゆきのおちゃらけに付き合ってる暇はないのだ。
「ごめんごめん。そんな怒んないでよ。協力してあげるから」
ごめんと言いながら全く反省の色がないのがゆきらしい。
それで協力とは?一緒に探すのを手伝ってくれるのだろうか。
「誰かー静香さんどこ行ったか知らない?」
すると、ゆきはクラス中に聞こえるように斉藤さんの居場所を尋ねた。
うわー!人に注目されるのを厭わないその姿、まさに陽キャってやつ!
そりゃあ斉藤さんの居場所についてクラスの人に聞くのが一番有効なんだけど、こんな風にしなくても……クラスの人ほぼ全員こっち見てるし。
しまったなー、ゆきが陽キャだってこと失念していた。
中学校の頃とかゆきは学園祭とかではクラスの中心になっていた。
それなのに天狗にならないで誰にでも分け隔てなく接するもんだから、ゆきはみんなに一目置かれている。
というか、その性格に美人なのも相まって後輩の子や同級生に告白されまくっている。ザ・ハイスぺな女だな。
「静香さんならさっき帰ったよ」
ゆきの問いかけに教室の前の方から返答が返ってきた。
「まじ?静香さんって寮住みだっけ?」
「違うんじゃないかな。実家住みって言ってた気がする」
「どこら辺住んでんのか分かる?」
「たしか笹姫駅の近くのさいとーって料理屋さんが実家じゃなかったっけ。なに、ゆき静香さんに用事でもあんの?」
「まあ、そんとこ」
「なにそれ~。ウケるんだけど」
ぐぬぬ……この短時間で斉藤さんが帰った方面まで分かるとは。
これが陽のチカラってやつなのか……。
てか、なにがウケるだ。今の会話にウケる要素ないだろ!
「だってさ。斉藤さん駅に向かったようだし、今から走って行ったら追いつけるんじゃない?」
私が愕然としてるとゆきがそう言った。
そうだ、こんなとこでゆったりとしているわけには行かない。
はやく斉藤さんを追いかけなけねば!
「あれがと」
私はゆきにお礼をいって教室を飛び出した。
「……かわいいなあ」
教室をでる直前ゆきが小声で何か言っていた気がするがよく聞きとれなかった。
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