第4話『身分抹消命令、特捜専対への布石』
自衛隊監視班のオフィス。
夕食で出前をとり、それぞれのデスクで食べる自衛隊監視班のメンバー。班員も一緒だ。
そこへ田村警部が入室する。中腰になる班員たち。
田村は笑う。
「皆、食べながらでいいよ」
もぐもぐと噛む畠山警部補、村上警部補、大河内巡査部長。
「今日はさらに残業してもらうことになった」
畠山が瞬きする。
「30分後にいつもの会議室に集まってくれ。ヒラの班員もだ。公安のゼロから直々に指令がある」
田村は言い残すと、ドアをガチャリと閉める。
畠山は急いで食事をすませる。
畠山は田村の後を追った。
「会議の準備手伝いますよ」
駆け出していく畠山に、事務の女性巡査長、巡査たちが慌てる。
大河内は感心した。
「さすが気が利くなあ。けど警部補ともあろうもんが自ら動き回っちゃ皆慌てるぞ」
そこへ村上が考えを言う。
「法務大臣の息子としてとやかく言われないように気張ってるんじゃないの? 私も行きますか」
* *
潜入中の別班員大河内が昨日使っていた会議室では、制服警察官が入り口を固める。
会議室にはそれぞれの席に、ペットボトル茶とパソコン、メモ用紙が置かれている。
「畠山君、手伝ってくれてありがとう」
そう労う田村に、笑みを浮かべてお辞儀する畠山。
大河内が訊ねる。
「そう言えば警視庁の公安部の幹部の方々は?」
「部長や課長、係長にも話は通してあるが、今回は俺たちへの直接指令だ」
ちら、と時計を見る田村。
「そろそろだな」
時間丁度に、警察庁警備局警備企画課理事官赤坂正樹警視正が壁のモニターに映る。
制帽がないのでお辞儀する自衛隊監視班。
「赤坂理事官!」
赤坂は眼鏡をクイと上げる。
「警察庁警備局長も間もなくビデオ通話がつながる」
警察庁警備局長、
「マル自の諸君、夜遅くまで残業させてすまないね」
警備局長は四角い顔で髪をポマードで固めた壮年だ。
「まさか警備局長がいらっしゃるとは」
畠山はそう漏らす……
「私だけじゃないよ」
さらに画面が分割され、新たな通話相手が2名出てくる。
「公安調査庁の浅倉長官だ」
公安調査庁長官は女性だった。凛とした雰囲気を感じる。
「よろしく」と浅倉。
「同じく公安調査庁、乃木首席調査官だ」
稲田は続けて紹介する。
「よろしくお願いいたします」と乃木。
乃木は坊主頭で、眼鏡をかけている。
「彼はマル自とのリエゾンを務める」
畠山は聞いてみる。
「さしずめ、公安警察と公安調査庁の合同活動というわけですか」
「察しがよくて助かるよ、流石畠山法務大臣のご子息だ」
おだてる稲田に、畠山は渋い顔をする。
赤坂は顎を撫でた。
「まあ、その身分も抹消してもらうことになるがな」
「抹消──!?」
と、村上が驚く。
田村は狼狽する。
「公安に入って以来、身分は抹消したはずですが」
「我々法務省が行政に手を回し、死亡扱いで行政に手を回しますわ」
浅倉が大胆なことを言う。
「そのための法務省との連携だ」
赤坂が解説してやった。
畠山はうろたえる。
「待ってください、何のために」
稲田は書類の端をトントンと整える。
「報告書は読ませてもらったよ。ウクライナに義勇兵を動員しているように、海上自衛隊護衛艦こんごうに巡航ミサイルを配備しているように、自衛隊にクーデターの動きがある」
自衛隊出身の大河内が眉をひそめた。
「具体的には?」
代わって浅倉が説明する。
「CIAの内通者から得た情報ですが、ウクライナに自衛隊義勇兵を動員することで軍事的緊張をもたらし、日中戦争をやらせ、双方疲弊したところでアメリカが海底資源採掘戦権で漁夫の利を得るのです」
この情報とて、陽動のためにCIAから握らされた断片的なものでしかない。公安調査庁は、クーデターの段階に総理大臣の交代があることを知らない」
稲田は立ち上がる。
マル自の皆もつられて立ち上がった。
「マル自の任務は、身分経歴を日本の行政から一切デリートした上で、警備局警備企画課のゼロに新設される「セキュリティポリスインテリジェンス」に合流し、自衛隊クーデター勢力を内偵捜査することだ」
ごくり、と唾をのむマル自一同
「なお、クーデター勢力の通称であるが、A27号とする」
赤坂は声を張り上げ、皆に緊張を促す。
「志願の形をとる! セキュリティポリスインテリジェンスに参加する者は明日正午に警察庁警備局警備企画課に出頭するように」
そう言い残し、画面から消える公安警察と公安調査庁の幹部だった。
「では、解散」
畠山は逡巡していた……
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