第3話『警察庁警備局警備企画課・別班の男』
警察庁警備局警備企画課──公安中央指揮命令センター
中央指揮命令センターを行き交うスーツ姿の捜査官たち。
警察の中でも、国家転覆などの公共の秩序と安寧を脅かす重大犯罪に対し、これを未然に防ぎ、犯罪者予備軍を監視するのが、公安警察である。
公安各々が端末で通信したり、指示を出したりする。ここ、警察庁警備局警備企画課の機密性の高いセクションにて、各都道府県警の公安部門が直接指揮されるのだ。
警察庁のロゴをバックに腕を組み仁王立ちする男。
「理事官、公安調査庁の調査官が到着しました」
理事官なる男は眼鏡をクイと上げる。
彼こそが警備企画課に詰める公安警察の裏の理事官、
仁王立ちする裏の理事官に、公安調査庁の首席調査官が歩み寄る。
今日は、公安警察と公安調査庁が顔合わせをする日である。
公安調査庁のリエゾンは
「俺と一緒に働きたい、とは、日本がひっくり返る事件でもあるのか?」
と、乃木は軽口をたたく。
赤坂正樹警視正は前の壁面ディスプレイを見つめたままだ。
「同期のよしみで甘えさせてくれ」
赤坂は厳しい顔を崩さないまま顔を合わせず言う。
乃木は赤坂のキャラをわかっている。
「もちろんだよ」
乃木が握手を求め、赤坂が渋々応じる。
50歳。公安調査庁の調査官である。
公安調査庁は逮捕権を持たない代わりに「ヒューミント」と呼ばれる手段で情報を集める。ヒューミントとは人の話を手段とする諜報活動であり、乃木がフレンドリーなのもそれゆえだろう。
ちなみに公安調査官には階級は存在しないが、首席調査官、統括調査官などの職位がある」
赤坂は乃木に正対する。
「お前には室長としてSPⅠの指揮を執ってもらう。そして公安調査庁との折衝も兼ねてもらう」
「SPIはスパイとも読めるな。わざとか?」
「セキュリティポリスインテリジェンスだ。警視庁公安部自衛隊監視班をはじめとする、えりすぐりの秘密捜査官たちを全国一元的に指揮する対策室を警察庁警備局警備企画課内部に置く」
「スパイならSPYじゃないか? 秘密捜査官というからには、経歴も身分も改竄するんだろうな?」
赤坂と乃木はさらっと恐ろしいことを言ってのける。
「無論だ。戸籍から警察官名簿に至るまですべて改ざんするには法務省の力がいる」
ふむ、と腕を組む乃木。
中央指揮命令センターの壁面モニターにマル自の履歴書がリストアップされる。
乃木はどんな細かい事象も見逃さない。
「ちょっと、今の警視庁公安部自衛隊監視班の大河内ってやつ、止めてくれ」
乃木の履歴書が映る。
「
赤坂は腕を組む。
「何か気になる点でも」
乃木が段々険しい顔つきになる。
「自衛隊から公安に転身、まさか──
「まさか、ありえん……自衛隊と警察の二重スパイなど」
画面に、大河内巡査部長の履歴書がドアップになった。
* *
警視庁公安部自衛隊監視班のオフィス。
班員に自衛隊にコンタクトをとるといって人払いさせる大河内巡査部長。
「もしもし?」
専用端末で通信をかける大河内和夫巡査部長。
「ボス、潜入捜査は順調です。なんとか空挺レンジャーのふりができています。はい。内乱勢力とマル自双方の内偵を進めます」
と、突如として、秘密の会議室に
「あ」
「そこで何してるの!」
「そちらこそ!」
専用端末が壊れたおもちゃみたいにもしもしと繰り返す。
「(──もしもし、もしもし!)」
「「……」」
大河内は弁解した。
「……自衛隊へのヒューミントです」
村上も弁解した。
「……推しの歌ってみた動画の投稿時間です」
村上は冷や汗を垂らす。
「(ダミーの理由だけど、大河内巡査部長怪しいし)」
大河内が頭をかく。
「……あー、よく班員たちが入れてくれましたね?」
「私の方が階級は上ですからね。入れてくれたんですよ」
村上は私物のスマホを取り出した。
「(さて、ダミーの動画視聴を始めますか)」
アイドルのすたーぷりんすの歌ってみた動画が再生される。
甘ったるい声で歌が流れる。
なんと、今度は
慌ててスマホを切る村上。
畠山は聞き逃さない。
「今流れたのはすたぷりですよね?」
「何で知ってるの!」
ついに
「君ら何をやってるんだ」
一同姿勢を正し応えない。
「まあいい」
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