第2話『CIAの謀略・法務大臣の憂鬱』

 シチュエーションルーム。

 アメリカ合衆国ホワイトハウス地下に存在する、日本で言うところの内閣危機管理センターである。

 その区画の隅々まで盗聴器の有無を検査するエージェントたち。

「ここまでせにゃならんのかね」

 と、椅子に座り、腕を組むジョージ・デヴァイン大統領。

 CIAは応じる。

「ホワイトハウスシークレットサービスも我々は信用しておりません。事実、日本の公安調査庁と公安警察の動きがあわただしくなっております」

「日本の公安は優秀だからな」

「チーフ、このフロアに盗聴器はありません」

 感知器の電源を切り、大統領に顔を向けるエージェント。

「ご苦労」

 わらわらと限られた大統領側近らが着席し、話し合いを始める。

 CIAならぬDIA、すなわち米軍の情報機関が言う。

「計画が日本に漏れ、情報機関、治安機関に漏れていますが、大丈夫ですか?」

 CIAチーフはほくそ笑んだ。

「それも陽動を狙った作戦のうち。日本の公安調査庁にはわざとリークしました。計画の最終目標は軍需産業を潤すために日中戦争を起こせる政権にすること。その為に日本における合法的な政権交代、中間目標はアメリカの意に沿う首相の誕生ですからな」

 大統領がたしなめる。

「ここには初めての顔ぶれもいる。わからないだろうから改めてヤマト作戦の全貌を説明してはどうかな」

 CIAチーフは応じた。

「かしこまりました。ミスタープレジデント」 

 地図や写真を準備するエージェントたち。それらを並べながら作戦概要を説明していく。

「一、目的」

「日中戦争の誘発、混乱に乗じた海底資源の独占」

「二、行動」

「退役自衛官のウクライナ招聘、海上自衛隊イージス艦でのトマホーク巡航ミサイル暴発事故の演出による責任問題の浮上。黒部新造から米泉統一郎への政権交代による日中開戦論の機運」

「次なる行動」

「黒部新造の暗殺。日中開戦」

 恐るべきことに、CIAは日中戦争で海底資源の漁夫の利を得るために、日本に対米従属政権を誕生させようとしていた。

 自衛隊のウクライナ派兵は、戦闘訓練を積ませるためか。それとも兵力を損耗させるためか。

 国務長官がネクタイを正す。

「用意は整ったようだな」

 デヴァインが椅子から立ちあがる。

「それではオペレーションJ、通称ヤタガラス作戦の開始を宣言する!」


     *    *


 ……日米合同委員会という場がある。

 日米の文武官が集まり、アメリカからの決定を一方的に伝える場だ。

 日米の官僚が向かい合って座る。

 在日米軍参謀が言う。

「イージス艦コンゴウにトマホーク巡航ミサイルを搭載する」

 海上自衛隊イージスミサイル護衛艦こんごう。近年黒部新造内閣総理大臣が唱えた核シェアリングに備え、トマホークが搭載できるようになっていた。

 防衛省官僚が狼狽する。

「しかしそれは」

「なお、トマホークの運用は協定に基づきアメリカ合衆国が行う」

 アメリカ公使が念を押す。

「よろしいな」

「はい……」


     *   *


 法務省。

 公安調査庁により厳重に警備されたとある会議室にて、テレビモニターを見る大臣とごく一部の側近法務官僚。

 ウクライナ帰りの自衛官がモニターに映される。

「CIAの協力者から得た情報ですが、かなり厄介な案件です」

 テレビモニターのリモコンをいじる公安調査庁長官。

 デスクにつくのは、畠山正晴はたけやままさはる法務大臣だ。

 警察官僚を警視監で退官し、民自党から衆議院議員に転身。国家公安委員長を経て法務大臣の重積にある。

「アメリカの意向で自衛官をわざと退役させ、義勇兵としてウクライナに送っているというわけか」

「彼らの目的がクーデターのための戦闘訓練だというCIA協力者のタレコミが事実だとすれば、面倒な事態です」

「わかっておる。しかし……その協力者とやら、本当に信用できるのか」

「そこはお任せください」

「気を付けろ。ヒューミントの世界で取り込まれるなんてのはよくある話だからな」

 無言で頭を下げる公安調査庁長官。

「話は変わるが、公安警察もこの事案は察知していて、自衛隊監視班マルジを母体に新たな対策室を立ち上げようとしておる」

「確かご子息が……」

「身内のことはいい」

「失礼しました」

「そこでだ、公安調査庁から室長待遇で対策室に公安調査庁調査官をお目付け役で送り込むことになった」

「存じております。公安調査庁と公安警察のうまい橋渡し役となればよいのですが」

「候補は決まっているか」

乃木康信のぎやすのぶ首席調査官などいかがでしょうか。公安ゼロとも同期です」

畠山「決まりだな──SPIか」


このクーデター危機に立ち向かう公安警察秘密捜査チーム、セキュリティポリスインテリジェンスが胎動する。




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