第6話 ページ11,12 寿退社でハラスメント

見送った。時刻は午後四時。健三も幼稚園の頃から母子家庭で則子と二人で暮らしてきた。誠と美里の気持ちも分かる。中学生の頃の誠は母に気を使い、当時流行っていた服や靴をを買って欲しかったが言えなかった記憶がよみがえった。いつもなら明日は定休日なので、夕方からは品出しの調整の必要もなく、この日は美里と誠の相談事で頭がいっぱいで、仕事に身が入らなかった。

「健三、健三」

 母の則子の呼ぶ声で健三は我に返った気がした。時刻は午後七時を過ぎていた。いつもなら片づけを開始して、明後日の開店の下準備をしている時間。則子も不審に思って健三に声をかけた。

「また何か相談事をされたんだね。好きだね、あんたも」

一週間前にも妻が職場でハラスメントをされていると田中さんから相談された。話を聞くと奥さんの職場であるクリーニング工場の出来事だった。所属する部署の班長の独身女性が必要以上に仕上げ担当の田中さんに仕事を押し付けるそうだった。大量に押し付けながら班長は機嫌のいい時は、途中で手伝ってくれる事があるそうだ。今までは班長と日替わりでのパートが担当していた。班長の年齢は田中さんの奥さんより三歳上の三十九歳。仕事をし始めた頃はとても優しく接してくれて、丁寧に仕事を教えてくれていた。班長と一緒に仕上げのアイロンを担当し、仕事を教えてもらった。クリーニングにはウェットクリーニング、ドライクリーニング等あるが、仕上げは業務用のアイロンで仕上げる。ジャケット等の立体感のあるものは人体型に着せ、肩や襟を立体的に仕上げる。手仕上げでスチームやバキュームでシルエットを立体的に仕上げる。班長の年齢、勤務年数等を聞き、健三は考えた。行きついた答えは、班長は退職をしようと考えている。それも結婚、出産での寿退社ではないかと考えた。結婚する事で

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