天野さんのこと


「ほぉ~ら華さん、制服のまま寝たらしわしわになっちゃうでしょ~!」

「……どうせ行かないんだから、いいじゃない」

「ダメです~、明日こそ一緒に行ってもらいますからね。じゃないと先生が私に詰めてくるんですもん」

「私には関係ないわ」

「もぅ~……」


 どうして、この子は私に構うのだろう。

私の噂も、私がこの子にやっていることも、私がこの子にやってきたことも、どれも好印象を与えないはずだ。

どうせこの子も、今までのルームメイトという名の他人と同じように、この部屋から出ていくと思っていた。出ていくようにしたかった。


 人間関係は、私には必要のないものだから。

もういらない。何も求めない、何も受け入れない。

私は一人でいい。


「とりあえず、制服脱いでください!」


 嫌だ、と思う。ベッドですでに横になっているから、これから起きあがるのも嫌だし、着替えるから見ないでだとか、部屋から出て行ってだとか、自分が出ていくとか、そういう行動を起こすのも面倒だ。


「そんなに脱がせたければ、あなたが脱がせれば」


 面倒だから、困らせてやろうと思った。

 普通はそこまで仲良くない人から「脱がせ」なんて言われたら引くだろう。私なら絶交して、以降目も合わせない。


「じゃぁお言葉に甘えますよ~」

「ちょ、ちょっと! 冗談に決まってるでしょ!」


 なのに、こうだ。

この子はいつも、臆することもなく、私のパーソナルスペースにするりと入り込んでくる。

 

 冗談という私の言葉は聞こえていないのか、すぐにブラウスとスカートを脱がされた。手慣れているのはなぜだろう。

 

「洗ってきますね~」

「…………勝手にしたら」


 ふんふんと鼻歌を歌いながら、あの子は部屋の外の共有の洗濯機に向かう。


 はぁ。

あの子が来てから、ろくなことがない。疲れるし、強引だし、予想外過ぎて手に負えない。私の嫌いなタイプの人間だ。……私の好きなタイプの人間もいないけれど。


 なのに、それを結果的に許容してしまっている私がいる。

あの子といると、私が知っている私がいなくなる。私じゃない。

 そんな私のことも、私は嫌いだ。


 本当に、ろくなことがない。

私は、天野星あまのあかりという人間が、嫌いだ。

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