最終話 呪術師と交わり


 どうにか生き延びてフロンテアに辿り着くと派手な御出迎えを受けた。


 バラバラと走り寄って来る光の剣の残党達。

 そしてフロンテアの騎兵隊が残党を追い越し迫って来る。


 が随分手前でUターンして残党共と向き合う形……俺から見ればズラリと馬の尻が並んでいる。

 一人の騎士がチラリと俺に目配せすると向き直り大音声だいおんじょうで口上を発する。


「我らはフロンテア領主ディーノ男爵麾下きかの者である!此度こたびは怪しき術を用いて領内を騒がせた者を捕らえに来た次第である!神妙にばくを受けるが良い!」


 誰かと思えば、その声は騎士子じゃないか。

 騎士としての胆力を鍛えてあるのが良く分かる流石の声量だ。


「ちょ、待ってくれよ!それならソイツが“陽炎ミラージュ”って言う犯人の呪術師だろ!なんで俺達に剣を向けるんだよ!」


 残党頭が俺を指差して叫んでる……だから人を指差すなと、ソレって原始の呪術なんだからな?

 縁起が良くないので軽く祓う。


「既に調べはついている!A級冒険者パーティ“光の剣”は世を忍ぶ仮の姿!その正体は犯罪を請け負う呪術師集団を率いる“陽炎ミラージュ”その者である!随分と大きな組織で呪術師以外の者も多数抱えているらしいからな……構成員かどうかは一人一人キッチリと調べ上げてやるから覚悟しろ!」


 そんな大所帯支えるとか、どんだけ大規模にお仕事されてたんでしょうかねぇ。


「ふ、ふざけるな!呪術師集団って言うならソイツだって呪術師じゃねーか!なんでそんな奴に背を向けて庇うんだよ!俺達と同じじゃねぇのか!?ぁあん!」


 いや、同じにして欲しく無いです。

 キチンと調べてくれるのなら大人しくしてますよ……ヤバそうだったら逃げるけどな。


「その点は抜かりは無い!この呪術師が操るは怪しき術だが全て真っ当な使い方しかしておらん!既に確証は得ているし何より領主ディーノ男爵からのお墨付きだ!」


 ……なんで領主様雲の上の人からのお墨付きなんて出てるの?


「なっ!?冗談じゃねぇ!そんな怪しい奴が無罪放免だと?何考えてるんだよ!街の人間だって気味悪くてしょうがねぇだろうがよ!あん?それが治安を守る騎士様の仕事かよ!……ゲホッ」


 あ〜ぁ、発声を鍛えて無いのに騎士に張り合って大声出すもんだから残党ちゃんは喉が限界っぽいわ。


「民の声だと?お前らの様な者が随分と殊勝な物言いをするものだな!ならば直接聞かせてやろう!」


 騎士子は大きく右手を上げて合図を送る。

 視線の先を見やれば街壁の上には街の人々が大見物してらっしゃるじゃありませんか。


「え?普通に話せばいいんですかい?……えぇ、はい。では……あたしゃあの怪しい男が街中でコソコソやってるのをしょっちゅう見かけていたよ。何をやってるのか見ていたら何と魔法で掃除してるじゃないかい。しかもこれ見よがしじゃ無く人知れず軽く掃き清める程度。そんな事して歩いてる人間が悪人の筈が無いじゃないかい、少し変わり者かも知れないけど気味悪くも何とも無いね」


たまに顔を出したと思えば大量にウチの米や野菜を買っていってくれるのよ?その時に御礼だっていって軽く祝福していってくれるのよ?お陰で身体の調子も良くって商品も少しだけ鮮度を取り戻して売り上げも少しだけ良くなって……つまりは大歓迎なのよ」


「俺んとこの肉も同じだ〜」


 こりゃ市場の人達の生の声ってヤツだな……

 手庇てびさしで見てみると領主様お抱えの誰某だれそれ魔術師が風魔術で拡声してるみたいだ。


「錬金術師の……いや、こっちの方が通りがいいさね“チーズ造りのフェタ”だよ。皆、よくお聴き。今年のチーズはあの坊やが手伝ってくれてね、そのお陰で過去最高の出来になるのは間違いないよ!」


「フェタ婆がチーズ造りに他人の手を借りただと!?」


「しかも過去最高とか手放しで!?」


「最っ高の最高の出来って事じゃないか!」


「……味噌と醤油が切れた。あと味醂みりんも残り僅かだ。追加を頼む」


「うちのカカァにもヌカドコってヤツを分けてくれないか?」


「燻したお肉の御裾分け、いつも美味しく頂いております」


「一口だけでいいからニホンシュとやらを是非〜!」


「おまじゅないおしえてくれたの〜」


 何だか凄くカオスってる。


「それにアイツは狩人ハンターギルドの秘蔵ひぞっ子でな。街への貢献度は個人レベルでは中々無い高さじゃぞ」


 締めたのはおやっさんだな。

 お褒めの言葉は少々照れ臭い。


「肉や野菜を捌くのも、人を殺めるのも同じ刃物……違いは使い方にあって刃物を使う者が悪では無く、刃物を悪用する者が悪なのだ!ディーノ男爵の御言葉である!その胸に焼き付けろ!それに公務で瀕死の重傷を負った騎士の命を救ったのもこの男だ!最早問答は無用!騎馬隊、突撃〜っ!」


 騎士子が口火を切って引導を渡す。

 騎兵隊……どうやら騎馬隊と呼ぶみたいだが、土煙を舞い上げながら残党を追い詰める。


 突撃槍ランスを使ってないのは最低限の優しさなんだろうか。

 ……馬上用の長剣も振るわれる側からして見れば凶悪度では大して変わらない様な気もするが。


 逃げ惑う残党の先には狩人ハンターギルドの面々が弓を構えて逃亡を許さない。

 街壁の上では滅多に見れない大捕物で盛り上がっている。


 ……南への旅はしばらくは延期だな。

 人混みは苦手だけど、もう少しこの街に馴染んでもいいのかも知れない。


 

 人の本質は孤独かも知れないけれど、一人で生きていくよりも人と交わり生きた方が豊かになる。

 

 どうせ最期には一人旅に出なければならないのだから。



 

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