第75話 呪術師とお約束
赤髪と対峙した。
ヤツの手札は呪術系炎術。
奇しくも呪術師対決と相成った。
「“
纏った炎を腕に集め抜き払った剣に纏わせる。
隙あらば一々
こちらも片鎌槍を下段に構える。
踏み込みを牽制する事で槍の間合いを更に広く使うのだ。
広い間合いで視野を広げて相手の出方を探る。
すると遥か遠い間合いから赤髪が炎の剣を振り降ろす。
刃に絡みついてた炎が解けて、槍の間合いを飛び越えて鞭のように襲い掛かる。
払い落とそうとする槍に絡まりつく炎に蛇の様な瞳が視える。
刹那、炎が更に伸びて蛇頭が
槍ごと投げ捨て、大きく飛び退く事で辛うじて躱すも危なかった。
呪術の炎は容易に消えない。
特にコイツの炎はコールタールの様な粘着質な感情で編み上げた魔力を燃料として何時までも燃え続けるだろう。
粘着質な燃料を鞭の様に使い熟している。
巻き付いた片鎌槍は遠くに投げ捨てられてしまった……折角の特注品を、ぐぬぬ。
恐ろしいのは攻撃に感情が乗っておらず読めない事だ。
オマケに蛇系の霊でも降ろしてるのか追加で自動攻撃までしてくる。
得物が剣だと思わせ、その実鞭の間合いで飛んでくる攻撃は初見殺しもいいトコだ。
槍の間合いで更に広めに構えていたから何とかギリギリ反応できただけだ。
赤髪は余裕を持って追撃を放ってくる。
適当に振るだけで後は憑いた霊にお任せと言うシンプルでお手軽ながら実に有効な攻撃だ。
これは堪らぬと大きく後ろに跳ぶが鞭の間合いは広く、更に攻撃は伸びてくる。
掠める炎に炙られながら辛うじて攻撃を躱す。
だが鞭の間合いでも今の俺なら戦える。
闇の世界から鎖鎌を取り出し鎌首をもたげた炎蛇に鎖分銅を投げつける。
蛇と鎖が互いに絡まり合い刹那の綱引きとなる。
此方の手元は鎖鎌が、彼方の手元は炎蛇を纏いし剣が、伸びた鎖と炎を引き合い拮抗している。
双方手詰まり……たが俺にはまだ“手”がある。
両肩から生やした闇の手が握るは鉄礫仕込みの
赤髪も纏う炎を無数に増やして魔術を編み上げる……
が、遅い。
術の立ち上がりが同じでも此方は後は完全な物理攻撃だ。
恐らく肋が砕けてる筈だ。
ヤバい相手だった……特に初見殺しの炎の鞭に弾速の速い光魔術で援護射撃でも入っていたなら確実に詰んでいただろう。
恐らくはソレがコイツらの本来のパティーンだったのだろう。
“魔術師殺し”と言う完全メタな戦法を最初に選んでくれて助かった。
此方の呪術を封じると同時に呪術系炎術と言う強力な手札を封じたが故に、金髪戦では下手に手出ししなかったのだろう。
そして勝敗を分けたのは手札の枚数だ。
炎術は強力だし様々な応用も出来たのだろう……だが強力過ぎるが故に炎術の中での選択肢に囚われてしまったのだろう。
強力だが飽くまで魔術、感情を編み上げ魔力を編み上げるにはタメなり隙が出来る。
逆に瞬発的な攻撃力に欠ける闇術を、俺は単純な投擲の
結果はご覧の通りだ。
斃れていた赤髪がビクンと震え、その身体を黒い炎が包み込む。
見る見る変質し、封じてた良くないモノに憑かれ、存在が作り変わっていく。
事件の首謀者たる呪術師だ、それくらいの事はやって来るだろうとは思っていた。
パワーアップして第2ラウンド、どこまでもお約束を外さない野郎だ。
どす黒くヌメつく肌、一回りは余裕で超えて肥大した体格。
ゆっくりと立ち上がってくる下を向いたままの顔には人外の凶相が浮かんでる事だろう。
そして、起き上がりつつある黒いナニかを2本のジャベリンが貫いた。
反射的に上げた顔は凶相どころか黒いのっぺらぼうだったが明らかに「嘘だろ?」と言ってる風に視える感情が張り付いてる。
そして視界に入る俺を見て更に驚愕の感情に一瞬で染まる。
2本の槍で地面に縫い付けられた黒面は、人間の可動域を超えた首の角度で見上げている。
そこには2本の闇の腕を1本に編み上げた全長4メートルの豪腕が
俺の闇の腕が物理干渉出来る物には条件がある。
闇の魔力が浸透しきってる事が条件で、闇の世界に長期間晒す事で可能となる。
そして
縫い付けたジャベリンは芯の芯まで闇の魔力に馴染んだ付き合いの長い愛用品、一朝一夕では仕込めない秘蔵品だ。
そして今セットしてあるのは投げるには少々大きいが全体的に重量バランスの良いウィングドスピアだ。
片鎌槍を失ってから長きに渡り俺の
制御可能な最大出力を誇る最長の闇の腕と最大の質量を誇る投擲武器の掛け合わせは、今の俺の最後の切り札だ。
しかも角度は撃ち下ろし……条件として、これ以上は望むべくもない。
絶望に駆られて高速でイヤイヤする黒面。
だが、これで終わりなんだな。
調子に乗って変身シーンでお約束の“溜め”なんかするから先手を取られるんだ。
最後だけど覚えときな。
人は知恵に頼り経験に学ぶ生き物なんだよ。
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