第74話 呪術師と眩惑
展開していた呪術の闇が魔法の光により崩壊した。
纏う闇に込める魔力の密度を上げても片っ端から霧散していく。
辛うじて身体強化、そして片鎌槍の芯に通す魔力強化は生きている。
それ以外の呪術は封じられてしまった。
光は闇を祓う……絶望的に相性が悪い。
金髪は戸惑う俺に口角を吊り上げ、襲ってくる。
人を小馬鹿にした様な感情が視える……どうやら呪眼は使える様だ。
1合2合と刃を合わせるが一撃一撃が重たい。
勝っているのはリーチくらいだ。
槍を払われて間合いを詰められたら、きっと終わる。
基本に忠実に、槍を引いて構えに戻る事を重視する。
だがジリ貧だ。
いつもなら呪術によるデバフで相手が弱る長期戦は望むところなのだが今回はネタが無い。
浅くでも切るなり突くなり出来れば刃を通して呪術の一つも掛けられるのに妙に防御が堅い。
互いに防御主体の攻防が続く……下手に攻め込めばカウンターの餌食だろう。
だが牽制の剣戟は重たく地味に体力を消費させられる。
極力、刃を合わせず下段を中心に穂先を散らす。
赤髪の動きも無視できないので常に視野の内に捉える。
凝視せずにぼうと眺め、起こりにのみ反応する。
しかし何故赤髪は動かない?……動けないのか?
呪眼に映る魔力に動きは無く魔術を使ってくる様子も無い。
もしや金髪の放ってる光は呪術だけじゃなく魔術全般を無効化するのだろうか。
だがそれだけ強力な魔法なら消耗も激しい筈だ。
「ええい、忌々しい!これでも喰らえ!残・光・剣!」
焦れたのか突然叫び出し刀身の光を明滅させる。
ストロボの様な強い発光は残像を網膜に焼き付け、光を失った時に進む刀身の位置を誤認させる眩惑の剣だ。
こいつは本当に驚いた……戦闘中に技の名前を叫びながら使うとか
しかも御自慢の技なのかノリノリの感情が剣筋に乗っている。
つまりは呪眼で斬線が丸見えなのだ。
構えは陽、つまり敵に対して身体の前に武器を置く。
槍ではまず使われない構えだ。
眼前真一文字に捧げ持つ槍には突きにも薙ぎにも繋がる理が無い。
必殺の剣を躱されて流れた相手の身体の脇を、只通り抜けるだけの動き。
自慢の技を躱され、しかも出来た隙を突かずに無意味な行動を取られると言う二重の驚きに囚われている事だろう。
案の定、通り過ぎる俺を驚愕の表情で見送る金髪。
――――見たな、囚われたな。
スルリと撫でる様な距離ですり抜ける。
その距離で俺を目で捉えると穂先は視野の外だ。
俺の動きに追随して撫でる様に片鎌槍の枝刃が金髪の首筋を切り裂く。
陽の構えで隠した刃は眩惑の技に繋がる……奇しくも同じ発想の技だ。
視界の外からの攻撃は常に
撫でる様な優しい一撃でも刃先三寸入れば人は死ぬのだ。
赤髪も視界に収めたまま残心する。
金髪は光魔術の使い手だけあり回復魔法で傷を塞いでいる。
だがダメージは相当深いだろう。
頸動脈を切り裂かれたのだ、塞ぐまでの出血だけでも下手すりゃ致死量に届きかねない。
辛うじて止血出来た様だが、そこで意識を失い崩れる様に倒れた。
感情はフラット……狸寝入りでも無さそうだ。
魔術を阻害する光が絶えたので早速闇を纏う。
呼応する様に赤髪も炎を纏う……熱く無いのか?
「“
……その“
「ならば今度はこの俺、“潰えぬ炎”サイモンが相手になってやろう」
どうやら二つ名の様だ。
そして自分で自分の事二つ名で呼んじゃうタイプみたいだ。
ビジュアル系バンドマンっぽいポーズを取りながら纏った炎を更に燃え上がらせる。
この魔力の編み上げ方は……呪術系炎術!
魔剣士じゃ無くて呪術師だったのか。
一筋縄じゃ行きそうに無い相手だ。
こいつは
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