第73話 領主の胸中
魔の森を目の前にした
冒険者上がりの騎士爵に
誰にも期待されず、生かさず殺さず……最悪死んでも問題無いくらいの扱いだ。
まずは少数精鋭で事に当たった。
冒険者時代の仲間である狩人のヤッシャーに陣頭指揮を執ってもらい、周辺地域を徹底的に調査した。
すると不思議な分布図が出来上がった。
魔物が近寄らない
原因は魔物忌避剤の材料になる特殊な植物の亜種だった。
亜種故なのか特定地域でしか育たないとされていた植物が、この地で自生していたのだ。
同じく仲間の薬師フェタが栽培に成功すると独特の色と匂いのする緑地帯で魔の森を囲い込んだ。
そうして何の捻りもなく“フロンテア”と名付けた開拓村を縄張りして立ち上げたのだ。
ヤッシャーとフェタを呼び水にして
危険と隣り合わせではあるが豊かな森と、人の手の入っていない肥沃な土地と豊かな植生は
そしてそれはそのまま村の可能性そのものであった。
やがて村は町となり、政策的に保護・育成した
更には鍛冶ギルドや食品ギルドを立ち上げ領民の生活向上を図り農業・畜産支援にテコ入れして
そして
魔物が忌避する成分を発する天然の逆茂木だ。
悲願であった魔の森の封じ込めに成功したのだ。
だが好事魔多しと言うべきか予想も付かなかった事が起きた。
ようやっと安定した軌道に乗ったと思われたところに、魔の森にて
冒険者と商人が流れ込み、街の拡大が加速した。
望んだ以上の発展に追い立てられる日々を強要された。
やがて領地運営の功を認められ、騎士爵から男爵へと
そう、陞爵してしまったのだ。
内定を
我が領地は冒険者上がりの男爵風情には不釣り合いな程に発展してしまったのだ。
私を信じ、捧げられた血と汗が染み込んだ土地を他人に渡したくは無かった。
そこに救いの手を差し伸べたのは、各ギルド誘致の際にも口利きしてくれたナーキ伯爵だった。
もちろん単純な善意などでは無い事は重々承知している。
私は伯爵の属する派閥に名を連ねる事で転封の危機を乗り越えたのだ。
清濁併せ呑むつもりで受けた派閥入り、そこで伯爵より受けた使命は“健全な領地運営”だった。
肩透かしを食らった気分だが、木っ端男爵が片田舎で
国全体で見れば、中央で飛び交う利権と比べようも無い小さな案件に過ぎない。
伯爵は「掘り当てた本人が健全に運営してる前例」そのものが派閥の武器になると
何であれ有り難い事には変わらない。
その伯爵が難病を患い、片田舎である我が領地へ身を寄せられる事となった。
だが魔の森を抱える片田舎は治療に必要な希少植物に事欠かない。
都合の良い事に最近は腕の良い流れの
信頼のおけるフェタの調合に期待が高まる。
だが一向に回復の兆しが見えて来ない。
高位回復魔術師にも繋ぎが取れず八方塞がりだ。
そんな中で麾下の魔術師ダル・ソーレから森の深層を荒らしていた原因を探り当てた者が居ると言う話を聞いた。
聞けば我が騎士の一人、シャリーの恩人でもあると言う。
何らかの足しにと手配を許可したが、なんとアッサリと
鮮やか過ぎて怪しいくらいだが、ダル・ソーレは非常に理路整然とした呪術の薫陶を受けたそうだ。
コイツの質問地獄を乗り越えるとは本当に知恵者なのだろう。
お陰で原因は取り除けた。
だが伯爵の身体を蝕んでいたモノは既に手遅れな状態まで進行していた……そして八方塞がりなのは変わらない。
たが又もやダル・ソーレは呪術を祓える人間に心当たりがあると言う……例の知恵者だ。
最早、藁にも縋る思いで任せてみたが本当に肝が冷えた。
真摯に事に当たってくれてるのは確かなのだろう。
だが、男が何かする度にナニかがやって来る。
正に百鬼夜行だ。
しかも日に日に増えている。
本当に良かったのか判断に迷ったが、当の伯爵本人は快癒して賑わっていた人外のモノは跡形も無く消え去っていた。
伯爵に何か粗相は無かったか尋ねたら「存外、面白いモノが見れた。フロンテアに来て良かった」と
ヤーンゴット・ナーキ伯爵の命を救った男には大きな借りが出来た。
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