第71話 呪術師と自分探しの旅


 俺は自分探しの旅に出る事を検討した。


 その前に狩人ハンターギルドで納品やら報告しなくては。

 何せ長期出張から帰って来たその足で冒険者ギルドに潜入したからな。


 手早く変装を解いて狩人ハンターギルドに向かう。

 酔った勢いで買った変装セットが役立ってしまったよ。




「なんじゃ、指名手配されとったんじゃ無かったのか」


 開口一番おやっさんにツッコまれた。

 俺は一瞬、目眩を覚えながらも“陽炎ミラージュ”なんて二つ名とは一切関係無い旨を懇切丁寧に説明した。


 そんな事よりも今迄の依頼を経て、希少植物の植生について色々と調査依頼が来ていたのだ。

 特に魔の森深層に生息している植生の相関関係についてだ。


 あんな所までホイホイ足を運ぶ人間は貴重らしく、ほぼ俺専用クエストみたいになってるらしい。

 今となっては深層を彷徨うろつくくらい何て事も無いので引き受けた。


 特に珍しい食材になりうる植物の情報は、こちらとしても大歓迎だ。

 依頼を受けるに当たって、過去の植物プラントハンターが持ち込んだ実績から期待される資料まで閲覧する事が出来た。


 斯くして俺は、自分探しでは無く植物探しの旅に出る事にした。

 まずは街で何日間か目当ての植物に関する文献を調べてからだ。


 また長い事、森に籠もる事になりそうなので食材やら道具類を買い込む。

 人里にいる間の楽しみとして街グルメの新規開拓にも欠かせない。


 そうして魔の森深層調査↔フロンテアの往復生活が始まった。

 街の活動には冒険者ギルドでの噂話を仕入れる事も忘れない。


 魔の森深層の調査は何日間にも及ぶ事もあり、長期的スパンになるのだが面白い事が判明した。

 俺が現れた場所に数日後、“陽炎ミラージュ”探しの冒険者が現れてる様なのだ。


 俺はソロだからこそ深層を目立たず歩き回れるが、パーティを組んでいてはそうは行かない。

 毎度何らかの被害が出ており骨折り損のくたびれ儲けになっているそうだ。


 街でも定期的に市場で聞き込みが発生しており、禄に買い物もしないくせに団体で人探ししてる連中は妙に浮いてるらしく店にも客にも邪険にされてるそうだ。

 そりゃそうだ、俺は怪しい“陽炎ミラージュ”なんかじゃなく顔を出せば結構な量を買って行く“お得意様”なんだから話を聞くだけ無駄ってもんだろう。


 魔の森深層に出発する前日には市場を見下ろせる2階席のある飲食店で優雅にお茶するのも密かな楽しみになった。

 上から見ると“陽炎ミラージュ”探索隊が浮いてるのが良く分かる。


 中には通報を受けて衛兵を呼ばれてる連中まで居る始末だ。

 一時期スリやタカリが流行ったお陰で衛兵さんの対応は早いのだ。


 街中では観察できるけど、深層で“陽炎ミラージュ”探しをしていた連中は果たして無事だったろうか。

 トリュフ系キノコの調査依頼だったので、それらを好物とするアーマードボアの縄張りド真ん中だったからなぁ……


 野生動物は食い物関係に関してはガチ寄りのガチだ。

 不用意に餌場へ土足で突っ込む様な真似は流石にしてないよね?とか思ってたら案の定、何人か大怪我して帰って来たそうだ。


 情報提供者のヤスに「アニキ!笑顔が怖いッス!なんか黒いッス!」とか言われたけど何の事やら。

 各種ハーブと醤油で仕込んだ特製の干し肉を進呈しよう。


 魔の森深層は文字通りの魔境だ。

 そこには様々な危険が存在している。


 泥濘ぬかるんだ足場で足跡を追う事に気を取られてると底無し沼にハマる事になるだろう。

 擬態して待ち受けてる昆虫類は対処を間違えると文字通り命取りだ。


 催眠効果のある花粉を撒き散らす植物も存在していれば、それと共生してる肉食生物もバリューなセットで存在している。

 何より深層の魔物はタフで強い。


 ただ生き延びるだけでもハードル高いのに人探ししながら散歩する様な場所じゃあ無いんですよね。

 何時まで気力と体力が続くかも密かに俺の中での流行の話題ホットなトピックだ。


 大体、あんな焦りと疲れと諦めと言った独特の感情を放つ集団に呪眼持ちの俺が気づかない筈が無い。

 謂わば鈴を着けた猫に追われてる様なモノだ。



 つまり吾輩、逃走チュー。



 

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