第70話 呪術師と指名手配


 俺が指名手配されていた。


 久々に街に戻ると顔見知りの衛兵から、そう告げられた。

 身に覚えが無いし、告げた衛兵も指名手配犯相手に随分と落ち着いてるので数瞬フリーズしてると補足が入った。


 公的な指名手配では無く、冒険者ギルドの掲示板で大々的に“探し人、俺”と張り出されてるらしい。

 なんだそれは?と肩透かしを食らった気分だが、よくよく聞けばそう簡単な話では無いらしい。


 内容としては“人探し”と言った形になるのだが、依頼の掛け方がそう言った形を取った敵討ちの情報収集に使われる符丁なんだとか。

 誰がそんな物騒な真似をしてくれてるのかと言うと、余所者のA級冒険者らしい。


 それも一連の“呪術師狩り”の重要参考人として俺をご指名だそうだ。

 意味が分かりません。


 そもそも本来の“呪術師狩り”は呪詛返しを喰らったと思しき身体的特徴を持った人間を対象とした逮捕劇であり、冒険者ギルドとは何ら関係無い事件だ。

 それがあたかも冒険者が必死に対応しなければならぬ事件にまで発展してるかの様にうかがえる。


 ちなみに冒険者が“呪術師狩り”で捕まえた下手人を衛兵に引き渡した実績とかあるのか聞いたら「そんな話は聞いた事が無い」そうだ。

 ますます実体の無い事件としか思えない。


 それとも冒険者達が騒いでる“呪術師狩り”とは全く別の事件なんだろうか。

 それならまだ多少は納得出来るが……そんな事が果たしてあるのだろうか。



 ――――――――



 そんな訳でやって来ました冒険者ギルド。

 お呼びとあらば即参上!


 な〜んて無謀な真似はせずに、よろず屋スミス謹製“変装セット”で見た目を変えて潜入で御座います。

 伸ばした前髪で片目を隠すキザったらしいウィッグに派手なイヤーカフ、使い込んだ背嚢バックパックを背負い腰には剣を吊っている。


 旅の垢も落とさずに施した偽装により、何処からどう見ても流れて来た冒険者の出来上がりだ。

 脂身の多い干し肉をガム代わりに咀嚼して絶えず顎のラインを動かす事で顔つきの印象も変える念の入れようだ。


 そしてくだんの依頼書とやらを閲覧中なぅ。


 

 〜〜〜〜探し人〜〜〜〜

 “陽炎ミラージュ”のリオン

 

 昨今、世間を騒がしたる事件に深く関わる者として事情聞き取りしたく捜索を願う。

 情報提供者にも金一封有り。




 依頼人:光の剣  

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 何ともシンプルな内容だけど、殆ど容疑者扱いだよなぁ。

 最後の空欄とか明らかに“生死不問デッド・オア・アライブ”の一文が入るトコなんだろ?


「よぉ、兄さん!見ない顔だが“呪術師狩り”に興味があるのかい?」


 興味津々と言った風に依頼書を眺めていると釣れた。


「なんだい?その“呪術師狩り”ってぇのは?」


 今の俺は、魔の森を抑えて迷宮ダンジョンも抱えた右肩上がりのフロンテアに引き寄せられた冒険者ジョンだ。

 迷宮ダンジョン関連のを探しに来たら、何やら面白そうな事に興味をひかれたって設定。


 話を聞くと俺が長期出張してる間に“呪術師狩り”を仕切る様になったのがA級冒険者パーティ“光の剣”らしい。

 何やらどこぞの貴族の肝いりらしく、聖騎士と魔剣士の二人組なんだとか。


 義によって世を騒がす呪術師を征伐せんと立ち上がる有志を集ってるらしい。

 金払いも良く、それに釣られて話を合わせてるだけの連中も多いのだが見た目ではフロンテア冒険者ギルドの一大勢力らしい。


 うん、下らないね。

 正義感で頭沸いてる“主人公ドリーマー”か小銭を撒いてお山の大将気質の“兄貴タフガイ気取り”のどちらかの様だ。


 何処で俺の名前を挙げた馬鹿が居たのか知らないが“リオン”なんて異世界ラノベではありふれた名前だ。

 俺は詳しいんだ。


 それに俺は“陽炎ミラージュ”なんかでは無い。

 誠に不本意ながら“一撃ザ・ブロウ”だったり“滝壺落とし”だったり、最近では“掃除屋スイーパー”から“見えざる掃除屋インヴィジブル・スイーパー”に昇進傷心したばっかりなのだ。


 だから探してるのは俺じゃない。

 ウン、理論武装完了。


 大体、人探しを他人任せにしてる時点で冒険者としてアレなんだろう。

 人探しの前に自分探しとかを適当にお勧めしてみたい。



 俺も自分探しの旅に出ようかな……



 

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