第69話 呪術師と陽炎


 集団暴行犯群れ成すバカを一掃したら変なアダ名を付けられた。


 自分、二重の意味で被害者なんですけど泣いていいですか?

 それはさておき“呪術師狩り”が佳境に入ってるらしい。

 


 他の街から流れて来た連中が主動となって呪術師を狩ってるらしい。

 中には返り討ちに遭ってる連中も居るらしく冒険者側にも被害が出ているそうだ。


 そしてとうとう呪術師側の頭領“陽炎ミラージュ”一人になるまで追い詰めたそうだ。

 だがコイツが神出鬼没のクセモノらしい。


 普段は魔の森深層に隠れ棲んでいて、森深くまで侵入した冒険者を襲うらしい。

 かと思えば街に入り込み冒険者に奇襲を掛けたりしてくる。


 実は、とある貴族に呪いを掛けた張本人で貴族側も躍起になって探してる。

 故に極秘密裏に捕縛しなければならないので表立った依頼として出ていない。


 最近、街の治安が良くなかったのも“陽炎ミラージュ”による欺瞞工作だった。

 中には巻き込まれて被害を受けた冒険者まで居るらしい。


 足や股が痒くなるのも“陽炎ミラージュ”の仕業だ。

 腹を下すのも“陽炎ミラージュ”による“見えない攻撃”に違いない。



 以上が酒場で聞いた話だ。

 カウンターの隣に座っていた冒険者と思しき二人組が熱く語り合っていたのだ。


 “陽炎ミラージュ”って誰デスカ?……

 認めたくは無いが、どう考えても俺の事の様だ。


 だけど身に覚えの無い事まで俺のせいにされてる?

 微妙に本当の事も混ざってるから始末が悪い。


 だけど色々無理のある話ではあるんだよなぁ。

 そもそも呪術による犯行の容疑者である“呪術師”を捕縛していたのは領主主動の衛兵達であり冒険者達ではない。


 もし冒険者に協力を仰ぐのなら正式な依頼をする訳で、それが無い時点でかなりの眉唾ものだ。

 何より余所者が主動しているってのが意味が分からん。


 冒険者側にも被害が出ていると言う話も首を傾けざるを得ない。

 俺が衛兵に突き出したのは集団暴行とスリの現行犯だけだ。


 じゃあ誰が冒険者を襲っている?

 まさか森の魔物相手にしくじったのまで計上してないよな?


 それに伯爵様に呪術を掛けていた実行犯はとっくに死んでいる。

 死亡現場の宿屋に泊まってコッソリと御祓いした時に呪詛返しの痕跡を確認したんだから間違い無い。


 勿論、実行犯と首謀者は別人なんだろうけどフロンテアの冒険者をマトにかける意味が分からない。

 噂が噂を呼んだ上で出来上がった都市伝説なら分からない事も無いが、声高に“呪術師狩り”を宣言して主動してる冒険者も居るらしい。


 色々とキナ臭い話で陰謀っぽい意図も見え隠れしている。

 そんな訳で噂の渦中の人物となっているらしい俺は……



 ――――華麗にスルーする事にした。



 好奇心猫を殺す、君子危うきに近寄らずとも言う。

 そんニャ面倒事は真っ平御免だ。


 塩花の標本サンプルとか糖蜜樹の実の採取依頼が入ってたりと色々と忙しいのだ。

 塩の消費も想定以上なので補給のに熟す予定だ。


 スポーンエリアまで足を運ぶならマッシュをフェアリーサークルの集会に連れてやって行きたい。

 何よりあそこらへんの野生動物はスレて無いから狩りも捗る。


 それにチーズ生産の村に顔を出す時期も近づいている。

 この時期は白カビチーズの仕込みらしくフェタ婆さんにお呼ばれされてるのだ……先に顔出した方が良いかな?


 他にも希少植物を納品した実績からか簡単な調査依頼も来ている。

 その中に興味が無かったから気にして無かったんだが糖蜜樹の近くには希少な香木が生えてる可能性があるんだそうな。


 今度のスポーンエリア散策は長期滞在になりそうだ。

 先にフェタ婆さんとこに顔出すか。



 ――――――――



 そんな感じで割りと充実した狩人ハンター生活を送っていた。

 そして長期出張から街に帰ってくると……



 俺が指名手配されていた。



 

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