第68話 呪術師と風の噂


 絡んで来たチンピラを撃退した。


 少々キツめに締めたので学習して欲しいものだ。

 口で言って分からなければ身体で言い聞かせてやるしか手は無いからなぁ。


 だが街の雰囲気が良くないのは相変わらずだ。

 街でも森を歩く様に、ごく自然に闇を纏う様になった。


 流石に光学迷彩仕様では無く霞を纏う程度だが、変な視線を躱すには十分だ。

 買い物する時には驚かせてしまうから解く様にしてる。


 そんな事を繰り返してたお陰で闇を纏うのもオン・オフでは無くシームレスに纏える様になった。

 多分周囲からは気づけば最初からそこに居たようで、去れば気づかぬ内に煙の様に消えている感じにに認識されてるだろう。


 つまりは意図的に俺と接触しようとすれば定期的に訪れる狩人ハンターギルドに言付けるか市場でも張らなければ見掛ける事すら難しい。

 だからなのであろう、市場で抜き身の十数人に囲まれた。



 目に付いたのは先日の4人。

 何処となく内股気味でへっぴり腰だ。


 呪眼に映る感情はおびえと虚勢、残りの連中は視るまでもなく下卑た表情をぶら下げている。

 要するに仲間内で引くに引けなくなってのリベンジなんだろう。


 口上は聞くに堪えない。

 メンツがどうだナワバリがどうだとキャンキャン騒がしいだけだ。


 下らない。

 獣だって一度格付けが済めば腹を見せてくるのに、日を空けずに数を頼んで噛みついてくるとは獣以下だ。


 つまりコイツらは四足歩行けものでも二足歩行ひとでもない半端者の集まりだ。

 武器を交える価値も無い。


 

 煙幕の様に周囲に闇を展開する。

 霞と朧をブレンドした陽炎かげろうは絶妙な目隠しとなる。


 両肩から生やした闇の腕の長さは制御しやすい2メートル、その手が持つは最早長年の相棒である投槍器ウーメラ二刀流。

 芯の芯まで闇の魔力が馴染んだ愛器は闇の手による物理的干渉が可能になり、扱う事が可能になった。


 投槍器ウーメラとは基本的に腕よりも長いリーチを稼ぎ加速させる道具だ。

 つまり素の腕より長い闇の腕で更にリーチを稼げば、その分だけ純粋に速度が上がり破壊力が増すのだ。


 目を凝らしても揺蕩たゆた陽炎かげろうから飛び出す弾丸の様な鉄礫は、見てから躱すのは至難の技だ。

 不可避の弾丸は容赦無く、正確に標的の身体に喰らいつく。

 

 投擲する度に投槍器ウーメラを闇の世界に戻すとマッシュが鉄礫をセットしてくれてる手筈になっている。

 結果として秒間1発以上の弾幕が形成される。


 詠唱も弓を引く動作も必要無い連射は戦場で矢雨に晒される以外では、そうそう経験できるものでも無いだろう。

 胴に一発、足に一発と正確に撃ち抜くと陽炎かげろうを祓う。


 視界には死屍累々と倒れるチンピラの群れ。

 後は端からしていくだけだ。


 今度は手加減無しの痛みペインを脳に流してやる。

 神経を介する肉体の痛みでは無く、脳へのダイレクトな純粋な痛みの信号だ。


 お仕置きなんて生易しいレベルは期待してくれるなよ?

 再起は不可能だと思ってくれ。


 施術すると身体中の穴という穴から様々な液体を垂らしながらビクンビクンと震えている。

 生体反応があるって事は生きてるって事だ、精々感謝しろよ。


 鉄礫は汚れる前に回収してある。

 大量に仕入れてるが無料ロハじゃあ無い、コイツらには勿体無いくらいの高級品だ……確か一つ数百マールだったかな?


 全員に処置完了した頃に衛兵さん達が、押っ取り刀でやって来る。

 今回は衆人環視の中で武器を抜いて囲んでたのは確定的に明らかなのだ。


 目撃者多数なんてもんじゃ無いので事情聴取も非常に簡単なものだった。

 ただ「掃除屋スイーパーが公衆の場を汚すなよ」と悪態を吐かれてしまった……解せぬ。




 その後、風の噂で冒険者ギルドの誰かが俺を探してると言う話を聞いた。

 用があるなら話しかけてくるだろうから放置してるけどな。


 街を出入りする度に顔馴染みの衛兵から「犯罪者でも無い人間を足止めしといてくれなんて馬鹿を言う奴がいて困る」と愚痴られる。

 オマケに呼び名が“見えざる掃除屋インヴィジブル・スイーパー”にランクアップしていた。



 解せぬ。



 

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